入江雅人グレート一人芝居 
「マイ クレイジー サンダーロード」
http://www.cubeinc.co.jp/stage/info/iriehitori2.html
作・演出・出演 入江雅人
作 古田新太 赤堀雅秋 ブルースカイ

2012年5月30日〜6月3日
CBGKシブゲキ!!

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え! 2時間以上やってたの?
終演後、時計を見てビックリ。
19時半にはじまって、まあ21時くらいだろうと思ったら、
22時近かった。イリュージョンか。
「マイ クレイジー サンダーロード」。入江雅人、たったひとりに時が経つのを忘れさせられてしまった。

こんな俳優国宝もののワザを見せてくれた入江雅人は、
NHKバラエティー「サラリーマンNEO」でおなじみの俳優である。
知的でナイーブな印象があり、それが行き過ぎてちょっと危なっかしい感じの役もハマる。

今回、入江は、「ロッキー」みたいな感じで出てきて、
富士そばでバイトしている寂しい男の狭〜い部屋の中の話から、「メランコリア」のようなでっか〜い宇宙的スケールの話まで、
笑いあり、不謹慎ネタあり、いい話あり。
(微妙な)モノマネあり、パペット劇あり、朗読劇あり。
ジャンルがモリモリ盛りだくさんの短編8本を演じ切った。
まさにタイトルどおり、グレートでクレージーな俳優なのである。

8本の内5本は自作、
残りの3本を、
古田新太、赤堀雅秋、ブルースカイが1本ずつ書き下ろした。
しんみり赤堀、ナンセンスブルースカイに対して古田新太が書いたコントは、変態チックで不謹慎でシュールで、
舞台か漫画でしかできそうにない世界。
ちなみに古田がコントを書くのはとても珍しいことで、実に30年ぶりだそう。今回は彼の作品を観ることができる貴重な機会だ。

さて、8本の作品は、ロックやクラシックのいい感じの音楽に乗せて、
めくるめく展開していく。
情報量は相当あるし、
ひとつひとつのキャラも各々相当へんなのに、
なぜかまったく押しつけがましく、むしろなくさりげない。
冷静と情熱のあいだ 
中年と少年のあいだ
舞台と映画のあいだ
入江雅人は、あらゆる定義づけからふわりふわりと身を交わしていく。
さすが一人芝居歴20年近いツワモノ! 
と言っちゃっていいのだろうか。
しかしながら、ライフワークと称しながら、出川哲朗、ウッチャンナンチャンらと学生時代に結成したPLOJECT TEAM SHA・LA・LAの活動で一人芝居をやりはじめて以来、中12年くらい空いて飛び飛びにやっているらしいというふんわり具合なのだ。
2年前に再開してからは今のところ定期的にやっているそうだが、
いつまでこのペースが続くかも気になりまする。

だが、これだけは言っちゃっていいと思う。
どんなにふんわり見えても、
それは見えているだけだってこと。
冷静と情熱と、中年と少年と、舞台と映画の間という、
ないように見えるものを感じさせることこそ、
相当量のエネルギーが必要なのだ。

正直言って「なんじゃこりゃ?」と思うネタもあった(すみません!)
でも、客席の空気に動じず、淡々とやり続ける入江の姿にいつしか見いってしまう。
肝が据わってらっしゃる。
そして、具体的な装置のない舞台の上、カラダひとつで状況を見せていく時も、器を持つ指先、バイクに乗ったカラダの傾き具合など、ひとつひとつがていねいで、見えないものが見えてくる。
ワザをもってらっしゃる。
舞台的な見せ方をあまりしないでナチュラルな仕草だし、
そんなに台詞もあまりハキハキ言わない。
にも関わらず、見てしまう。
動物の動きがいつまで見ていても飽きない感じと言おうか。

芸ってこういうものよねえ〜と、
舞台上の入江雅人だけを穴の開くほど見ているうちに(この間、既に90分はとっくに過ぎていたのだろう)、
このバラバラの8本の物語が見えない糸でつながっているようにも見えてきた。
この地球上に、今の日本に、生きてる人たちの話。
誰かが、この先のことを考える。
誰かが、置き忘れてきてしまったことにちょっと振り返る。
そして、哀しくなったり、怒ったり、愛したり、がんばったり、がんばらなかったり。
くだらないこともあれば、ちょっといいこともあって。
というような、たくさんのヒトの心の内の集合体のようだった。

それも、やっぱり2011年3月11日以降の日本を描くとなれば、
どうしたって絶望みたいなものは漂ってくる。
49歳の入江雅人にとって、今の日本はどんなふうに見えているのだろう。
入江の世代は、戦争の記憶はまったくなく、バブルまっただ中で20代を過ごしたという、おそらく戦後最も恵まれた世代だ。
それゆえ、今の状況に対しての精神的ダメージが実は大きいんじゃないかと思うが、どうなんだろう。
でも、想像力はあらゆることを凌駕すると信じてる世代でもあるから、
こうやって一人芝居を続けているのではなかろうか。
だからこそ入江は負けない。
笑いとしんみりを交互に軽やかに積み重ねながら、
最後はグググーーーッと意外な世界観に観客を取り込んでしまう。
気づけば、2時間超えの大作の誕生である。
鮮やかな作戦だ。
古田新太の変態不謹慎コントもきっと、
後半戦、ラストスパートをかける入江への、愛ある応援攻撃だったのだろう
(と思いたい。思わせて。)。

もしも客席に子供がいたら、
野球選手やボクサーやロックミュージシャンや革命の志士なんかを押しのけて、
「僕、将来、俳優になる!」と思ったに違いない。

闘ってるヒトを見たかったらCBGKシブゲキ!!へ行くがいい。
ちなみに、CBGKシブゲキ!!は元シネセゾンの跡にできた小劇場です。
(木俣冬)