表紙ではさらりと「日本のJKが海兵隊に就職するお話」と書いてある『まりんこゆみ』ですが、中を開くと『フルメタルジャケット』まんまの、海兵隊のMIND FUCKな訓練の様子がぎっしり。どこまで本当なのか!? これを耐え抜けるのは、天然に近い精神力が必要なのか!?

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ミリタリーブーム!
……かどうかはわからないですが、最近、周囲の人達がやれ軽戦車がどうの駆逐艦がどうのAK47がどうのという話をしはじめるようになりました。主に『ガールズ&パンツァー』や『艦隊これくしょん』などの影響です。
ミリタリー趣味って、なんか人に言いづらい。だってミリタリー好きだけど戦争は嫌いだし。
それが、「あくまでもネタ」と割りきって話せるような土壌が、最近出来てきたため「ミリタリー面白いよね」と言えるようになりました。

そんな中発売されたのが、ミリタリーマンガを描き続けているベテラン作家野上武志の『まりんこゆみ』です。
一言で言うならば、「日本の女子高生が海兵隊に就職するお話」。原案のアナステーシア・モレノは元海兵隊員。ホンモノです。

海兵隊といえば、ぼくの印象は『フルメタルジャケット』。
映画史上に残る大人気罵倒キャラハートマン軍曹ですよ。
「話しかけられたとき以外は口を開くな、口でクソたれる前と後に“Sir”と言え、分かったか、ウジ虫ども!」
サー、イエス、サー!
ものすごい勢いでここに書けないような言葉を吐き散らすハートマン軍曹の姿はインパクト絶大。知らない人は映画見てみてください、一生忘れられなくなるから。

さてここで疑問がわきます。
ほんとうにハートマン軍曹方式の訓練はあるのか。
『まりんこゆみ』は、女子高生が海兵隊に入るマンガです。あくまでもフィクションで、入るのはアメリゴ海兵隊。
……という設定で、海兵隊の訓練の細かい話を描写しています。
結構、赤裸々です。ふぃ、フィクションだから……。

アメリゴにいったユミは海兵隊に入ります。いきなり色々おかしいですが入るんです。
新兵訓練所行きのバスに乗り、ついた途端怒鳴られます。
「貴様等のヘタレ口から出てくる言葉は3つしか許されない!「イエス」「ノー」そして了解「アイアイ」だ!」
「男性には「サー」、女性には「マァム」を言葉の最後につけろ、分かったか! ああ!?聞こえねーぞ!」
いたー! イエスマァム! 女版ハートマン軍曹です。

入った途端「服を脱げ!」。女子は全員下着まで脱がされて、芋臭いカーキ色のスポブラと短パンに着替えさせられます。
戦闘服に着替えた後、書類にサイン。その後電気を消された後、長ーーーーい時間待たされます。
だんだん感覚が狂ってきます。今何時? 時計は紙で隠してある。なんで?

作中の話によるとこれは「MIND FUCK」。
今までの生活の価値観を、一旦ゼロにリセットし、そこから海兵隊のルールを叩き込むための手順です。
その他にも、教官がどうやって新兵達の性根をゼロからたたき直すか、事細かに描かれます。
例えばハートマン軍曹もかぶっていた帽子。あれつばがでかいですよね。
実は木板がはいっていて、新兵をがっつんがっつん突くためにかぶっている、らしい。
逆に、相手を指差して指導はしません。「スピーチスタイル」と呼ばれる、人差し指を曲げるスタイルや、手刀で指示を出します。これはまっすぐ指差すのが失礼という慣習から。
かなり細かく、生々しいところまで解説されます。

泣きたくなるのは、食事。
箱の中にはいっているのは、湿った食パンらしきものにハムとチーズっぽいのをはさんだもの、ポテトチップス、りんご、水、チョコ。わぁ、切ねえぜ。
ヒロインのユミが脳天気なのでさらーっと描かれていますが、実際は海兵隊のきっつすぎる日常はまさにMIND FUCK。厳しいという次元をこえて、人間扱いされない世界です。
ベッドメイクで怒鳴られて、午前3時(!?)に起床、また怒鳴られながらランニング。
GUNG-HO! GUNG-HO!(海兵隊の掛け声)
休日?そんなものは最低三ヶ月はない! こ、心折れる……。

どこまで本当かは、実際調べてみましょう。
原作者さんがリアルで体験している話ってのがこれまた。実際に原作者の上官も読んでいるそうな。
この女版フルメタルジャケットを見ていると、結局あれですね、体力もそうですが、やっぱい精神力の世界なのね、海兵隊。

女の子をネタにしたことで、ミリタリーネタのさじ加減がちょうどよいため、そんなに重苦しい気分にならず楽しめます。
ただ、「生身の男の代わりにこいつを抱いて寝ろ!」とアサルトライフルM16A4を渡されるシーンは、テンションあがります。
わかる、わかるよ。銃には名前をつけようね!


野上武志『まりんこゆみ』

(たまごまご)