昨年の予選会で一斉にスタートする選手たち(2023年10月14日)

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 第101回東京箱根間往復大学駅伝競走(箱根駅伝=関東学生陸上競技連盟主催、読売新聞社共催)の予選会は19日、東京都立川市内などで行われる。

 1990年代の箱根路を沸かせた「早大三羽がらす」の一人として知られる陸上競技指導者の武井隆次さん(53)が、レース展望を語った。

 記念大会となった前回の第100回大会は出場枠が増えて予選会から13校が本大会に出場したが、今回は10枠と例年通りに戻る。43チームが出場するが、今シーズンの大会成績や予選会エントリー時の各選手の1万メートル資格記録(持ちタイム)、全日本大学駅伝の予選会の成績なども比較し、中央大と東海大がトップ通過争いの「2強」と見る。

 中央大は2週間後の全日本大学駅伝にもシード校として出場する。エースの吉居駿恭(3年)ら主力の何人かは箱根予選会にエントリーしなかったが、持ちタイム28分台の3人を含む1年生5人が入った。もともとトラックが得意で、今シーズンは若手を含めて各レースで好成績を残している。体調不良者が続出して13位に終わった前回本大会の悔しさも忘れていないし、登録14人のメンバーでは28分台が9人、全員が30分切り、エントリー時の上位10人の平均タイムでは出場校中でトップと層が厚い。予選会は3年ぶりだが、実力通りの結果を出せば上位通過は堅い。

 東海大は、資格記録で上位10人の平均タイムが中央大に次ぐ2番手。前回本大会では10位の大東文化大と1分余りの差の11位でシード権を逃したが、花岡寿哉(3年)というエースがいる。こちらも兵藤ジュダ(3年)など主力選手を数名欠くが、28分台が6人とチーム構成がしっかりしており、全日本大学駅伝の関東地区選考会を1位で突破して勢いがある。本大会では3年連続でシード権を落としているが、予選会上位突破から本大会でのシード権復活を狙える戦力がそろっている。

 この2校に続く第2グループを見る前に、予選会突破に向けて、気になる学校にふれたい。

箱根路常連の順天堂、山梨学院の状態は…

 順天堂大と山梨学院大だ。ともに常連校で、本大会出場は順天堂大が前回まで13年連続、山梨学院大も5年連続38回目の出場がかかるが、特に順天堂大は全日本大学駅伝の選考会(上位7校が本戦出場)では17位で本戦出場を逃すなど今シーズンは苦しんでいる。資格記録の平均タイムでは10番以内に入っているが、実戦ではかみ合っていない印象だ。4年ぶりの予選会で、その4年前はトップ通過を果たしている。今シーズンの嫌な流れを吹き払うことができるか。

 山梨学院大は昨年の予選会では13位のぎりぎりで滑り込んだが、本大会では最下位の23位だった。今季は大崎悟史新監督が就任した。持ちタイム27分台のタイムを持つ留学生がいるだけに、日本人選手の奮起が不可欠だ。

全日本選考会を通過した立教、日体、神奈川に勢い

 次に、中央大、東海大の「2強」に続く第2グループだ。

 順不同だが、東京国際大、立教大、日本体育大、神奈川大、明治大、中央学院大、日本大、国士舘大を挙げたい。

 東京国際大は、不運が続いた。第99回本大会が11位。シード権を落として迎えた第100回予選会では留学生のリチャード・エティーリ(2年)が転倒するアクシデントもあって、13位の山梨学院大にわずか3秒及ばず、14位で本大会出場を逃した。考えられないほどの落ち方をしたが、ハーフマラソンの日本学生記録を持つエティーリを筆頭に資格記録による平均タイムは出場校中で上位にあり、力のある学校なので、エースがきちんと走ればまた箱根路に戻ってくるだろう。

 明治大は、予選会の上位通過常連校だ。最近の本大会では成績が上がっていないが、持てる力は出している。持ちタイムから見ればボーダーラインに近いが、チームの状況は良さそうなので10位以内には入りそうだ。日本体育大は全日本大学駅伝選考会を4位で通過。集団走を熟知していて大きく崩れないまとまりが持ち味だ。

 立教大は、全日本の選考会で5位通過、神奈川大も7位通過を果たした。全日本との強行日程になるが、どちらも新監督になったことがプラスに作用していると感じる。

 中央学院大は参加日本人選手の中で持ちタイムがトップの吉田礼志(4年)、日本大は前回予選会個人1位のシャドラック・キップケメイ(2年)の、エース頼みという側面はあるが、アクシデントさえなければ、タイムを稼いでくれる選手なので、最終的には通過圏内と見て良いだろう。国士舘大もエントリーの14人全員が1万メートル30分を切って、まとまっている。

「10枠」を巡って13校の争いか

 以上、「2強」と第2グループ、そして巻き返しを期待したい順天堂大と山梨学院大、さらに前回は予選会12位からの出場で10枠に戻った今年は真価が問われる駿河台大も含め、13校が10枚の箱根キップを争う勝負の中心になるのではないかと見ている。

 第100回大会で本戦出場した東京農業大は、1万メートルの日本人学生記録を持つ前田和摩(2年)がエントリーしなかった。昨年の予選会では日本人トップで走り、今年も留学生との走り合いが楽しみだったので残念だ。東農大は予選会枠が増えた前回は11位で通過しているが、絶対的エースが不在の今年は厳しい戦いになりそうだ。

 箱根駅伝予選会は、各チーム10〜12人がハーフマラソン(21・0975キロ)を走り、上位10人の合計タイムをチーム記録として競う。各走者の走行距離こそ、本大会の各区間と同じく20キロ以上だが、全走者が「用意ドン」で同じコースを走るレースで、たすきリレーもない。「駅伝のチーム力は、各走者のハーフマラソンや1万メートルの持ちタイムだけでは計れない」というのが私の持論だが、各走者の持ちタイムの合計通りのレース結果になる確率が、駅伝と比べて結構高い予選会はちょっと違う。

「平均型」と「エース型」…予選会の戦略は

 予選会の戦術としては、集団走で押し上げる「平均型」とポイントゲッターのタイムを貯金として生かす「エース型」がある。私は基本的に集団走が有利だと思うが、各校の指導者に話を聞くと、必ずしもそうではないようだ。当日の天候など条件が悪かった場合、タイム設定が狂ってしまうこともある。抜きんでたエースがいれば、最終的に競った時には有利になるが、極端に寒くなるとアフリカの留学生には影響があるかもしれない。私が今年の「2強」に中央大と東海大を挙げたのは、「平均型」と「エース型」の両方を兼ね備えたチームだからだ。19日の予選会当日の東京地方の天気予報はお昼に向けて気温が30度近くまで上がっていくようで、少し暑くなりそうだが、どう影響するだろうか。

 私は第68回大会、早稲田の2年生の時に予選会を経験した。その時は力を出し切れず、チーム内でともにエースとして期待されていた同期の櫛部静二(現・城西大監督)に1分くらい遅れてゴールしたら、師匠の瀬古利彦さんに、ひどく叱られた。毎年のことだが、10月にはまだ仕上がっていないし、低学年のころは練習量が足りていなくて、トラックを走れても20キロを走れる体力はなかったのだ。もちろん、期待されていたことでの重圧もあった。

 予選会はチーム成績だから、個々の選手が自分の力を見極めて、その力通りのものが出せれば結果はついてくる。だが、一人の選手が過度の重圧から飛ばし過ぎなどで失速につながれば、チームに影響が出てしまう。もちろん、局面で上がり下がりのペース変化への対応は必要だが、チャレンジは極力避けて、確実な走りが求められる。

たけい・りゅうじ 1971年生まれ。東京・国学院久我山高で高校初の5000メートル13分台をマーク。早大時代は箱根駅伝で4年連続区間賞(1区、1区、7区、4区)、うち3度が区間新記録で、同期の花田勝彦、櫛部静二と並び「三羽がらす」と呼ばれた。卒業後はエスビー食品で2002年びわ湖毎日マラソンを2時間8分35秒で優勝。02年アジア大会男子マラソン銅メダル。引退後はエスビー食品のコーチ、監督を歴任。現在は「したまちアスリートクラブ」の監督として小、中学生を中心とした後進ランナーの指導にあたっている。

予選会は午前9時35分スタート

 19日の予選会には43チームがエントリー。東京都立川市の陸上自衛隊立川駐屯地から市街地を経て、国営昭和記念公園(立川市、昭島市)までのハーフマラソン(21・0975キロ)のコースで行われ、上位10校が来年1月2、3日の本大会出場権を得る。スタート午前9時35分。