『ちょこっと折るだけでカワイイおりがみ手紙』

写真拡大 (全3枚)

仕事中、要件を伝えたい相手が不在のとき、メモを書いておいて相手の机の目立つ所に置いておくという行為は、よくあるだろう。その際、筆者は無地のそっけないふせんを愛用していたのだが、『ちょこっと折るだけでカワイイおりがみ手紙』(著者:mizutama/ブティック社)
という本をきっかけに、おりがみ手紙を使うようになった。

学生時代、こった手紙の折り方が得意な友人がいた。たくみに折り目を付け、かわいらしいおりがみ手紙にして渡してくれた思い出がある。なんてことはない手紙の内容も、かわいく折られたものだと何倍もうれしく思えた。

無地ふせん実用主義にまみれていた私にとって、本書は非常に新鮮で癒された。おりがみ手紙は折って満足で終わらないところが良い。あくまでそれは「手紙」であり、読んでもらうまでがミッションだからだ。キノコやリボン、キャンディなど、モチーフの再現性が高くて本当にかわいい。著者のmizutamaさんが紹介するかわいい文字の書き方や、文章をラインで囲む装飾の仕方も目からウロコである。

実際にやってみたら、おりがみを折るということは慣れない人にとって予想以上に頭を使う作業だと知った。「中割り折り(※2枚に重なっている部分を開き、内側へ向かって折ったあと再び閉じる折り方)」を理解し実践するまで30分近くの時間を要した。普段使わない部分の脳みそを使い頭が柔らかくなった気がする。また、何と言っても1枚を折りきったときの達成感がものすごい。

自慢じゃないが私は鶴が折れない。どうしても途中で「君は何が作りたかったんだね?」と問いたいありさまになる。小学校低学年の頃のおりがみの時間は皆と同じように楽しんでいた気がするから、その技能は物心がつくと同時に教室に置いてきてしまったのだろうか。

普段からこうした作業に慣れている方にはたわいもないことかもしれないが、私にとっては壮大に大変な作業となった。努力の甲斐あってか、この本に載っているいくつもの形を折ることができるようになった。

実際に渡してみるという最終ミッションは会社で挑むことにした。

残業している方の机に、キャンディと共にメッセージを書いたおりがみ手紙を置いた。本当はカップケーキやキノコなどのこった形にしたかったが、折る時間が思ったよりかかったため、簡単でかわいい『えんぴつ』にし、気持ちを込めさせていただいた。簡単でも達成感は変わらない。

そのお礼として「アメちゃんありがとう!」といただいた言葉は、今までただメモやアメを渡しただけのときよりも数倍うれしく感じた。おりがみ手紙で作る「えんぴつ」は大の得意になった。

出版元であるブティック社の井上さんに本書の出版経緯をお伺いしてみた。

「学生の頃、手紙をいろいろな形に折って、クラスの友達に渡すのが流行していたのですが、最近になって再度そのブームがきているという情報をキャッチしました。人気作家のmizutamaさんなら、新しいおりがみが生まれると思い、依頼したのがきっかけです」

やはりみなさん学生時代におりがみ手紙を通っているのだなあ、とうなずいた。この本ではかつて見たことのなかった新しい折り方がたくさん紹介されている。井上さんにお気に入りのおりがみ手紙の形を聞いてみた。

「気に入っているのは、『ひょっこりパンダ』のおりがみです。借りた本や書類を返す時に、折ったパンダの手をひっかけると、パンダがひょっこり顔を出してかわいいです。『貸してくれてありがとう』などの言葉を添えて、ぜひ使ってみてください。また、『こけし』も気に入っています。残業で大変そうな同僚の机に、折ったこけしを立てて『先帰るね、がんばってね』のメッセージとアメを、こっそりプレゼントするのがおすすめ。そんなちょっとした気遣いが心なごみますよね」

さすが本書を担当された井上さん、おりがみ手紙をすてきに活用している。『ひょっこりパンダ』は本当にかわいく、ひっかける手の部分が有能で可能性は無限大だ。そして「先帰るね、がんばってね」の言葉が心にしみた。弱っているタイミングであればそんな風に書かれたおりがみ手紙が机に置いてあったら感動して泣いてしまうかもしれない。

「お疲れさま!」の思いはSNSやメールでも届くだろう。利便性も良いし、見返すこともできる。けれどもおりがみ手紙がもたらすような思いの「形」や物質的なほっこり感、メッセージを書くときや折るときの高揚感はない。

これはとても気持ちの良いものだと思った。おりがみはまだ残っている。また時々おりがみ手紙を出したいと思う。
(鎌戸あい/boox)