台鋼ホークス・劉東洋GM【写真提供:台鋼雄鷹球団】

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台鋼ホークスの劉東洋GM「ファン目線を大切にしたい」

 今季の台湾プロ野球は、公式戦(全360試合)で史上初の200万人台となる276万6386人、1試合平均でも初の7000人台となる7684人をマークするなど、史上最多の観客動員数を記録した。ファン待望の室内球場「台北ドーム」はフィーバーとなり、新たな客層を開拓しながら観客動員記録を次々に更新した。

 その中で、今季から第6の球団として1軍公式戦に参入した「台鋼ホークス」は、新球団でありながら存在感を発揮してリーグの盛り上げに大きく貢献。1軍初年度のシーズンを終えた台鋼ホークスの劉東洋氏は、ファンから三国志演義の中心人物、劉備の尊称「劉皇叔」と呼ばれている敏腕。2022年3月に初代GMに就任した同氏は、日本留学経験を持ち、日本語は流暢で、長らくCPBLの日本担当窓口として活躍した人物でもある。劉GMに、今季の振り返りと手応え、そして今後の目標などを聞いた。

――1軍初年度のシーズンは、他チームと選手層の差もあり、1位の中信兄弟と20.5ゲーム差の最下位に終わりました。

「ゼロからの新球団ですし、1年目の今年、すぐには勝てないとわかっていました。ただ、ファンの方々に『勝てないかもしれないけど、他球団に対抗できる力を持っている』、そして『負けても一緒にこの悔しさを味わいたい』と感じてもらうこと、この事がとても大事だと思っていました。エクスパンションドラフトルールの活用やトレードの敢行なども、その『対抗』のための力を確保するためでした。私は選手たちに、諦めずに一生懸命やりぬくこと、日々進歩していく姿を見せることから積み重ねていこうと、さらには、ファンに期待を持ってもらえるような、感動してもらえる戦いをみせようと、常々伝えていました」

――その意味では、勝率を前期の.383から、後期には.441に引き上げ、年間勝率4割の数字を残すことができ、1年目のシーズンとして最低限の目標を達成できたことは大きいと思います。

「1番課題だったエラー数も、前期の71(リーグ最下位)から、後期は43(リーグ4位)まで減りました。守備の乱れでため息に包まれていた球場の雰囲気が、後半戦に入ってからは暖かい声援に変わったと肌で感じています。もう一つの収穫は若手選手の成長ですね。新人王の候補3人以外に、中継ぎとして14ホールドを挙げた黄群も、受賞してもおかしくない成績を残しました。新人選手を育てることは今年最大の目標でしたので、台鋼の新人選手たちの活躍は本当に嬉しいものです」

――球団運営は難しいといわれた高雄、そして澄清湖球場を本拠地としている中、1軍初年度は観客動員は健闘しました。球団運営の戦略方針を教えていただけますか。

「他球団と同じ方法では絶対に生き残れないと思い、斬新な別の戦略でいかなければいけないと考えていました。それは、トレードを含めた選手獲得もそうですし、プロモーションもそうですね。『独自路線なんて偉そうに』と言われるかもしれませんが、私はいくら叩かれても別にいいのです。でも、新球団が生き残るにはそれしかないのです。結果からすれば、今年の観客動員数は、特に澄清湖球場で安定していたので正解だったといえます。ただ、来年以降、ここからどう伸ばしていくのか、もっといいチームにしていく為には、さらに戦略を考えていかないといけません。職員には『これで満足してはいけない』と言い聞かせています」

――地元である高雄のファンの反応はいかがでしたか。

「高雄に台鋼ホークスができる前は、わざわざ台北、台中、台南に赴いて、地元球団ではないチームを応援していた。今は『地元にチームができて嬉しい』とファンの方から、直接感謝の言葉をかけていただいた事がありました。ファンの皆さんに、こうした感動を与えることができて、とてもやりがいを感じています」

――2リーグ分裂時代に高雄、屏東を本拠地とした「雷公(FALA)」の復刻風ユニホームが大変話題になりました。また、このユニホームを含め、胸に「TAKAO」と表記されているユニホームが複数ありますが、どんな意味合いがあるのでしょうか。

「うちは全くの新球団で歴史がないですから、統一や兄弟のように、オールドファン向けの企画はできません。ただ、高雄の野球ファンにとっては、TMLの『雷公』であったり、『La Newベアーズ(楽天モンキーズの前身)』であったり、過去にも高雄に地元チームはあったわけです。そうしたチームであれば、我々にもこうした企画が可能ではないかと考え、今回、TML雷公の復刻デーを企画しました。ユニホームの胸の『TAKAO』の表記は、『我々は高雄の球団であり、高雄を代表してプロ野球の世界で戦っている」』というアピールですね。その思いが、ファンの方たちにはもちろん、選手たちにも浸透してほしいという思いがあります。高雄の表記が、台湾華語表記の『KAO HSIUNG(カオション)』ではなく『TAKAO』なのは、その方が格好いいからです。親しみやすいですしね」

――確かに、高雄という地名は元々、マカタオ族が名付けた時代から「TAKAO」の音に近く、時を経て台湾語で「打狗」、そして日本語で「高雄」と表記が変わり、台湾華語読みの「カオション」になった経緯があります。チームのマスコットも「TAKAO(鷹雄)」くんですね。

「そうですね。そして、もう一つは『TAKA』は『鷹』と同じ発音である上、『鷹雄』は『TAKAO』とも読めますが、台湾華語読みだと『インション』で『英雄』と同じ音。つまり、『我々はヒーローになる』という意味合いも込められています。思いついた時、『高雄のチームとして、これ以上のマスコットのネーミングはない』と思って、すぐ決めました」

「活力があり、フレッシュで温かみのある」チームを目指す

――怪我で無念の退団となった笠原祥太郎投手にはお別れ動画を作成。同じく怪我をした小野寺賢人投手は球場でファンとの交流会を実施。元NPBの呉念庭内野手や王柏融外野手にクローズアップした動画では、日本のファン向けに日本語字幕をつけた。歴史や選手へのリスペクトを感じる企画や、ファン目線に立ったハートフルな企画を行う理由は。

「海外の方が、台湾人や台湾の魅力は何かという話になると、『人情味』とか『人の温かさ』を挙げる方が多いので、台湾、特に高雄のいいところを野球を通じて伝えられたらいいなという思いがあります。球団の運営については、色々な評価の仕方はあると思いますが、私がファンの方々から言われて何よりも嬉しいのは、台湾華語でいう、「用心(心を込めて取り組んでいる)」という言葉ですね」

――キャプテンをつとめた王柏融、途中加入の呉念庭はここからという8月末、怪我で無念の離脱。2人のチームに対する影響力は。

「新球団の発足段階において、看板選手は絶対必要ですからね。NPB経験を持ち、また代表チーム中心選手の二人の存在は、知名度の低い新人が大部分のうちにとって、とても大きいです。彼らの影響でチーム全体の注目度が高まり、それによって若手選手の露出度も高くなりました。興行面の戦略として、そうした点の相乗効果は期待していたとおりでした。今シーズン、2人は共に怪我で満足するシーズンを送ることはできませんでしたが、来年こそモヤとの3人による、真の『元パ・リーグ勢最強クリーンアップ』が実現することが楽しみです。ファンも期待していると思います」

――看板選手や、成長著しい若手のホープに加え、拡張ドラフトやトレードで移籍してきた左腕の江承諺投手や張肇元捕手ら中堅選手も奮闘。ドラフトを見ると、異色の経歴の選手や、過去幾度も指名漏れした選手の指名獲得も少なくありませんが、この点について独自の戦略は。

「私は『環境が変われば、人は変わることができる』という信念をもっています。もう一つは、人間ってやっぱりモチベーションが大事ですよね。もしかしたら言い訳になるかもしれないですが、『いくら頑張っても使われない」』と思うと、モチベーションはなかなか上がらないじゃないですか。でも、環境が変わって、頑張ればチャンスがあるぞと思うことができれば、人って変われるし、頑張れるんですよ。私は、台湾球界には『第2の江承諺』になれる選手が、まだまだいると思っていますよ」

――チャンスをつかんだという点では、独立リーグ出身の小野寺賢人投手が活躍しました。

「小野寺(賢人)くんが代表的な例だと思うのですが、日本には技術が高く、特にコントロールがいい投手が多いですよね。横田(久則一軍投手統括)コーチと話をした中で、多少、獲得のリスクはあるかもしれないけれど、『これくらいの投球技術、コントロールがあれば、台湾球界でも、ある程度通用するだろう』と感じました。それだったら、他球団のようにエージェントの紹介でアメリカや中南米から獲得するだけではなく、横田コーチのパイプや私の人脈もある中で、こうした獲得方法もあるのではないかと考えました。小野寺くんは、2勝4敗でしたが、6試合連続のクオリティスタートを見せ、防御率は2.31、WHIPも0.97ですよね。彼が投げた前期シーズン、打線が打てなかったので、後期だったら5勝くらいしていたかなと。グラウンド内でのパフォーマンスはもちろんですが、グラウンド外の彼のキャラクターもあって、ファンに愛される外国人選手になりつつあるので、あらためて、獲ってよかったなと思っています」

――では、これからどんなチーム像を理想とされていますか。

「全ての人に好かれるチームづくりは難しいですが、活力があり、フレッシュで、温かみのある、そんな魅力あるチームを作りたいと思っています。チーム自体の雰囲気や環境が、いい影響を与えているのか、台鋼は、親近感のある選手やチアリーダーが多いとよく言われます。チームの良い雰囲気が選手たちを変える、そんな優れたチーム文化をつくりたいと思っています」(「パ・リーグ インサイト」駒田英)

(記事提供:パ・リーグ インサイト)