「毎日殺される夢を見た」時期も…当時20歳で『トリック』、22歳で『ごくせん』をヒットさせた仲間由紀恵(45)の“大きな転機”〉から続く

 10月30日に45歳の誕生日を迎えた仲間由紀恵。20歳で主演を務めた『トリック』(テレビ朝日系/2000年〜)は大きな転機となり、同作から「コミカルな芝居をするときは笑わせようと思っちゃいけない。気負わないということ」(『SANZUI』2014年秋号)を学んだという。その後も様々な役柄に挑み、プライベートでは結婚・出産も。彼女の“気負わない”姿勢は随所に散りばめられていて……。(全2回の2回目/はじめから読む)

【画像】当時34歳と48歳…仲間由紀恵と“14歳差”結婚した俳優

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 2006年にはNHKの大河ドラマ『功名が辻』に主演、戦国武将・山内一豊の妻の千代を演じた。時代劇では同年暮れ公開の映画『大奥』でも主人公の絵島役に起用されている。#1でとりあげた「恋のダウンロード」がスマッシュヒットしたのもこの年で、歌手としての出場はかなわなかったものの紅白歌合戦の司会を前年に続き務めている。紅白の司会はその後2008年と2009年にも務めた。


2006年、映画『大奥』制作発表会見での仲間由紀恵 ©文藝春秋

 舞台にも2004年のミュージカル『スター誕生』で初出演した。この公演の千秋楽、歌っている途中でいきなり歌詞を忘れてしまう。だが、彼女は《自然と焦りもしなかったですね、ただ出ないなぁ、出ないなぁ、と(笑)。それで、ちょっと手で口元をごまかす感じで後ろを見て、四小節ぐらい考えたら、何とか思い出せたので、何事もないように歌い出し》、ピンチを乗り切ったという(『文藝春秋』2015年11月号)。周囲の人たちにも仲間のポーズが涙をこらえているように見えたらしく、《皆さん「あぁ、千秋楽だから感極まったんだね」って(笑)。で、「そうなんです」って、何とかやり過ごしました》というのが(同上)、「エヘヘヘヘヘ」と笑ってごまかす『トリック』の奈緒子を何となく思い起こさせる。

森光子の『放浪記』林芙美子役を引き継ぐことに

 舞台ではこのあと、28歳だった2007年に『ナツひとり 届かなかった手紙』に主演した。同作はその2年前に放送され、戦前にブラジルへ家族と渡ったハルと日本にひとり残されたナツの姉妹を描いたドラマ『ハルとナツ 届かなかった手紙』のスピンオフ的作品である。このドラマで仲間は妹のナツの若き日を演じたが、舞台ではさらに彼女の14歳から76歳までを演じきってみせた。なお、ドラマでは老年期の姉妹のうちナツを『トリック』で仲間の母親役だった野際陽子、ハルを森光子が演じていた。森は舞台版にも声のみながら出演している。

 森との縁は彼女が2012年に亡くなったあとさらに深まり、2014年にその人生を描いたドラマ『森光子を生きた女』に主演し、翌2015年にはさらに森のライフワークだった舞台『放浪記』の主人公で小説家の林芙美子の役を引き継ぐことになる。

 あまりの大役に仲間もオファーをもらったときには驚いたが、森と『放浪記』の作者の劇作家・菊田一夫のいずれも知る俳優の石坂浩二は、《菊田先生のたくさんの戯曲の中でも、先生の思い入れも深く、本当にトップになるような名作だからこそ、いろんな人が挑戦することが望ましいと思う。その先駆けとして仲間さんがやるというのは、もう他に居ないなという気がしてならないんです》と、彼女との対談で太鼓判を押した(『文藝春秋』前掲号)。石坂の言葉にも後押しされ、仲間は新しい『放浪記』をつくろうと意気込み、公演に際し森の見せ場だったでんぐり返しも側転に変更して話題を呼んだ。

 じつはこの前年、彼女はあるインタビューで《今後は「女の一生」をテーマにしたようなスケール感のある作品や大きな舞台など、やったことのない役柄に挑戦したいと思っています》と語っていた(『厚生労働』2014年1月号)。『放浪記』はまさにこれに当てはまる。

共演の吉高由里子が語った「仲間さんが現場にいないと…」

『放浪記』と前後してNHKの朝ドラ『花子とアン』(2014年)で演じた実在の歌人・柳原白蓮がモデルの葉山蓮子も、年下の男性と駆け落ちするなど激しい人生を送った女性であった。

 同作では、蓮子の女学校時代の学友であるヒロイン・村岡花子を吉高由里子が演じた。吉高は当時の仲間との対談で、劇中で二人が決別してしばらく共演シーンがなかったときを振り返り、《私がこのころ痛感したのは、仲間さんが現場にいないとみんなだらしないってこと!》、《仲間さんがいるとね、秋口のひんやりとした風を感じたときのように、背筋がしゃんと伸びるんです》などと語っている(『ステラ』2014年9月5日号)。現場にいい意味で緊張感をもたらすとは、このころの仲間が30代半ばにしてすでにベテランの風格を漂わせていたということだろう。

クセの強い役を演じることも増えた

 この年、2014年には人気ドラマシリーズ『相棒season13』に出演する。仲間の演じる社美彌子は、警察庁のキャリア官僚として内閣情報調査室に出向したという役どころで、2016年のseason15以降は常連となり、ときに水谷豊演じる刑事・杉下右京と敵対したり紆余曲折を経ながら、今月スタートのseason23では内閣情報官という要職にある。

 ここ10年のあいだに美彌子のようなクセの強い役を演じることも増えた。昨年放送の男女逆転版『大奥Season2』で演じた一橋治済は、将軍・徳川家斉の母親として権勢を振るい、子供を殺すこともいとわない残虐ぶりで強烈な印象を残した。当の仲間はあまりの非道さにかえって演じる意欲をかき立てられたようだ。収録後には《そもそも時代劇というのは、誰も実際には見たことのない世界。ある程度自由に作れるものだと思っています。とんでもなく変わり者で狂気な治済なので、不謹慎ではありますが、ある意味わくわくしながら演じさせてもらいました》とコメントしている(「シネマトゥデイ」2023年10月31日配信)。

「サイテーですよ(笑)。こんな人いるのかと…」

 治済だけでなく、これまで当たり役と言われてきた人物もほとんどが、本来の彼女とは懸け離れた存在らしい。『花子とアン』放送中のインタビューでは、蓮子と『トリック』の奈緒子と『ごくせん』のヤンクミのうち、自分の性格と似た人物はいるかと訊かれると言下に否定し、《奈緒子、サイテーですよ(笑)。こんな人いるのかと、いつも呆れてました。ヤンクミも荒々しいし、蓮子さんもちょっといきすぎちゃってる(笑)。もう少し庶民の気持ちに寄り添える人の役だといいですよねぇ。普通の人を普通に演じられない悩みを持っています》と吐露した(『AERA』2014年9月1日号)。この発言からすると、故郷・沖縄が舞台の一昨年放送の朝ドラ『ちむどんどん』で演じたヒロインの母親役は、仲間には珍しい「普通の人」の役だったのかもしれない。

子育てのルールはとくに設けなかった

 私生活では2014年9月、同じく俳優の田中哲司と結婚した。その7年前にドラマ『ジョシデカ!−女子刑事−』で共演したのが馴れ初めだった。2018年には双子の男児を儲ける。翌年、産休を経て活動を再開したのも『相棒』の元日スペシャルで、同年7月期の『偽装不倫』で連続ドラマに復帰する。このとき仕事と家庭の両立について「できるかも」と希望が見えたらしい。

 2020年のインタビューでは、いまのところ子育てにルールはとくに設けず、子供たちのリズムに自分たち親が合わせていきたいと語った上、《決めてもどうせ思いどおりにはいかないはずなので。あまり細かいことを気にせず、その都度対処していけばいいのかな》と話していた(『ESSE』2020年2月号)。役に真剣に取り組みながらもけっして気負わないという姿勢は、子育てにも活かされているようだ。

 仲間は俳優の仕事と並行して、2016年からフジテレビの長寿音楽番組『ミュージックフェア』の司会を同局アナウンサーの軽部真一とともに務めている。先週土曜(10月26日)放送の回には、かつて『ごくせん』の第3シリーズ(2008年)で主題歌「虹」を歌ったAqua Timezがこのたび再結成したということで出演し、久々の再会をお互いに喜んでいた。この回にかぎらず同番組のトークパートにはいつもリラックスした雰囲気が漂うが、それも仲間の気負わない司会によるところ大なのかもしれない。

(近藤 正高)