腰痛は冷やしてもいい? 今回は悩まされたことのある選手も多いであろう腰痛について西村氏が分かりやすく解説します。

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腰を曲げるとき、伸ばすときでの痛みにヒントがある

こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。

秋の地方大会も終盤となり、勝ち残っているチーム、惜しくも敗戦したチームとそれぞれの秋を戦ったことでしょう。多くの高校ではオフシーズンに向けての準備をしたり、まだまだボールが使える期間は技術練習を行ったりと、それぞれ来るべき来シーズンに向けてがんばっていることと思います。さて今回は悩まされたことのある選手も多いであろう腰痛についてお話をしてみたいと思います。

急に腰を痛めた選手に「痛みがあるなら冷やすように」とアドバイスをすると、「腰って冷やしてもいいんですか?」とビックリされることがあります。腰は冷やさずに温めるもの・・・と思っている人が多いのでしょうね。腰痛も他のスポーツ傷害と同じく、冷やしたほうがいいケースと温めたほうがいいケース、どちらとも考えられます。

腰痛にはさまざまな原因が考えられますが、骨や関節に由来するもの、筋肉に由来するもの、椎間板など軟部組織に由来するもの、その他、内科的な原因から起こるもの、心理的な要因など、いろんなケースがあります。まずは医療機関を受診し、何が腰痛の一因となっているのかを理解し、適切な治療を受けることから始めましょう。急に痛くなった場合の応急処置としてはRICE処置を行います。このときは腰を「冷やす」ようにしましょう。特にぎっくり腰などはボール拾いの動作によく見られます。膝を曲げずに腕だけを前方に伸ばして腰を丸めると、ギクっとくることがありますよ。膝を曲げてなるべく身体の近くでボールを拾うことでこうしたぎっくり腰は回避できるでしょう。

現場でチェックする大まかな目安をご紹介しましょう(あくまでも目安ですので最終判断は医療機関に委ねましょう)。

●腰を反ったときに痛い=「腰椎分離症・すべり症」に由来するもの、股関節の前側の筋肉(腸腰筋など)が硬い等●腰を曲げたときに痛い=「椎間板の変性やヘルニア状態」に由来するもの、臀部、ハムストリングスなど下肢の後側の筋肉が硬い等

腰痛も他のスポーツ傷害と同じ。急に起こる痛みにはまずRICE処置を

【冷やしたほうがいい場合:急性期(ケガをしてから約2〜3日)】特に急に捻ったり、ぎっくり腰のように立てなくなってしまった場合、痛みのある部位は炎症症状が起こっていると考えられます。炎症の特徴としては熱感があったり、赤くなったり、痛みや腫れなどを伴います。このようなときはまず炎症を抑えることが先決ですので、氷などを利用して患部を冷やすようにします。デッドボールやクロスプレーなどで腰に強い衝撃が加わった場合なども同様に対応します。

腰背部は厚い筋肉に覆われていますので、肩や肘などよりも少し長めに時間を取り、20分〜30分ほどかけて深部まで冷えるようにしましょう。たまに「冷湿布でもいいですか?」と質問されるのですが、冷湿布では十分な冷却効果が期待できません。また市販のアイスパックなどを使用する場合は、低温やけどのリスクがありますので、冷却時間には十分注意しましょう。患部を冷やすことで内出血や組織のダメージをこれ以上広げないようにし、痛覚の閾値を下げて痛みを和らげる効果が期待できます。

【温めたほうがいい場合:慢性期】腰痛になってからしばらくすると炎症症状はおさまってくるのですが、今度は安静による筋肉の拘縮(こうしゅく:かたくなること)が見られるようになります。しばらく動かさずにいると筋肉はどんどん硬くなり、今度は硬くなった筋肉がスムーズな動きを制限して痛みが起こります。「腰痛でも積極的に身体を動かすようにしましょう」というアドバイスを受けたことがあるかもしれませんが、こうしたアドバイスは急性期を過ぎ、慢性的な痛みが残っているときに言われていると思います。この時期はゆっくりとお風呂につかって腰を温める、ホットタオル(電子レンジでチンすればすぐに出来る)などを使って患部を温めるといったことを行うようにしましょう。また外からの温刺激だけではなく、ウォームアップなどを入念にすることで身体の中からも温めていくことが大切です。

腰痛にも冷やしたほうがいいときと温めたほうがいいとき、どちらもあることをわかっていただけたでしょうか。現場の判断ではむずかしいことも多いと思いますが、腰痛の時期と原因を知り、いざというときの対応に役立てていただければと思います。

【腰痛は冷やしてもいい?】●腰痛もスポーツ傷害の一つと考え、時期によって冷やす・温めるを選択する●腰痛には骨・関節・筋肉・内科的疾患・心理的なものなどさまざまな原因がある●腰を反ったときの痛み=「腰椎分離症」など、腰を曲げたときの痛み=「椎間板ヘルニア」など●受傷後2〜3日以内の急性期は「冷やす」●痛みが継続的に続く慢性期は「温める」●冷やすときは20分〜30分程度じっくり時間をかけて深部を冷やすこと

(文=西村 典子)

次回、第80回公開は11月15日を予定しております。