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 歌舞伎俳優の中村勘九郎(42)と中村七之助(41)が22日、鹿児島県三島村の硫黄島で「三島村歌舞伎 俊寛」を上演した。同所で歌舞伎公演を行うのは2011年10月以来13年ぶり3度目。12年に亡くなった父の中村勘三郎さんの思いを受け継ぎ、中村屋の大役を果たした。(前田 拓磨)

 「おおい、おおい、おーい…」。浜から赦免船へ、夜の硫黄島に勘九郎の悲痛な叫びが響き渡った。ツアー客や関係者約500人が見守る中、一人罪を許されず悲しみに暮れる僧俊寛を熱演した。勘九郎は終演後「今回は大雨で開催が危ぶまれたが、この時間だけ晴れた。父が見守ってくれていたと思います」と振り返った。

 上演された「平家女護島 俊寛(へいけにょごのしましゅんかん)」は平安末期に平家打倒を企てて流罪となった僧俊寛らを題材にした物語。絶海の孤島に一人残された男の悲哀を描く。俊寛が流され、生涯を終えた離島「鬼界ケ島」は薩摩諸島北部の硫黄島とされる。太平洋戦争の激戦地となった硫黄島とは別の地だ。島内には俊寛の銅像や、かつて庵を建てて暮らした跡地に俊寛堂などが点在。開演前には出演者が俊寛堂に手を合わせた。

 三島村歌舞伎は1996年、勘九郎時代の勘三郎さんによって始められた。当時14歳だった勘九郎も勘太郎として、96年5月の初回公演から参加。これまで千鳥、丹左衛門尉基康と全く違う役を演じてきた。今回は初めて主役の俊寛を演じた。衣装は祖父の十七代目中村勘三郎さんから受け継がれた物を着用。つえやカツラも勘三郎さんの物を受け継いだ。「中村屋スピリッツの大元は父。父の魂、生きざまが僕らの中に生きている。祖父から受け継いだ大切な役でもあるので、しっかりと受け継いでやっていきたい」と気合を入れて舞台に臨んだ。

 本公演は今年2月から始まった勘三郎さんの十三回忌追善興行の締めくくりでもある。11年の公演後、勘三郎さんは「チャンスがあればまた15年後、ちょうど15歳になる孫の七緒八(中村勘太郎)と一緒にここで演じたい」と親子3代での共演意欲を見せていた。その夢はかなわなかったが、この日勘太郎(13)は硫黄島の地で立派に丹波少将成経役を演じ切った。勘九郎は「十三回忌で1年間追善をできるということは、やっぱり勘三郎という役者は凄い」としのんだ。七之助も「家族一丸、中村屋スピリッツを持ってやってきた結果がこうした十三回忌公演の最後につながった」と語った。子から子へ。これからも勘三郎さんから受け継いだ中村屋スピリッツを継承していく。

 ≪過去の三島村歌舞伎≫

 ▼1996年5月29日 初演。当時勘九郎を名乗っていた勘三郎さんが俊寛を演じた。屋外に特設舞台を組むのは歌舞伎史上初の試みとなった。島の人口の5倍にあたる約700人が観劇。

 ▼2011年10月22日 当初は3月に上演予定だったが、勘三郎さんが体調不良で休養に入ったため、一度延期。勘三郎さんが俊寛、勘九郎が丹左衛門尉基康、七之助が成経を演じた。