バルセロナ戦でMVPに輝く活躍を見せた久保。(C)Getty Images

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 スペインには「嵐の後には静けさが来る」という諺がある。あるいは稲妻が光った後に音が聞こえるので、その逆かもしれない。確かなのは、プルゼニでの予想外の敗北とタケ・クボ(久保建英)の低調なパフォーマンスが、レアル・ソシエダがラ・リーガ首位のバルセロナを撃破する完璧な嵐を巻き起こすきっかけになったということだ。

 金星ではない。少なくともファンは、開幕以来、チームが期待に応えるパフォーマンスを見せてくれないことに苛立ちながらも、これまでと同じように、自分たちのヒーローが灰の中から甦り、再び羽ばたく予感を抱いていた。ソシエダがプレー内容、チャンスの数で相手を上回り、一方、公式戦7連勝中だったバルサは枠内シュートを1本も放てず、無得点に終わった。

 その勝利の最大の立役者となったのがタケだ。ソシエダの反撃の起爆剤になったのが前述のヴィクトリア・プルゼニ戦での土壇場の失点だったとすれば(ソシエダが1−2で敗北)、タケのそれは60分、交代でベンチに退いていた時に始まっていたのかもしれない。

 その夜はブロックを敷いて引いて守る相手に封じられ、ほとんどチャンスに絡むことができなかった。タケは物事がうまくいかないと自責の念に駆られ、それをエネルギーに変える。今回のような大一番であればなおさらだ。
【動画】久保建英がキレキレのドリブルでバルサ守備陣を翻弄!
 現地にはこの試合のMVPにナイフ・アゲルドを推す声もある。確かに今シーズンここまでラ・リーガ全体を見渡しても、最も活躍を見せている補強選手の1人だが、彼を含めた守備陣がバルサの攻撃を封じ込んだのは、イマノル・アルグアシル監督が植え付けた組織力を土台に、全員がハードワークして、全体が連動し、コンパクトネスを保つことができたからに他ならない。その中には、当然、90分間休むことなく走り続けて守備にも奔走したタケも含まれる。

 もちろん攻撃でも主役だった。タケの冒険は、そのほとんどの場合、ゴールまでの気が遠くなるような距離と敵地で待ち構える強力DF陣を前に、不可能なミッションのように思えたが、どんな障害もまるで関係なかった。ボールを持つたびにハリケーンと化し、行く手を阻もうとする相手を1人、また1人と料理していった。
 
 開始早々にホン・アランブルにボールを預けてチャンスの起点に。縦に抜けたアランブルのクロスにルカ・スチッチが合わせたが、マルク・カサドがクリアしてゴールを死守した。

 その後は今なお物議を醸しているロベルト・レバンドフスキのオフサイド判定によるゴールの取り消しも挟んで、試合はバルサのペースで進んだ。

 その流れを変えていったのがやはりタケで、19分に右足のクロスでオジャルサバルのシュートを演出。観客はゴールを確信し、ボールがブライス・メンデスの踵に当たらなければという場面だった。

 30分に今度は縦に突破した1度目の仕掛け、中に切り込んだ2度目の仕掛けで相手DF陣を切り裂いた後、左足を一閃。シュートは惜しくもイニャキ・ペーニャの正面を突いたが、この日最高の個人技だった。

 前半アディショナルタイムのカサドを手玉に取った後、そのままドリブルで運んでスペースに走り込んだシェラルド・ベッカーにパスを送ったプレーもキレキレだった。ベッカーの左サイドからのクロスに、フリーの状態で合わせたオジャルサバルは決めなければならない絶好機だった。
 
 後半もタケは積極的にボールに関与しながら、守備でもスプリントを繰り返してファンの喝さいを浴びた。結局ゴールは33分のベッカーの1点のみにとどまったが、タケが認めたように、3−0になってもおかしくない内容だった。

 改めてソシエダのクラックであることを実証した一夜。「とても気分が良い。ソシエダの一員だと感じたし、拍手を浴びてファンが僕を愛してくれると実感できた」

 試合後の言葉からはタケのソシエダでの生活が我々が想像している以上に長く続くかもしれないという期待感を抱かせた。こんな熱いプレーを見せられて、しびれないファンはいない。

取材・文●ミケル・レカルデ(ノティシアス・デ・ギプスコア)
翻訳●下村正幸