三重vs豊川

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エース今井を中心に歓喜の輪ができる

優勝か敗者かを決めた紙一重のプレー

 三重が8回裏に鮮やかな逆転劇を演じ19年ぶりとなる秋季東海王者に輝いた。

 初回に豊川は先頭打者・中村胤哉(2年)の右中間を破る三塁打でチャンスを作ると、二死から5番・伊藤竜平(2年)がタイムリーを放ち先制。さらに2回にもチャンスで中村に打順が回ると、今度はレフト頭上を越す三塁打で2点目を挙げた。

 三重は夏の甲子園で2イニングを投げた経験もある新チームのエース今井 重太朗(2年)が登板。序盤に2失点を喫したが、その後は7回まで追加点を許さず我慢の投球を続けた。

 再び試合が動いたのは8回。豊川は二死二塁のチャンスで、再び中村がこの試合2本目のタイムリーヒットを放ちリードを広げた。 3点のリードをもらった豊川のエース田中 空良(2年)は7回まで三重打線に6本のヒットを許しながらも、大事なところで自慢のスライダーが冴え完封ペースで終盤を迎えた。

「決勝戦で緊張してしまいチームがバラバラになっていた」三重のキャプテン長野 勇斗(2年)は5回終了後のインターバルに選手同士で「もう一度ひとつになろう」と声をかけた。 長野は打ち損じてきたスライダーへの対抗策もチームメイトに示した。「曲がる前にバットに当てるため、立つ位置をやや前にした」という8回の打席ではスライダーを狙い打ち。左中間を深々と破る三塁打で反撃の口火を切った。

 この一打で導火線に火が付いた三重打線は長打を浴びてリズムを乱す田中に襲い掛かる。2番・内田 蓮(2年)の内野安打で長野が生還し1点を返すと、後続も連打で続き逆転のランナーを含む二死満塁の場面を作った。

捕球体制に入る島快莉選手(豊川)

 この試合最大の山場で三重の6番・山本庸真(2年)が放った打球は2塁手・島快莉(1年)への強いゴロ。 一瞬目の前を横切った走者が視野に入った島は、打球に向かい前進するのを躊躇した。「落着いてバウンドに合わせてキャッチすれば良かったが、中途半端に打球を待ってしまった」と島。捕球直前で跳ね上がったボールはグラブの土手に当たった。豊川はエラーによる失点で1点差に詰め寄られた。「田中が苦しんでいるところでは笑顔でマウンドに行くようにしている」と捕手の氷見泰介(2年)。県大会から1人で投げ抜き、この試合でも100球を超えたエース田中を励ました。

 勝敗を分けたのは紙一重のプレーだった。三重は1点差で二死満塁、一打逆転の場面で7番・佐田泰輝(2年)が初球をひっかけた。三遊間に転がるボテボテのゴロ。打球へダッシュした豊川の遊撃手・高桑平士郎(2年)は難しい体勢からランニングスロー。 一塁ベースへ頭から飛び込む三重の佐田。ワンバウンドの送球が一塁手のミットに収まったかに見えた瞬間、舞い上がった土埃の中からボールがこぼれ落ちた。

 三塁走者は生還し同点。さらに二塁走者の西岡 武蔵(2年)も三塁を蹴って一気に逆転のホームベースを踏んだ。

 値千金の好走塁で勝利を呼び込んだ西岡。「二死だったので打った瞬間ホームを突くことだけを考えてスタートした」と足で奪い取った決勝点を振り返った。

 毎試合堅実な守備で田中の好投を支えてきた豊川。今井陽一監督は決勝戦の重要なところで出た守備のミスを悔やんだ。「野手はここまで良く守ってきた。でも究極の場面でエラーが出たのは残念。打球へチャレンジした守備だったのか2人には聞いてみたい。チャレンジ精神がまだ足りなかったのかもしれない」とメンタル面での成長に期待する。悪送球が記録された高桑は「スコアボードの『E』の表示を目に焼き付けた。絶対に忘れたくない」と勝利を掴み損ねたワンプレーを心に刻む。

9回を投げ抜いた三重の今井は、最後の打者を9つ目の三振で斬り高らかに両腕を上げた。今年の夏に続き、来春の甲子園をほぼ手中に収めている三重。東海大会3試合も勝ち抜いた新チームは公式戦8試合負けなし。県大会に続き東海大会でも優勝し11月16日から始まる神宮大会へ駒を進めた。

(文=加藤 千勝)