オランダで帰国便キャンセル。サザン最後の夏フェスに間に合わない危機【清水みさと連載】

写真拡大 (全5枚)

オランダからの帰国便が突然フライトキャンセルに

オランダから帰国する1時間前。

私は、搭乗口を確認するため、電光掲示板を見上げて、東京・羽田行きを探していた。
15:30発、時差7時間により羽田空港には翌日10時到着予定。あさってには人生初のロッキンジャパンが控えている。サザンオールスターズ最後の夏フェス参戦というスペシャルにラッキーをぶちかました私は、今日必ず帰国しなければいけない。

サウナの仕事でオランダに来たのが約2週間前。私はヨーロッパを周遊するために延泊を希望して、オランダ→スイス→ハンガリー→デンマークと、めまぐるしく一人旅をしていた。行きたいときにすぐ行きたい私は、一人でどこへでも行けてしまうのも手伝って、今年すでに10カ国行っていた。それでもまだまだ行きたい国がありすぎる。ここぞとばかりに欲張った今回の旅も存分に味わい尽くして、今は日本がとても恋しい。外国と母国の両方に愛がある、非常にいい状態である。
〈スイスのユングフラウヨッホに行ったときの写真〉
あった、東京・羽田行き。
視線を右へとずらして搭乗口を確認すると「cancel」という文字が発光していた。

え?

cancelとはカタカナでキャンセル。あれ、キャンセルって遅延って意味だっけ?
突然私の脳みそが壊れたおもちゃのようにグルグル回って、心臓は太鼓をたたくようなはじける音を鳴らしはじめた。

待って、私、帰れない。

震えた。これまでの旅でもさまざまな失敗を繰り返してきたけれど、フライトキャンセルなんて初めてのことだった。財布もiPhoneも盗まれたことがあるし、ついこの間は、出発当日までビザが間に合わなかった。でもそのどれもが自己責任で、なんとかあきらめがついたけど、今回はまったくもってわけが違う。万全を期した状態で突如降りかかってきた失敗。これで予定がなければむしろ延泊ヤッホーと大喜びだったけど、ロッキンが待つ私には大不幸(何回も言う)。

どこへ行けばいいのか右往左往したけれど、今動かすのは足じゃなくて指だと気づいた私は、とにかく帰りたい一心で日本行きの航空券を探した。

「オランダ→エジプト→日本」
変なトランジットだと思ったけど、これがいちばん早かった。明日17時着。予定より7時間遅れるけれど、全然いい。それに乗りたい。帰りたい。すかさずチケット購入へと進み、クレジットカード情報を入力。

あぁ、あせった、帰れないかと思った。

やっぱり私って、ツイている。人一倍すったもんだもするけれど、結局なんとかなってしまうのだ。ホッとしてあくびが出た拍子に涙が浮かび、かすんだ目がうるおって途端に視力がよくなった。

ほんの数分の間に、40万円以上も値上がり⁉


「フライト料金が419,958円だけ値上がりして614,479円になりました。」

自分の目を疑った。うるおった目にはよく見えすぎる。

クレジット情報を入力しているほんの数分の間に、40万以上値上がりしていた悲劇。さすがに笑ってしまった。フライト需要に合わせて瞬間的に値段が爆発するなんて、AIもやりすぎだろと思った。

ちょっと強めにキャンセルボタンを押して(できうるかぎりの抵抗)、なんとか明日中に着く中国、イギリス、フィンランドとさまざまな経由のフライトを当たり散らすも最後の最後で売り切れる不運。どうやらみんななんとかして日本に帰らなければいけないらしい。みんなロッキンに行くの? ねえ。

そうこうしてるうちに明日着のフライトが続々と売り切れ、2日後着というロッキンにすら間に合わない便ばかりが画面を埋めつくしはじめた。もうあきらめようかな。珍しく弱音の清水。

ここにいてもしかたがないのでいったん外に出ることにした。ずっとオランダの空港内にいたのに、オランダに入国するために、入国審査に並んだ。みなさん、どこの国からやってきたんですか? あ、私? 私はオランダです。オランダからオランダに来ました。

それにしても、私は旅をすると珍事件ばかり起きるのなんなんだろう。

ひとまずカフェに入り、あきらめムードを漂わせ、この際だしのんきにコーヒーでも飲みながら片手間でフライト情報を見てみると、「トルコ経由(残り1枚)」が突如姿を現した。到着は23時。全然いい。と同時に、謎のフライトキャンセルによる振り替えフライトの連絡が届いた。韓国経由で3日後着ってもはやロッキンも終わったその翌日着。
これなら無料で帰国ができるらしい。トルコ経由はそもそも航空会社が違うから、補償されるのはもとのチケット代の7割返金のみである。

サザンとお金をてんびんにかけた。こんなに必死になっているけれど、実際、日本の予定といえばロッキン(サザン)だけで、仕事ではないから本当は無理して帰らなくたってよかった。往復より高い片道チケットを払ってまで、果たして私は日本に帰らなければいけないのだろうか。

帰る。

瞬間だった。ためらわなかった。今こそお金の使いどきだと思った。
残り1枚の少々高いチケットをすぐさま手に入れて、私は予定より13時間遅れの23時に日本に帰った。翌日朝イチで、ロッキンジャパンへと向かう。
〈最終的に買えたチケットが、オランダ→トルコ→大阪→羽田〉

サザンオールスターズ最後の夏フェスへ

お金って大切だ。大切にする方法はさまざまだけど、私は使うことでお金を大切にしていきたいと思っている。自分の心が動く物や事に、思い切って使う。それはたとえば、旅をすること、おいしいものを食べること、そして、サザンオールスターズ最後の夏フェスに行くために。

夕暮れどきに始まったサザンのライブは、気がつくとあたり一面真っ暗で、ステージだけが宇宙まで届きそうなほど発光していた。5万人がひとつになっているのを肌で感じたとき、本当に帰ってきてよかったと感動のあまり涙がにじんだ。なんで目がうるおうと視力が突然よくなるんだろうね、サザンがよく見えまくる。幸せだ。

山ほど失敗もするけれど、あきれるほどの土産話を携えて、懲りもせずまた旅に出よう。
私にとって旅は、とびきりの自己投資なのだ(この5日後インドに行きました)。

本日もトトノイマシタ。

:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

〈〉

PROFILE
清水みさと(しみず・みさと)

1992年、奈良県生まれ。タレント、女優。サウナ好きとして知られ、サウナ・スパプロフェッショナル、サウナ・スパ健康アドバイザーの資格を持つ。日本最大のサウナ検索サイト「サウナイキタイ」のモデル、フィンランドサウナアンバサダー、ラジオ「清水みさとの、サウナいこ?」(JFN21局/Spotify)のパーソナリティとしても活躍中。
Instagram @misatoshimizu35

〈〉