『サブカルで食う』 大槻ケンヂ著、白夜書房。サブタイトルは「就職せずに好きなことだけやって生きていく方法」

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『サブカルで食う』、サブタイトルは「就職せずに好きなことだけやって生きていく方法」。
著者は、筋肉少女帯や、小説執筆、テレビ出演、アニメ主題歌など、サブカル方面の多彩な活躍で知られる大槻ケンヂ。
“背広を着てネクタイをするような仕事は俺にはちょっとできそうにないので、できたら「サブカル」とかって呼ばれるようなことをやって生きていけないかなとボンヤリ思っている「サブカルになりたいくん」”に向けて、ひとつのモデルケースとして、著者の体験やエピソードが語られた本だ。

「軽い気持ちでテレビに近づくな」という項がある。
テレビ出演恐怖エピソードが紹介されいて、これがスゴイ。

大槻ケンヂは、
活躍しているタレントは3つのタイプに分けられる、と説く。

1:最初からタレントになろうと思ってタレントになった人。
芸人さんとかやる気のあるグラビアアイドル。根っからのザ・芸能人。
2:時の人としてテレビに出ることになった人。
金メダル取るとか、最近だと、なでしこジャパンの人とか。
3:特異なキャラクターでタイミングによって出た人。
大槻ケンヂは、自分自身を「この枠」だったと考える。

“長髪で顔にヒビを入れて怖ろしげなメイクをしているのに、妙に腰が低くて実家暮らしで「ケンちゃん」って呼ばれている、いわば、お茶の間感のある怖くないロッカーという僕のキャラが、バラエティのひな壇に新設された「ロッカー枠」にスポッとハマッたわけですね。”

この「タイプ3」、つまり特異なキャラとタイミングでぽっと出てきたように見える人は、芸能人としてがんばっている「タイプ1」の人から目の敵にされることが時にある、と語る。

“当時、ある若手芸人さんの番組にゲスト出演した時、がんばってしゃべって盛り上げてたんですけど、CMに入ったとたん、その芸人さんが低い声でドリフの歌を「ババンババンバンバン、俺の番組やで、ババンババンバンバン、分かっとんのかいな♪」と歌い出したことがありました……あれは怖かったけど今となっては貴重な体験ですね”。
この芸人さん、今では冠番組を持っている人だそうだ。
“腹をくくってるからこその「ババンババンバンバン♪」だったのだと思いますね。そのくらいじゃないと生き残れない世界なのだと思いますよ”。
ザ・ドリフターズの「いい湯だな」は、いい湯だな気分で歌うから楽しいのだ。それを低い声で怖い替え歌で歌われたら、そりゃビビるだろう。

大槻ケンヂ『サブカルで食う』は、他にも多彩なエピソードや、オーケン流テクニックが満載。
「オーケン流ライブテクニック」では、ドンずべって心が折れてしまったらどうするか、という悩みにアドバイス。
すべって心が折れてしまったら、どうするか。
どうやって立て直したらいいのか?
“意外と最後まで立て直せないまま終わっちゃう場合も多いんですよね、実際。”
ええええー。っても、何とか最後までやり切るテクニック。
“ヴォーカリストだったらもう歌に没頭しちゃえばいいんです。たとえば「今日は歌詞を一字一句間違えずに歌ってみよう」とか「バッチリなピッチで歌ってみよう」とか、音楽の世界にガーッと没入してしまうと段々お客さんの反応が気にならなくなってきますね”。
これは、ライブじゃなくても、会議やプレゼンや、宴会芸や、何か発表するときに応用が効くだろう。
具体的な目標を脳内設定して、そこに没頭するのだ。
もうひとつMCやトークがドンずべりしたときの秘技は、とにかく叫ぶこと。
“そうすれば、面白い事が言えない人になったとしても、とりあえずにぎやかしい人にはなれるじゃないですか”。
いや、これは、ただの五月蠅いやつになっちゃう危険性もあるのでリスキーだと思っちゃうけど。
“ヘコんでいる気持ち以外のところへシフトを次々とチェンジしていくのが良策です”。

そして、「ドンずべったとしても伝説になる可能性がある」と述べて、ウッドストックでのジミ・ヘンドリックスの伝説のライブを例としてあげる。
40万人以上集まったフェスだが、進行が押しまくっていて、トリのジミ・ヘンドリックスがやる頃には月曜日の朝になってしまって、みんな帰ちゃった。
だから、実はジミヘンのライブを観ていたのは実は数千人しかいなかったらしい。
“映像だと編集で上手いことお客さんがいっぱいいるシーンとつなぎ合わせているんだけど、よく見るとジミヘン、すごく悲しい顔をしてギター弾いているの。完全に心が折れているんですよ。それでも伝説のライブになった”。
本人の心が折れてても、周りは意外と気づかない。
だから、“すべった時はむしろ「伝説になるぜ」と、ウッドストックのジミヘンを思い出すことです”。

巻末特別対談は、大槻ケンヂ×ライムスター宇多丸。
「就職せず好きなことだけやって生きていく」のに必要なのは、実家と自習と月15万円稼げるようになるまでがんばれる無償の情熱だ、ってことを激論。

『サブカルで食う』、サブカルの先輩が親切におもしろく指導してくれる“文化系の説教オヤジ”の語るサクっと読める一冊。オススメ。(米光一成)