アングル:米フロリダ拠点の金融関係者、ハリケーン襲来でも移転考えず

写真拡大

Suzanne McGee Svea Herbst-Bayliss

[9日 ロイター] - 米フロリダ州の明るい日差しと低い税率が、多くのヘッジファンドやその他金融関係者を引き寄せてきた。彼らの「フロリダ愛」は今、新たな大型ハリケーン襲来によって試されているが、有力資産運用担当者の多くは「南部のウォール街」と呼ばれるこの地を離れるつもりはない。

何年も前から続いていた投資家がフロリダに集まる流れをさらに加速させたのはコロナ禍だ。富豪で物言う株主(アクティビスト)として知られるカール・アイカーン氏は2020年に自身が率いる投資会社をニューヨークからマイアミに丸ごと移転。ポール・シンガー氏のヘッジファンド運営会社エリオット・インベストメント・マネジメントも同じ年、ウエストパームビーチに事業所を開くと発表し、ケン・グリフィス氏のヘッジファンド、シタデルは22年にシカゴからマイアミに拠点を移すと表明した。

一方フロリダ半島西岸には9日遅くないし10日未明にカテゴリー3のハリケーン「ミルトン」が直撃する見通しで、9月のハリケーン「へリーン」による被害からの復興途上にある地域に再び打撃を与える恐れが強まっている。ミルトンはフロリダ半島を通過する間は、ハリケーンとしての勢力を保つと予想される。  

シカゴに拠点を置く運用資産520億ドル(約7兆8000億円)のクレセット・アセット・マネジメントで最高投資責任者を務めるジャック・アブリン氏は15年にフロリダのパームビーチに引っ越してきた。当時は「必死の覚悟だった」と振り返る。ミルトン接近に伴って一時的には別宅があるサウスカロライナに避難するつもりだが、今後も主要居住地はパームビーチにする考えだ。

事情に詳しい複数の関係者に話を聞くと、他の多くの資産運用担当者も、税負担の相対的な軽さや好ましい事業環境というメリットと、保険料増大や災害で全壊する恐れがある自宅の建て直し費用といったコストを天秤にかけた結果、やはりフロリダで働きたいとの思いを持っている。

これらの関係者は、フロリダに移ってきた大手ヘッジファンドがここで事業を継続する意思はなお堅いと明かした。また2人の関係者によると、コロナ禍の期間にフロリダへ住居を移し、リモート勤務を通じて北東部に拠点がある所属先企業の仕事をこなしてきた金融業界幹部も転居は頭の片隅にもない。

ゴールドマン・サックスやJPモルガン・チェースといった大手銀行は、フロリダの顧客やこの場所で働くことを望む従業員のために事業所を設けている。

<緊急対応計画>

アイカーン氏の投資会社やエリオット、シタデルを含めて多くの運用会社が拠点を置くのはフロリダ半島東岸。ニューヨークをはじめ各地への飛行機移動や、マイアミのナイトライフや活発な文化芸術と接する上で便利な点が理由だ。

この地域は、9月下旬にヘリーンのために過去最悪の被害を受け、今後ミルトンが上陸すると予想される場所から東に483キロほど離れている。

それでも彼らは緊急対応計画を策定しつつある。シタデルの広報担当者は「マイアミで避難する必要が生じても、われわれには事業と従業員およびその家族のためのしっかりした対応計画がある」と述べた。

とはいえシタデルは、創業者のグリフィン氏の生まれ故郷であるフロリダに根を下ろす方針で、マイアミ近郊のブリッケルに54階建ての新本社を建設する計画。ブリッケルは、南部のウォール街の中心になりつつある。

ミルトンの想定進路上に拠点がある金融機関も幾つか存在する。あるファンドの創業者は会社と自宅の様子を見守るためフロリダに戻り、会社があるビルの高層階でミルトンをしのぐ意向だ、と関係者が明かした。

証券仲介・投資助言のレイモンド・ジェームズ・ファイナンシャルは、ミルトンの想定進路上のセントピーターズバーグにある本社から8日に従業員を避難させた。顧客へのサービスやサポートはバックアップ施設を通じて維持されるという。

米国証券の翌日物取引システムを運営するフィンテック企業ブルーオーシャン・テクノロジーズATSはマイアミ北方のウエストパームビーチに拠点があり、バックアップ計画を用意している。

ブライアン・ハイドマン社長兼最高経営責任者(CEO)は「ここに住んで10年になり、今まではハリケーンの直撃はなかった」と語った上で、取引システムを動かす中核部分はニュージャージーにあり、リモートで仕事ができるし、米国の東海岸と西海岸双方で支援態勢を確保していると付け加えた。

<コスト増大>

ただフロリダで企業幹部の採用活動に従事する2人の関係者はロイターに、経験豊富な人材が増大する生活費の負担やハリケーン襲来地帯で暮らすリスクを嫌う傾向が強まり、採用コストがかさむか、採用自体が難しくなるのではないかとの心配を漏らした。

ペンシルベニア大学のベンジャミン・キーズ氏とウィスコンシン大学のフィリップ・マルダー氏がまとめたデータに基づくと、フロリダの住宅所有者の保険料は19年から23年までで平均57%も跳ね上がり、全米で最大の上昇率になった。キーズ氏によると、昨年の平均保険料支払額は4060ドルだった。  

フロリダ住民のための公正な保険料率設定を求める活動をしている非営利団体FIRMの事務局長で、自身でも保険を販売するメル・モンターニュ氏は、金融業界幹部を含めた顧客が不安感を持ちつつあり、家を買ったことへの後悔に悩んでいると指摘。「彼らは(家を)売り払って逃げ出すことを検討している」と話した。