桐生第一vs霞ヶ浦 悲願の霞ヶ浦と1年生集団の桐生第一の一戦！
上野 拓真（霞ヶ浦）
悲願の霞ヶ浦と1年生集団の桐生第一の一戦！
関東大会開催県の茨城は、残すところ1位の霞ヶ浦しかいない。シード校として学校、茨城県民の期待を背負った霞ヶ浦ナイン。霞ヶ浦は全校応援で一般の生徒も詰めかけていた。期待が大きい分、重く感じる試合である。なぜそんな重い試合なのかというと霞ヶ浦の過去の戦績を振り返れば、惜しいところで甲子園を逃している。
07秋関東大会準々決勝 0−4 聖望学園08夏茨城大会決勝 2−3 常総学院10夏茨城大会決勝 0−11 水城10秋関東大会準々決勝 5−6 横浜11夏茨城大会決勝 5−6 藤代12秋関東大会準々決勝 4−5 宇都宮商13夏茨城大会決勝 2−4 常総学院
地元の水戸市民球場。一つアウトを取れば歓声が沸き、フライを上げようならため息が流れる。一つ、一つのプレーで観客がはっきりと反応を示す。霞ヶ浦にとっては勝たなければならないプレッシャーに加え、それが物凄いプレッシャーになっているように感じた。
霞ヶ浦の相手は桐生第一。1999年に全国制覇を果たした群馬県を代表する強豪校だが、2008年夏以来、甲子園が遠ざかっている。そんな桐生第一は18人のうち13人が1年生。そして180センチ超える選手が4人いる大型チームである。復活の呼び声が聞こえるが、1年生中心ということでフレッシュさを感じるチームである。
悲願の甲子園の期待がかかる霞ヶ浦と怖いもの知らずの1年生集団の桐生第一。まさに対照的なチームカラー同士の対決だが、霞ヶ浦のエースで主将の上野 拓真がチームを引っ張る。165センチ62キロと上背はないのだが、小気味良い左腕である。左オーバスローから投じる直球は常時130キロ台は計測していそうで、指先にしっかりと力を伝えることができる投手で、球速表示以上の勢いを感じさせる。キレのあるスライダーに加え、右打者には外に逃げるスクリューを織り交ぜる。投球スタイルは本格派らしく、コーナーへ決めるストレートが素晴らしい。2回表に一死二塁から7番小野田 凱（2年）のセンター前タイムリーで1点を先制されるが、その後は速球、変化球のキレが冴え渡り、桐生第一打線を抑えていた。
山田知輝（桐生第一）
一方で桐生第一の先発の山田 知輝（2年）は184センチ80キロと恵まれた体格をする大型右腕。1年で、これほどの体躯。そして打者としても4番。彼に対する期待はかなり高いものがあるだろう。彼も�盒� 光成のように大化けが期待できる逸材と感じた。山田は140キロ台の直球を投げ込む右腕として注目されるが、この試合を見る限りでは140キロが出ているような感じはしなかったが、指にかかったときの直球は素晴らしいものがある。スライダー、カーブ、独特の落ち方をする縦の変化球をコーナーへ投げ分ける制球力があり、適度にまとめられることができる。ポテンシャルの高さというよりも、総合力で勝ち上がった投手なのだろう。
恵まれた体格をしているが、まだ全体的な筋力は足らず、もっと下半身、股関節の柔軟さを求めて行って欲しい投手。彼は大人の肉体に変わっていけば、自然と145キロ、150キロは狙える投手だろう。まだまだ伸びしろを感じる。桐生第一の大型右腕といえば一場 靖弘の名前が真っ先に思い浮かべるが、彼も一場ぐらいの投手になって欲しいと思う。
その山田に対し、霞ヶ浦は4回表、山本 司（2年）がライト前ヒット。その後に盗塁を決めて、無死二塁となって、3番菅原 直輝（2年）はショートライナー。だが捕り損ね、山本が生還し、1対1の同点となった。その後、なかなか点が取れず、試合は9回表。霞ヶ浦は二死満塁のチャンスをつくるが、無得点に終わる。霞ヶ浦が勝つには延長での勝ち越ししかなくなった。
9回裏、桐生第一は3番柳谷 参助（2年）がエラーで出塁、4番山田の犠打で一死二塁とする。5番速水 隆成（1年）は四球、6番久保 峻亮（1年）がセカンドフライで二死一、二塁となって、7番小野田がセンター前へサヨナラタイムリー！ サヨナラが決まった瞬間、捕手の山田 拓朗（2年）はホームベース上で大の字になり、そしてナインは守備位置でうずくまっていた。整列後、投手の上野は号泣し、監督に支えられながら、挨拶に向かう状態で、その後もナインは三塁ベンチ上で動くことができなかった。
秋とは思えない夏の試合を見ている錯覚に陥った。とても重さを感じる試合だった。それだけ彼らはこの試合に懸けていた。その姿に思わず見ている大人たちが感情移入してしまう。まさに高校野球の醍醐味が詰まった好ゲームだったといえるだろう。いつか霞ヶ浦の悲願が実ることを期待して、再び立ち上がって、また来年には大きく成長した姿を見せてもらいたい。
（文=河嶋 宗一）
