「ばっかも〜ん!!」(画像はイメージです)

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「ばっかも〜ん!!」
このセリフ、先日亡くなられた永井一郎さんの声で、脳内再生された人は多いのではないだろうか。

頭から降ってくる怒鳴り声と、火鉢ごしの正座、ガミガミの長いお説教。『サザエさん』の、波平とカツオ親子の定番のやりとりだ。

波平がカツオにばかり厳しいという指摘は多く、「自分がカツオだったらグレる」などとときどきネット上で呟かれ、かつて新聞の投書欄にもカツオが可哀想だという意見が掲載されたことがあったほど。
その理由には「カツオのためを思ってのこと」「長男で期待しているから」「カツオの性格を把握しているから」「怒られるカツオの性格・言動に問題がある」説など、様々な意見があるが、ともあれ、「波平=雷親父」というイメージを持っている人は多いと思う。

だが、実は波平の説教はアニメでの登場頻度が多いだけで、原作マンガにはあまり登場しないことをご存じだろうか。

カツオには説教しようにも、うまくごまかされたり、むしろ甘かったりすることもある。波平の意外な面をいくつかご紹介したい。

●波平によく説教されているのは、むしろサザエの印象。サザエの行儀が悪いことや、おっちょこちょいなこと、お転婆なことを注意する場面は多数見られる。

●波平は、けっこうドジっ子
・電車の中で「ねむかったら おとうさんによりかかってねなさい。ねていいよ、ついたらおこしてあげるから」と言いつつ、自分が爆睡。「おとうさん! つぎおりるんだよ!! これだからねてもいられないや」とカツオを慌てさせる(『よりぬきサザエさん 3』朝日新聞出版)。
・炎天下帰宅すると、庭が散らかり放題。玄関のゲタをみて「だれだ こんなゲタのぬぎかたをしたの!!」と怒鳴るが、実はメートルけんさの職人さんだった……(『よりぬきサザエさん 3』)

●実は説教下手
・サザエに、「おまえはどうもおちつきがたりん」と説教。「昔の金言にも 目は人間のまなこなりとゆうことばがある」と言い、「いやだ……目は心のまどでせう」と言葉の間違いを指摘されてしまい、二人で爆笑→フネさんに「あなた もっとちゃんとしつけをなさらなきゃだめぢゃありませんか」と説教される(『サザエさん 第二巻』姉妹社)。
・カツオを叱らなければいけない場面で、フネに「だからガミガミおっしゃっても こうかはないのよ」と耳打ちされ、サザエもまじえて3人で作戦会議。カツオのせいせきひょう片手に、火鉢にあたりながら、静かに説教する場面がある(『よりぬきサザエさん 2』。
・「きょうというきょうは ぜったいにおとうさんはゆるさんぞ」と叱り、泣きだすカツオ。「もうゆるさんっ! おもてにだしてしまう!!」と言うと、ますます号泣するが、そこでサザエを別室に呼び、言う。「きのきかんやつだ はやくとりなさんか!」(『よりぬきサザエさん 1』)。実は泣いているカツオが可哀想でならないのだった。

●カツオの才覚を認めている
・見知らぬ若い男性と、カツオと、3人でベンチに座る波平。男性のもとに彼女がやってくると、カツオが立ちあがり、波平にも「おとうさん!!」と促す。「おまえ ものわかりがよすぎるぞ」とカツオの頭を撫でながらその場を立ち去る波平。カツオの気がきくことは、波平がいちばんよく知っている(『よりぬきサザエさん 3』)

●実は子供にデレデレ
・「こんやはおとうさんといっしょにねよう」と言って、布団にもぐりこんでくるカツオと、寄り添って寝る。翌朝、嬉しそうに「ハハハハ ひさしぶり がっきしけんのゆめをみた」と笑う波平に、カツオは沈んだ様子で一言。「ボク ていねんのゆめみちゃった」(『よりぬきサザエさん 3』)
・帰宅しない子どもたち。「こんなにくらくなって! しょうがないなァ」と、家の電気を引っ張り、窓の外を照らす。そこには紙芝居屋がいて、楽しそうに眺めるカツオ、ワカメの姿もあった(『よりぬきサザエさん 2』)

●カツオの宿題をたびたび手伝っている
・秀才風の同級生と公園で宿題の答えあわせをするカツオ。合わないことで「おかしいなぁ」と呟き、帰宅してから、「もういっぺん よーくけいさんしてごらんよ」と不敵な態度でカツオが言う相手は、ノートと鉛筆、分度器を傍らに頭をひねる波平お父さんだった(『よりぬきサザエさん 2』)

これらはごく一例に過ぎないが、実際、原作では、カツオが「ばっかも〜ん!」と怒られるシーンはあまりない。
原作に比べてアニメでカツオが怒られるシーンが多い理由には、ストーリーの起点がカツオとなるケースが多いこともあるだろう。
原作ではサザエさんが買い物をしたり、習い事をしたり、ときには仕事に出たり、近所の人とやりとりしたりする話が多いのに比べ、アニメはカツオきっかけで始まる話が多いからだ。
人間関係も、カツオと学校の先生や友達・その家族などを軸に広がっている部分は多く、これはホームドラマ路線であることや、季節を取り入れるにあたって「学校」を描くのが便利だということもあると思う。

ともあれ、みんなが思うほど、カツオは波平に怒られていない。ご安心を。
(田幸和歌子)