『変愛野球論』(桝本壮志/広島アスリートマガジン編集部)
チュート徳井、アンガールズ田中・山根が推薦! カープと広島をこよなく愛する(変愛)するTV作家・桝本壮志氏が9年間ノーギャラで書き続けたコラム変態野球論。ちなみにイラストは野生爆弾・川島。

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「DH今村」みたいな“うっかり”で見逃すのだけは避けよう!

全国3600万人のプロ野球ファンの皆様、いよいよ今夜ですよ。「アメトーーク」に待望の野球企画が東洋、じゃなかった、登場。「広島カープ芸人」が今夜11時15分からON AIRされるのです。出演はチュートリアル徳井、有吉、アンガールズ田中・山根、ロザン宇治原、ギース尾関の精鋭6人だ。
アメトーークでも過去2回、「プロ野球芸人」として各球団のファン芸人がオモシロ・懐かしエピソードを披露し合う企画はあったのだが、ひとつの球団だけにスポットを当てる企画は今回が初めて。それだけに、「広島カープ芸人」の成功いかんによっては他球団企画へも波及できるかもしれず、赤松真人のジャンピングキャッチ並みに跳ねた結果を期待したい。

「でも、なんでカープ? 全国的人気なら巨人や阪神、最近の人気ならホークスやファイターズなんじゃないの?」
そう思う人もいるかもしれない。だが、カープにこそ弱肉強食のプロ野球の醍醐味が詰まっていて魅力的なのもまた事実だ。セ・リーグで最も優勝から遠ざかり、毎年のようにFAで強奪されていく悲哀。だからこそ愛おしくなる不思議。実際、書店の野球コーナーに目を向けてみると、巨人阪神以上に広島カープ関連書籍の数の多さに驚かされる。愛おしくて時に切なくて、なぜか語りたくなってしまう球団、それが広島東洋カープなのだ。そこで今夜の「広島カープ芸人」を見る前の予習として、はたまた見終わった後の復習として最適な書を紹介したい。広島アスリートマガジン編集部からこの春刊行された『変愛野球論』がそれだ。今回の「広島カープ芸人」にも登場するチュート徳井とアンガールズ田中・山根の3人が本の帯で推薦するほどのカープ愛にあふれた一冊だ。

この『変愛野球論』。何がスゴいって、著者であるTV作家・桝本壮志氏が、タダ野球が好きで、タダカープが好きだから、タダで9年間『広島アスリートマガジン』にコラムを書き続けた点。タダであれば、そこに遠慮は発生しない。「鉄人・衣笠、怪童・江夏のドラマ出演プレイバック」「野村謙二郎2000本安打の際のTVニュース採点表」「エンジニアを目指していた石井琢朗」といった有名選手のエピソードはもちろん、「赤ヘル“トシ”伝説」や「ルーキーがカープ寮に入る際の持参品一覧」など、超マニアックなうんちくやトリビアで埋め尽くされている。
だが、本書が素晴らしいのはそんなトリビアやうんちくだけでなく、カープの魅力をDNAレベルまで潜り込んで解き明かしていく点にある。山本浩二と同じ広島市立五日市中学に通い、石本秀一・三村敏之・達川光男らカープレジェンドたちを輩出した広島商業高校野球部に同じく在籍していた生粋のカープファン=鯉人だからこそ書けるカープへの深い愛情と造詣、そして野球界そのものへの愛にあふれているのだ。
その象徴が第5章「鯉の先人たちに捧ぐ」。後藤正治の名著『スカウト』のモデルにして原爆手帳を携えて30年間全国行脚した“スカウトの神様”木庭敦、伝説の雑誌『酒』の編集長にしてカープ優勝のためなら目黒不動尊で滝にも打たれた女・佐々木久子、23時だからではなくフルカウント(ツースリー)から番組タイトルをつけた“鯉人ジャーナリスト”筑紫哲也、『江夏の21球』のキッカケを作った“超二流”三村敏之、そして巨人に移籍してもなお鯉人たちから愛された男・木村拓也。今は亡きこの5人を偲びつつ、カープの過去と現在を俯瞰していくこの章を読むことで、広島カープという球団が置かれた特異な環境、弱さと強さ、そして愛らしさが伝わってくるのだ。そして、カープを愛し続けた先人へ敬意を評しつつ、その遺伝子継承については危機感も募らせている。

<当時と比べ、広島では、カープを支えよう、カープを強くしようという気運は、日を追うごとに薄くなっているように感じる。(中略)歴史とは風化するものだと云う方もいうだろう。しかし、嘗て名もなき男たちが、カープのために魂を捧げた。その史実をワレワレは語り継ぐ必要があるとワタクシは思うのだ。何故ならばカープは、そうやって「イズム」を継承して強くなってきたのだから…>

なぜ「広島カープ」という球団が特異なのか。ここ10年でプロ野球のローカライズはずいぶんと進んだが、かつては数少ない地方球団の雄として存在感を示し、今なお唯一の市民球団である点は大きい。だかそれ以上に、12球団で唯一、原爆投下という「戦後」を背負い、熱い市民の想いによって球団が発足し、市民からの「たる募金」によってここまでの歴史を紡いできたことが広島カープを語る上で欠かせないファクターであることに本書を読むことで気づかされるだろう。

スポーツの醍醐味は「現在」という横軸と「歴史」という縦軸を常に行き来しながら物語を作っていくところだと思うのだが、なかでも野球はその要素が強い。ペナントレースや今日の試合という「現在」と、先人達の想いや偉大な記録を受け継ぎ、抜き去りながら前に進んでいくという「歴史」。だが、広島カープの場合は、出発点から大きな“歴史的背景"を持って成り立ったチームであることが、やはり特異的なのだ。その視点をもって改めて「広島東洋カープ」という球団を見てみると、もっともっとその魅力を知りたくなり、応援したくなってくる。

プロ野球人気の凋落、が叫ばれて久しい。だが、本当に熱いファンはまだまだたくさんいるし、そのファンがそれぞれの「好き」を語ることで、今まで見落としてきたチームごとの魅力や楽しさを再認識できるのではないだろうか。そのためのキッカケとして、この『変愛野球論』と今夜のアメトーークには是非とも期待したいと思う。そう、サファテと今村が登る9回のマウンドの様に。
(オグマナオト)