資産家や経営者に激震…「令和8年税制改正」で“これまでの不動産節税”が封印。来年1月スタートの「5年ルール」に耐えうる「新時代の相続戦略」【公認会計士が解説】
昨年12月、2026年度(令和8年度)の税制改正大綱が公表され、不動産を活用した相続税対策の歴史において、過去最大級の転換点を迎えることとなりました。これまで資産家や経営者のあいだで“王道”とされてきた、収益不動産による資産圧縮スキームに事実上の終止符が打たれる内容となっています。特に相続直前の不動産取得による評価減や、不動産小口化商品を用いた節税を検討されている方にとって、今回の改正は極めてインパクトの大きいものです。本稿では、資産税および不動産税務を専門とする公認会計士の視点から、改正の核心である「5年ルール」の正体と、時価評価への完全移行がもたらす実務的な影響を、公認会計士の岸田康雄氏が解説します。
節税スキームが封印…令和8年度税制改正で示された“厳格姿勢”
「借入金で収益不動産を購入し、時価と相続税評価額の差を利用して遺産総額を圧縮する」という手法は、相続税対策としてこれまで長いあいだ用いられてきました。しかし、令和8年度税制改正大綱では、この「評価乖離」を意図的に利用した租税回避的な行為を、課税の公平性の観点から厳格に抑制する方針が明確に示されました。
これまでのように「相続が近づいたら不動産を買えばいい」という考えは、通用しなくなります。この相続開始直前の“駆け込み取得”については、従来の路線価ベースではなく、市場価格(時価)に基づく厳格な評価が適用されることになったのです。
今回の改正で特に重要なポイントは以下の2点です。
・貸付用不動産:取得から「5年以内」に相続・贈与が発生した場合、原則として時価(通常の取引価額)で評価される。
・不動産小口化商品:取得時期にかかわらず、常に時価評価へ移行する。
なぜ今回、賃貸マンションやアパートといった「貸付用不動産」の評価が見直されたのでしょうか。背景には、時価と税務評価額(路線価等)の“乖離”を利用した極端な評価圧縮が、預貯金で相続する納税者とのあいだに著しい不公平を生んでいたという問題があります。
通常、不動産の相続税評価額は時価の7〜8割程度(路線価ベース)に設定され、さらに貸付用不動産であれば、借地権割合や借家権割合による評価減が適用されます。その結果、時価の3〜4割程度まで評価が下がるケースもありました。
この仕組みを悪用し、相続が近づいた段階で多額の借入を行って不動産を取得し、相続発生後すぐに売却して現金化するという手法が常態化していたのです。
来年1月から新たに導入される不動産相続の「5年ルール」
令和9年(2027年)1月1日以後の相続・贈与から適用される新ルールの概要は以下のとおりです。
・対象物件:被相続人等が相続開始(または贈与)前5年以内に対価を得て取得・新築した貸付用不動産
・評価の原則:従来の路線価評価ではなく、「通常の取引価額(時価)」で評価
・「通常の取引価額」の算定方法:取得価額を基準にし、地価の変動等を考慮した金額の80%を目安に算出
たとえば、相続発生の2年前に1億円で賃貸マンションを取得したケースを考えてみましょう。現行制度では、「路線価評価+貸付用評価減」により、評価額は約4,000万円(約60%圧縮)となります。
この点、改正後(取得から5年以内)は、取得価額1億円を基準に80%ルールが適用されます。したがって、地価変動がない場合、評価額は8,000万円となります。この差額4,000万円に対し、相続税率が40%であれば、納税額は1,600万円増加する計算です。まさに「節税メリットが半減する」劇的な変化といえます。さらに、取得後に地価が上昇していれば、評価額は8,000万円を上回る可能性もあります。
ただし、一定の猶予措置も設けられています。通達の改正日までに、改正日の5年前から継続して所有している土地の上に新築された家屋(建築中を含む)などについては、従前どおりの評価が維持される場合があります。
不動産小口化商品はさらに厳格化
今回の改正で、現物の貸付用不動産以上に厳しい措置が講じられたのが「不動産小口化商品」です。
現物不動産の場合、5年を超えて保有すれば従来どおり路線価ベースの評価となりますが、小口化商品については取得時期を問わず常に時価評価となります。これは、小口化商品が“実質的な金融商品”として節税目的で利用されてきた実態を重く見た結果と考えられます。
小口化商品の相続評価を決める「3つ」の基準
投資家の方は、運用会社から届く書類のどの数字が評価額になるのか、以下の優先順位で確認しておきましょう。
1.事業者が示す処分価格・買取価格:事業者が提示する適正な買い取り価格
2.売買実例価額:事業者が把握している直近の適正な取引事例
3.定期報告書の記載価格:運用報告書等に記載されている不動産鑑定評価額など
これらの情報が存在しない場合に限り、現物不動産の評価方法(80%ルール等)が準用されます。つまり、小口化商品は事実上「時価のほぼ100%」で課税されることを覚悟しなければなりません。
「課税の公平性」と最高裁判決…税制改正にメスが入ったワケ
この抜本的な改革の背景には、令和4年の最高裁判決(マンション節税裁判)があります。
この判決では、路線価による評価が実勢価格と著しく乖離している場合、税務署長が「鑑定評価」等に基づき再評価を行う権利(通達6項の適用)が認められました。
その後、区分所有マンションについては「マンション通達」により1室単位の評価方法が見直されましたが、「一棟所有の賃貸不動産」や「不動産小口化商品」は依然としてこの見直しの対象外でした。
今回の改正は、こうした“抜け穴”を包括的に塞ぐものです。区分所有マンションだけでなく、大型の一棟物件や小口化商品を含め、相続直前に不動産へ形を変え、相続直後に現金化するという“一瞬の資産移し替え”による租税回避を完全に封じ込める内容となっています。
「5年ルール」を踏まえた「新時代の相続税対策」3つ
ただし、制度が変わるからといって、不動産活用の価値がゼロになるわけではありません。これからは「税率の歪み」ではなく、「資産そのものの価値」で勝負する時代です。
1.「5年」を見据えた早期の資産設計
現物不動産(RC造マンション等)については、5年を超えて保有すれば従来どおりの評価減メリットを享受できます。そのため、資産移転は“早めに着手する”ことが重要です。相続発生を待たず、5年、10年という長期スパンで資産を計画的に移転しましょう。
また、5年ルールの適用期間中に相続が発生するリスクを考慮し、遺言や家族信託を併用して管理体制を整えることをおすすめします。
2.インフレ・金利上昇に勝つ「地力」のある物件選び
節税効果が薄れる以上、物件そのものの収益力が唯一の防御策となります。
なかでも、東京23区の平均賃料は前年比よりと力強く上昇しています*。政策金利が0.75%へ引き上げられる「金利のある世界」では、賃料改定が容易な東京中心部のRC造物件が、インフレ耐性と利回りの両立に最も適しています。
*【東京23区/東京都下/東京都心6区】賃料動向 LIFULL HOME'S マーケットリポート(2025年10月)
3.相続時精算課税制度による「評価額のロック」
改正が適用される令和9年1月1日より前に、不動産小口化商品などを「相続時精算課税制度」を活用して贈与することで、現行の低い評価額で資産価値を固定(ロック)することが可能です。これは、改正直前のいましかできない「期間限定の高度な対策」といえます。
資産分散や売却を視野に、対策を
税制改正は、ポートフォリオを見直す最大のチャンスでもあります。
これまで節税目的で保有していた低収益物件(郊外アパートや築古物件)は、改正後には単なる“負債”になりかねません。一方で、最新の不動産市場では投資家の姿勢が「積極化」にシフトしており、東京近郊の物件価格は依然として高水準を維持しています。
したがって、低収益物件を売却し、教育資金や、2027年から拡充される「こどもNISA(年間60万円/総額600万円)」、あるいは課税方式が20%分離課税へ見直される方向の「暗号資産」など、他資産への分散(組み換え)も視野に入れるべきでしょう。
まずは、自分の資産が「いま市場でいくらで売れるのか」を把握しなければ、相続税の試算すらできません。以下のステップを踏み、まずは「時価」を確認しましょう。
1.無料オンライン査定:「不動産売却王」などのサービスを活用し、最新の市場価値を把握する
2.純資産の棚卸し:借入残高と時価を照らし合わせ、今回の「80%ルール」適用時の納税額を試算する
3.専門家への相談:試算に基づき、継続保有か、売却による資産分散かを決断する
よくある質問(FAQ)
Q1.改正はいつから適用されますか?
A.令和9年(2027年)1月1日以後の相続または贈与から適用されます。それまでの駆け込み贈与には現行ルールが適用される可能性がありますが、通達6項(税務署による否認)のリスクには引き続き注意が必要です。
Q2.すでに持っている物件も5年ルールの対象になりますか?
A.相続・贈与が発生した時点で「取得から5年以内」であれば対象となります。たとえば2025年に購入し、2028年に相続が発生した場合は、新ルールが適用されます。
Q3.自宅(居住用)として使っている不動産も時価評価になりますか?
A.いいえ。今回の改正は「貸付用不動産」および「不動産小口化商品」を対象としたものです。自己居住用の不動産や、小規模宅地等の特例が適用される土地については、今回の5年ルールの直接的な対象外です。
Q4.不動産以外の資産クラス(NISAや暗号資産)への影響は?
A.2026年度改正では、18歳未満の「こどもNISA」創設や暗号資産の20%分離課税移行が示されています。不動産節税が厳格化される分、これらの投資枠を活用した「資産の分散」が、公認会計士としても推奨されるポートフォリオ戦略となります。
「節税」から「資産価値重視」へ――新時代の相続対策が始まる
2026年度税制改正により、「不動産を買うだけで節税できる」安易な時代は完全に終わりを告げました。これからは「節税」という歪みを狙うのではなく、不動産本来の「収益性」「流動性」「耐久性」を見極める能力が、資産防衛のカギとなります。
まずは、ご自身の保有資産を「5年」という時間軸で棚卸ししてください。令和9年の施行まで、私たちに残された時間は限られています。
「いつまでに5年を超えるか」「いまの時価はいくらか」を精査し、必要であれば早期の贈与や資産の売却・組み換えを断行すること。この「時間軸の逆算」こそが、新時代の相続対策において最も価値のある戦略となります。
まずは専門の税理士・公認会計士と共に、現時点での資産価値の「健康診断(シミュレーション)」を受けることから始めてください。
岸田 康雄
公認会計士/税理士/行政書士/宅地建物取引士/中小企業診断士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)

