アーセナルのアーセン・ベンゲル監督が、ティエリ・アンリのバルセロナ移籍について、ついにその重い口を開いた。

 ベンゲルは、8年間の在籍期間でクラブ史上最高のストライカーと評されるまでに成長したアンリが移籍を決断した経緯について、「すべては彼の決断」と断言。そこには“我慢の限界”があったのだろうとの仮説を立てて、愛弟子のバルサ移籍を説明した。

「ワールドクラスの選手を失うのは、もちろん痛手だ。それも、移籍するはずがないと思っていた選手の移籍であれば特にね。最終的に、移籍を決断したのはティエリ自身だ。そもそも彼は、移籍の願望を持ち続けていたのだろう。今回のような決断はすぐに下せるものではないからね。監督やチームスタッフは、常に選手の心理状態に気を配っている。しかし、最後に決断を下すのは選手なのだよ。今回も、私の決断ではなく、ティエリが望んだことだ。彼ももうすぐ30歳になる。もう若手主体のチームが成長するのを待つ余裕がなかったのかもしれない。十分に理解できることだ。タフな決断だったとは思うがね」

 絶対的なエースを失ったアーセナルだが、FW陣の補強については、決して順調とはいえない。今夏に獲得したFWは、クロアチア代表のデドゥアルド・ダ・シルバのみと、いまだ選手層に不安を残す状態だ。しかし指揮官は、現有戦力からFWの3選手を名指しし、その奮起を促している。

「今回のような移籍があった場合こそ、ロビン・ファン・ペルシー、(エマヌエル・)アデバヨール、(セオ・)ウォルコットといった選手が立ち上がらなくてはならない。彼らの能力には疑いがない。あとは、それをピッチ上で表現して欲しい。毎シーズン、ティエリが記録していた25ゴールを、彼らに穴埋めして欲しいんだ。彼らは、このチームの中で責任を負うべき立場なのだ。個人の能力に頼りすぎず、チームプレーに徹すれば、ティエリの穴を埋めることも可能だ」

 アンリの移籍について、あくまで冷静に語ったベンゲル。複雑な心境を表に出さず、若手のモチベーションを高める“ネタ”にするあたり、育成に定評のある知将の真骨頂といったところ。来シーズンは、事あるごとに“アンリの穴”が指摘されるであろうアーセナルにとって、若手選手を操るベンゲルのチームマネージメントがシーズンの行方を左右しそうだ。