山を見るだけで、鼻がムズムズしてきます……(写真はイメージです)

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今年もまた、憂鬱な季節がやってきた。

今では完全に国民病になっている「花粉症」。
今年は昨年に比べて飛散量が少ないと予測されているが、「今年の花粉は昨年の○倍」などという数値を報道で目にするたび、「このままいくと、将来的に数十倍〜100倍なんてことにならないか」と不安になってしまう。

実際、昔に比べてどれだけ増えているのか。公益財団法人日本アレルギー協会に聞いた。

「花粉飛散量は、夏の気温や日照時間など、気象条件に左右されるため、多い年もあれば少ない年もありますよね。『昨年の○倍』という年がある一方で、『昨年よりも少ない』というときもありますので、年々増え続けているわけではありません」

私たちが報道で目にし、ギョッとするのは、「昨年の○倍」「例年の○倍」という数字。それがことさらに印象に残るため、年々増加し続けている気がしてしまうのかもしれない。

実際、『花粉症環境保健マニュアル2014年』(環境省)を見ると、地方別スギ・ヒノキ面積(林野庁業務資料2012年/1970年・2000年農林水産省世界農林業センサス)は、1970年から2000年にかけて特に東北で増加、全国的にも増加傾向がある一方で、実は2000年から2012年にかけてはほとんど増えておらず、むしろ減っている地方もある。
「ただし、花粉飛散量はスギの面積に必ずしも比例していないんですよ。近年は花粉が飛ばないスギも増えてきていますしね。また、スギ面積は東北に圧倒的に多いですが、東北は下が土のところも多いので、いったん落ちた花粉がもう舞い上がらない。でも、関東は下がコンクリートなので、1回落ちてもまた風で舞い上がるんです。実際に空中に舞っている花粉量は、関東がすごく多いんですよ」

『花粉症における予防・治療に関する研究報告書.平成2年度厚生省報告書』(西間三馨ほか)にも、「スギ花粉の場合、上空まで上がり長距離を移動して大量の花粉を北海道北部、沖縄を除く日本全土に飛散させる。もちろん花粉飛散数が増加すると花粉症の発症も増加し、すでに発症している人の症状は増悪する」という報告がある。
つまり、スギ花粉は風で長距離移動する性質を持つだけに、「スギが多い地域=花粉飛散量の多い地域」というわけではない。

また、スギ花粉症の全国調査報告は非常に少なく、正確にはわかっていないそうだが、全国の耳鼻咽喉科医とその家族を対象にした2008年(1月〜4月)の鼻アレルギーの全国疫学調査では、アレルギー鼻炎全体の有病率は39.4%。花粉症全体の有病率は29.8%で、スギ花粉症の有病率は26.5%。
1998年に行われた同様の調査をもとに考えると、スギ花粉症の有病率は10年間で約10%増加していると考えられるという(『花粉症環境保健マニュアル2014年』)。
「花粉症の歴史は、1819年にBostockによってイネ科の花粉症がはじめて『hay fever』と診断され、日本では、1963年にブタクサ花粉症が、次いで1964年にスギ花粉症がはじめて報告されています」(堀口申作、斎藤洋三『栃木県日光地方におけるスギ花粉症 Japanese cedar pollinosisの発見』より)

さらに、スギ花粉が急激に増えたのは、昭和50年代。
背景には、戦中戦後に多くの木が切られ、山林が荒廃したことによって、昭和20年代後半から全国の山林に大量のスギが植林されたこと。スギは樹齢25〜30年頃から大量の花粉を飛ばすようになることがあり、昭和50年代にスギ花粉飛散量が急増し、患者数も急増したと言う。

実際には体内にIgE抗体が蓄積され続け、ある日発症するわけで、花粉飛散量が年々増え続けているわけではないのだが、それでも「例年の○倍の花粉」というのはやっぱり恐ろしい数字です。
(田幸和歌子)