サヨナラ勝ちに沸く豊川

勝負のポイント!受け取り方は・・・

勝負の終わりは唐突に訪れた。

2対2の同点で迎えた9回裏。二死ながら二塁に走者を進めた豊川は、2番杉浦健太(2年)がライトへ平凡なフライを打ち上げる。誰もが、『延長戦へ突入』と思った瞬間、風に押し戻されたフライに、静岡のライト・安本竜二(1年)は追いつくことができず、ボールがポトリと芝生の上に落ちた。二死ということでスタートを切っていた走者の中村胤哉(2年)が本塁を陥れ、ゲームは決着。豊川が悲願の決勝進出を果たした。

歓喜に沸く選手を横目に、「気持ちの強さで勝った」と今井陽一監督は選手を讃えた。

実はこの9回の攻撃。豊川にとって、流れは決して良いとは言えなかった。先頭の8番田中 空良(2年)がレフトへのヒットで出塁したものの、9番島空莉(1年)がバントを決めることができずに、結果は見逃し三振。そして1番中村がセカンドゴロを放ち、ダブルプレーでチェンジかと思われた。

しかし、一塁への送球が大きく逸れて、打者走者の中村が二塁に到達。相手のミスに救われる形で、「自分に廻ってこい」と思っていた2番杉浦の一打に繋がった。

もう一つのポイントとなった岸山の一発

サヨナラゲームへと繋がる勝負のポイントがもう一つあった。それが6回表に静岡が挙げた2点だ。

序盤で2点を先行し、3回以降も常にチャンスを作っていた豊川に流れがあったが、静岡のエース・辻本 宙夢(2年)が踏ん張って、更なる追加点を与えなかった。一方の豊川エース・田中も、毎回走者を背負いながらも無失点で抑える。ゲームは次にどちらが得点するかという空気になっていた。

そんな中で6回、静岡は1番の岸山智大主将(2年)がレフトスタンドへ2ランを放って、ゲームを振り出しに戻した。「打たれたのはスライダー。失投だった」と田中と氷見泰介(2年)の豊川バッテリーは口を揃える。

豊川にあった流れが静岡に傾いたと思える岸山の完璧な当たり。当然静岡ベンチは盛り上がり、マウンドの田中や豊川ナインにとっては苦境であった。

しかし、本塁打で走者がいなくなったことが、苦しい田中を救うことにもなる。

「点を取られた後が大事」と後続の打者に気持ちを切り替え、しっかりと打ち取った。勝ち越し点までは与えなかった田中。静岡の辻本も次のイニングを初めて三者の凡退に抑えたことで、少しずつでも動き続けていたゲームの流れがピタッと止まった感じになった。

『たら、れば』論になるが、あの岸山の本塁打が長打だったら・・・

豊川のエース田中は、「繋がれて、2番、3番と続かれるのはイヤでした」と話す。静岡にとっては主将が打って最高の形での同点。でも、追いつかれた豊川は気持ちを吹っ切る最高の本塁打をされたとポジティブに受け取ることができた。

ここで気持ちを切れなかったことが、裏の攻撃を持っていた豊川に勝利の女神がほほ笑んだと言えるのではないだろうか。勝負の分かれ目。受け取り方は様々である。

(文=松倉 雄太)