コロンビア大学(こちらはアイビーリーグの1つ)の正門(写真=筆者撮影)

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アメリカでは職に就いていても、常に求人サイトをチェックしていなければならない。いつ人員整理の対象になるかわからないからだ。5、6種類以上の求人サイトに登録しているニューヨーカーは珍しくないが、その求人サイトで最近目立つのは人工知能(AI)開発会社の求人だ。
この中に「AIトレーナー」という職種がある。AIがきちんとした言葉を使いこなせるようにするために開発の手伝いをする仕事だ。AI開発の最先端を行くアメリカでは世界を牛耳るためAIで使用する言語は極めて幅が広く、ここでは日本語はメジャーな言語の部類に入る。このためAIの「日本語トレーナー」という職種の募集は多い。AIが多くの人々の仕事を奪うだろうとの懸念が世界で高まる中で「AIと仕事」のもう一つの現実がいまのアメリカの求人サイトにある。

AIが心の底からきらいで、AI動画を作って送ってきた友人と絶交したぐらいの記者だが、世の中の流れにはあらがえず、高い時給(中には100ドル近い求人もある)に釣られて「日本語トレーナー」に何度か応募したことがある。

選考の仕方は企業によってまちまちだが、指定された日本語の文章を読んでいる自分の声の録音を提出したことがあった。「文章を読むのではなく、自然な話し言葉で表現しろ」などと細かい注意事項があり、いくつかの文章を複数のパターンで録音し提出したが、その後、なしのつぶてだったのでネットで検索し、どんな会社なのか知ろうとした。しかし、それらしい会社が発見できなかったため、IT業界で働くアメリカ人の知人に尋ねたところ、こんな答えが返ってきた。

「求人サイトに高い給料の募集情報を掲載すれば、応募者が集まり、入社試験と銘打って言語の音声をかき集めることができる。そういう会社は採用する気なんかこれっぽっちもない。AI開発などといっても、ごろつきみたいな奴らがかなりいるから注意しろ」

とんでもない話だが、引っかかった自分が未熟だった。

◆元勤務先の3年前の決算について質問……意味が理解できない面接

次に見かけた求人は実態があるAI企業だったので応募したら、いま流行の「AI面接」を受けさせられた。最初のうちはAI相手に作り笑顔で話しかけていたが、自己紹介の後、話の流れなどおかまいなしに、記者がかつて働いていた会社の決算内容や、英語の間違い探しのような話をAIが持ち出してきて、独善的な質問をしてくるので笑顔が消えた。

データを瞬時に収集するのはお手の物であるAIは、人間の感覚とはかけ離れており、3年前の決算数字を示してきたが、そんな数字について答えようがない。そもそも経営者でもなかった自分の経歴に何の関係があるというのか。面接というものは、どんな質問にでも対応しなければならないが、これほどまでに突拍子もない質問だと、こちらは取り繕うことさえできない。

会話が成り立たず、不毛なやり取りが延々と続いて終了となったが、「日本語トレーナー」の募集なのに、日本語の能力を確認することはなく、面接の意味がさっぱり理解できなかった。

日本の名だたる企業の中でも、新卒採用の一次面接はAIで実施するというところがあるようだが、そういう企業の人事担当者は機械相手に自分をアピールするばかばかしさを理解しているのだろうか。1度でも自分で経験したら、AI任せになどしないと思う。AIの設定の仕方でいかようにもなるのかもしれないが、好意を抱き入社したいと門戸をたたいた若者に、効率化の名のもとで、こんな入社試験をさせるのはあまりにも失礼だ。一方で、こんな滑稽なことをやらされることに、日本の若者はもっと怒るべきだと思う。

アメリカの若者はそのAIに対し怒りの声をあげている。AIが若者の仕事を奪うということが現実に起きているからだ。アメリカで最も仕事が多いニューヨークでさえも大きな影響を受けている。ニューヨーク市立大学によると「エントリー・レベル」と呼ばれる新卒者向けの「初級職」の求人は2022年から24年までの間に37.4%減少した。22年は「Chat(チャット)GPT」が公開された年で、AIの普及とともに「初級職」の仕事は急減している。