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今や一般的な選択肢になりつつある投資。金融庁の『NISAの利用状況の推移(令和7年12月末時点・速報値)』によると、NISA口座数は約2,825万口座に達しています。一方で、「限られたお金をどう増やし、守るか」という資産形成の方向性は、時に夫婦間で思わぬ対立を生みます。世帯年収520万円・30代共働き夫婦の事例を通して、教育費をめぐる夫婦の「お金の価値観」のズレを見ていきます。

資産額の中央値は「720万円」…多くの家庭が直面する“資産形成”の実態

投資はリスクだから、銀行に現金を預けておくのが一番安心」という常識は、今や大きく変わりつつあります。資産形成への関心の高まりを受け、金融庁の『NISAの利用状況の推移(令和7年12月末時点・速報値)』によると、2025年12月末時点でのNISA口座数は約2,825万口座に達しました。投資は多くの家庭にとって、一般的な選択肢になりつつあります。

一方で、二人以上世帯の金融資産保有額を見ると、一部の富裕層が引き上げている平均値は1,940万円に上るものの、より実態に近い「中央値」を見ると720万円にとどまっています。多くの家庭が決して余裕があるわけではなく、夫婦で協力して限られた資産のなかでやりくりをしているのが現実です。

だからこそ、夫婦間で「限られたお金をどうやって増やすか(守るか)」という価値観にズレがあると、思わぬ対立を生むことがあります。

娘の学費に「1,000万円」…〈月5万円〉を現金で貯め続ける世帯年収520万円・30代夫婦

地方都市の賃貸マンションに暮らす会社員のナオキさん(仮名・35歳)は、妻・カナさん(仮名・34歳)と、小学1年生になる娘の3人家族です。

ナオキさんの年収420万円と、カナさんのパート収入を合わせた世帯年収は約520万円。余裕があるわけではありませんが、夫婦には「娘の将来の選択肢を狭めないよう、学費だけはしっかり準備しよう」という約束がありました。

目標額は、大学進学を見据えた1,000万円。毎月専用の口座に、月に5万円を現金で積み立てています。

文部科学省の『令和5年度 子供の学習費調査結果』によれば、幼稚園から高校卒業までの15年間の学習費総額は、すべて公立に通った場合で約614万円ですが、すべて私立に通学した場合は約1,969万円となっています。「1,000万円」という目標額は、もし娘が中学や高校から私立に進学することになれば底を突いてしまう計算となり、絶対的な安心をもたらす金額ではありません。

ナオキさん自身も、「もし娘が私立に行くことになったら、今の目標額では到底足りないのではないか」と、漠然とした不安を抱き始めていました。そして、これまで信じて疑わなかった「預金至上主義」に疑問を持つようになったのは、職場の同期との何気ない会話がきっかけでした。

「貯金だと限界がある」…同僚の言葉で夫が抱いた“預金至上主義”への焦り

「数年前から毎月インデックスファンドに積み立ててるだけなんだけどさ。気づいたら元本から数百万円も増えてて、これで子どもの教育費は何とかなりそうだよ」

同期が安堵の表情を浮かべながら語るのを聞いて、ナオキさんは内心衝撃を受けていました。一方の自分たちは、共働きで毎月5万円を捻出し、ただ足し算で増えていくだけ。

「現金で貯めるのには限界がある。今のペースだと、娘の未来を守れないかもしれない」

焦りを感じたナオキさんは、まずは自身のお小遣いの範囲内で、密かに新NISA投資を始めました。そして数ヵ月後、カナさんに意を決して「娘の教育資金も、新NISAでの運用を少し考えてみないか」と提案しました。

ところが、返ってきたのは冷ややかな言葉でした。

「新NISAなんてやらせない!」妻が放った強烈なひと言

「新NISAなんてやらせない! もし娘が大学に行くときに暴落してお金が減っていたら、どうするつもりなの?」

カナさんにとって、夫婦で毎日忙しく働き、生活を切り詰めて貯めてきたお金は、娘への愛情そのもの。それを不確実な相場にさらすことは、二人が誓った約束を破る行為に思えたのです。ナオキさんは預金と投資の違いを何とか伝えようとしました。

「世界中の株式に分散してコツコツ積み立てていけば、長期的には預金よりも高いリターンが期待できる。複利の力で少しでも増やしておくことが、将来の学費の足しになるはずなんだ」

しかし、カナさんにとっての現実は、日々の家計簿や周囲のママ友との会話にありました。

「私の周りでそんなことやってる人、誰もいないわよ! ネットの情報に騙されてるんじゃないの?」

過去のデータや長期投資のメリットを説いても、カナさんの「1円でも減る可能性があるなら無理」という強固な姿勢を崩すことはできません。自分が信じる「合理的な備え」と、妻が守り抜こうとする「額面の確実さ」が平行線であることを感じ、ナオキさんは静かにため息をつくしかありませんでした。

とはいえ、元本割れのリスクを避ける「現金貯蓄」が完全に間違っているわけではありません。月5万円を積み立てる今のペースでも、確実に教育資金は貯まっていきます。大切なのは、どちらか一方の価値観を押しつけるのではなく、夫婦が納得できる着地点を少しずつ探っていくことなのかもしれません。

[参考資料]

・金融庁『NISAの利用状況の推移(令和7年12月末時点・速報値)』

・金融経済教育推進機構『家計の金融行動に関する世論調査 2025年』

・文部科学省『令和5年度 子供の学習費調査結果