法則とは、一定の条件下で成立する規則性や関係性を指す。そのため、時代や場所を問わない普遍的なものとして、職場や家庭生活に応用することができる。政治・教育ジャーナリスト清水克彦さんの著書『知って得する、すごい法則77』(中公新書ラクレ)で紹介されている77の法則の中から、ビジネスシーンで使える4つを紹介する――。
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■会議がだらだらと長引いてしまう原因

?パーキンソンの法則――仕事の量は、与えられた時間をすべて満たすまで膨張する

「30分で終わるミーティングだと聞いていたのに、実際には1時間もかかった」

こんな経験がある方は多いのではないでしょうか。

誰かが遅刻した、議論が思いがけず白熱した、といった理由もあるかもしれませんが、大きな理由は、ミーティングの主催者が、会議室や打合せ室を一時間確保していたことにあります。

「1時間までは大丈夫」

こんな気持ちが、短く終わるはずのミーティングを長くしてしまったのです。

これを「パーキンソンの法則」と言います。

■「余裕を持った予算」の落とし穴

英国の歴史学者で政治学者のC・N・パーキンソンが提唱した、「仕事の量は、完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する」というものです。

「時間的に余裕があるから大丈夫。足りなければ少し残業すればいい」

このように考えていると、効率的に終わらせることができる作業にだらだらと取り組むようになって生産性が下がります。

費用に関しても本来であれば節減すべき予算を、「少し多めに確保しているから」と考え、上限近くまで使い切ってしまうと、経費がかかりすぎるという状況から抜け出せなくなります。

その意味で言えば、パーキンソンが提唱した「人間は、利用可能な資源をあるだけ使ってしまう」という法則は、タイムマネジメントやコストマネジメントに関して、どこか甘い人間の本質を見事に突いていると言えるのではないでしょうか。

■時間の浪費を防ぐため、会議は基本「30分」

きょうからできること

・上司から与えられた期限より短い期限を自分で設定する
→どうすれば効率的にできるか考えるようになり、前倒しで作業を終わらせることが可能になる。

・すき間時間を有効活用する
→会議や打合せの合間などにできる5分から10分のすき間時間で、出張費や打合せ費の伝票処理、クライアントへのメール作成などを終えておくと、より重要な作業に集中する時間ができる。

・会議やミーティングは短めに設定する
→会議の前に論点を洗い出しておき、会議自体は「30分」を基本にする。会議は参加者全員の時間を奪うため、10人のメンバーでの会議が30分長引けば、300分(5時間)を浪費することになる。

・部下やスタッフには締め切り、ゴール、予算を明示する
→「いつまで」「どこまで」を明確に伝える。予算に関しては、「予算を使い切る」ではなく「予算内に抑える」を徹底し、「予算をオーバーしても価値がある」と考えられる事象には投資を惜しまない考えを徹底する。

写真=iStock.com/Andrii Zorii
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こうして列記してみると、どれもシンプルなものばかりです。

ただ、筆者が在籍していた放送局をはじめ、取材で何度も訪れた官庁や企業などには、まだ「残業は当たり前」で「予算は年度内に使い切って当然」という考え方が残っています。これでは日本経済全体が好転しません。

パーキンソン氏が提唱した、時間管理や予算管理に一石を投じる法則は、自分磨きや子どもの受験勉強、それに、家計管理にも応用できるので参考にしてみてください。

■どんなに優秀な人もいずれ「無能」になる

?ピーターの法則――あなたは有能な管理職ですか?

「あの人、昔は有能だったのに……」

職場で、こんな声を聞くことはありませんか。筆者は前職の在京放送局でも、現在の勤務先である大学でも、しばしばこのような声を耳にしてきました。

これは、「ピーターの法則」に関連するものです。

この法則は、1969年、アメリカ・南カリフォルニア大学の教育学者、ローレンス・J・ピーター教授が提唱したもので、人は、職場において、能力の極限まで昇進し、最終的に自身の無能さが露呈してしまう職位に到達してしまうというものです。

■プレイヤーの能力と管理職の能力は別物

もちろん、無能な社員や、たとえ能力は高くても、上司に敬遠されたり運がなかったりした人は平社員や低い職位に留まることになりますが、たとえ有能な社員であっても、やがて無能な管理職になり、職場全体が、無能な人や、やる気を失った人で埋め尽くされてしまうということになります。

筆者が長く勤めてきた在京放送局の例で言えば、番組制作に秀でたプロデューサーや放送局の顔となるような実績を積み重ねてきたアナウンサーが、必ずしも優秀な管理職、もっと言えば、良い経営陣になれるとは限りませんでした。

ワイド番組を制作し高い視聴率や聴取率を上げるためにチームを指揮する能力や、番組でわかりやすく喋る能力と、他の部署を含めて業務を管理していく能力は別です。仮に、その能力があっても、本人が「現場で働きたい」というケースもあります。

筆者自身、報道部や制作部の仕事には自信があったものの、一時、管理職に昇進し編成部に配属されたときは、何をどうしていいのかわからず、仕事内容にも興味が持てず、不毛な二年間を過ごしたことがあります。

また、局の看板アナウンサーだった同僚は、いきなり、アナウンサーという仕事から外され、編成局長という取締役の一歩手前の高い職位に抜擢されたことで体調を崩し、しばらくの間、休職を余儀なくされました。

■トヨタの「幹プロ」で教えていること

似たような例は他業種にもありますが、これは組織や企業にとって損です。メジャーリーグで言えば、大谷翔平選手を選手から監督にするようなものです。

たとえば、トヨタ自動車は「幹プロ」と呼ばれる幹部養成プログラムを充実させています。管理職として何をするのか、に始まり、部下とのコミュニケーションの手法を学ぶ「評価者訓練」と呼ばれる研修が徹底されているのです。

一日かけて学ぶプログラムでは、「成果のあがらない年上の部下」「プライドの高い若手社員」「そこそこの意識で働く事務職」といったケースについて、ロールプレー演習が実施されています。

大学の文系学生に人気のニトリホールディングスでも、「社員が自分のロマンを見つけ、実現に向けて成長していくこと」を重視し、40代では個々の専門性を高めること、50代では経営に必要な総合的スキルの修得に重点が置かれています。

これらはいずれも、職場で実施されているOJT(=On-the-Job Training)の域を超えたものです。

筆者が職場で感じてきたこと、そして、先端企業で実施されている管理職教育から言えば、「ピーターの法則」を回避するには、「昇進させる前に意思を確認する」「昇進後の仕事内容や会社側が求める要件を明示する」、さらには「能力向上の機会(管理職教育)を施す」などの対応が必須になると感じています。

■社長が「昔はさ…」と語る会社はダメ

?ジャーディン・フレミングの法則――こんな会社はダメ

この項では、逆に「こんな会社はダメ」という話をしましょう。

香港を拠点にした資産運用会社、ジャーディン・フレミング(現・J.P.モルガン・アセット・マネジメント)の幹部が、投資の可否を診断する目的で日本企業を訪問しているうちに見出した法則があります。それが「ジャーディン・フレミングの法則」です。

この法則は、日本企業の外見や慣習からその業績や成長性を判断する方法で、ダメな企業の例として次のようなものがあります。

「ジャーディン・フレミングの法則」で診るダメ会社の指標

・社長が、自分の過去の苦労話に時間を割くような企業は成長が期待できない。
・社長が著名人との交際を匂わせるような企業には投資を避けた方が良い。
・体操を社員に強要する会社は儲からない。
・スリッパに履き替えさせられる企業は成長しない。
・創業者に自叙伝をプレゼントされたら、その企業への投資は止めた方が良い。
・社長室が豪華な企業は成長率が低い。

写真=iStock.com/saravuth-photohut
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■力点を置くなら過去より未来のはず

つまり、古いしきたりや風習が残っている日本企業は、この先、成長が期待できないということなのです。皆さんの職場はいかがでしょうか?

全ての項目に明確なエビデンスがあるわけではありません。とはいえ、社長の苦労話で言えば、これからやろうとしていることに重きを置いているのか、過去の栄光に力点を置いているのか、経営者のベクトルがどちらに向いているかは重要です。

自叙伝や豪華な社長室も、余計なことに時間とコストを割いているような企業は将来性がないと言っていいと思います。

そういう職場に身を置いている方は、改革の声を上げる必要がありますし、大学生などの場合は、入社を避けた方がいいと言えるかもしれません。

■「失敗の芽」を見落とすタイミング

?チズホルムの第一法則――上手くいっているときは何かがおかしくなっている

もう一つ、ダメな会社を判別する法則を紹介します。それが「チズホルムの第一法則」です。

清水克彦『知って得する、すごい法則77』(中公新書ラクレ)

「チズホルムの第一法則」とは、何事も順調に進んでいるように見えるときに限って、何か問題が発生している可能性が高いという法則で、1980年にスウェーデンの心理学者、ピーター・チズホルムによって提唱されたと言われています。

振り返れば、筆者の場合も、チーフプロデューサーとして率いる報道ワイド番組が、首都圏のラジオ聴取率で1位を奪取した絶頂期に、裏では、ネタ選びが雑になったり、「1位になった」と調子に乗る出演者と、「まだ一度や二度、勝っただけだから」と引き締めを図る筆者との間で路線対立が生じたりと、小さな火種がくすぶり始めていたものです。

チズホルムは、自身が提唱した法則を、人間の認知バイアスである「確証バイアス」によって説明しています。

■好調なときこそ、警戒することが重要

「確証バイアス」は、自分の信念や期待を裏付ける情報にだけ着目し、反証する情報は軽視してしまう傾向を指します。

つまり、何事も順調に進んでいるように見えるときは、良い情報にのみ注目し、「今後は悪化するかも」と思わせるような情報はスルーしてしまうということです。

「驕る平家は久しからず」と言いますが、好調な業績に酔い、問題が発生している可能性に気づかず、その結果、衰退を招く憂き目を味わう恐れがあります。

「チズホルムの第一法則」を活用するには

・持続的な成功につながりそうか、立ち止まって検証してみる。
・好調なときこそ、課題や改善点を見つけ、次の目標設定を行う。
・チームのメンバーに競争意識を持たせたり、数人を入れ替えたりするなどの作業を行う。

リスク管理とも言えますが、業績が下降線を辿る中での改革は後手に回るものです。上昇機運にある中での改革こそ持続可能な成功につながると考えたいものです。

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清水 克彦(しみず・かつひこ)
政治・教育ジャーナリスト/びわこ成蹊スポーツ大学教授
愛媛県今治市生まれ。京都大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得満期退学。文化放送入社後、政治・外信記者。米国留学を経てキャスター、報道ワイド番組プロデューサー、大妻女子大学非常勤講師などを歴任。専門分野は現代政治、国際関係論、キャリア教育。著書は『日本有事』、『台湾有事』、『安倍政権の罠』、『ラジオ記者、走る』、『2025年大学入試大改革』ほか多数。
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(政治・教育ジャーナリスト/びわこ成蹊スポーツ大学教授 清水 克彦)