新たに鹿島のフットボールダイレクターに就任した中田氏。常勝軍団復活の道筋を立てられるか。写真:福冨倖希

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「このクラブで監督の仕事をするという責任の重さは非常に感じています。まだタイトルの可能性も残っている。精一杯やります」

 10月9日にオンラインで行なわれた鹿島アントラーズの中後雅喜監督の就任会見。2005〜08年に鹿島に在籍し、オズワルド・オリヴェイラ監督時代のタイトルを経験しているレジェンドの1人が、新たに現場を率いることになった。

 中後監督は2017年の引退後、東京ヴェルディのアカデミーで指導に携わり、20〜22年にかけてユースの監督も務めているが、プロ選手を率いた経験はない。トップチームでの仕事もランコ・ポポヴィッチ前監督体制でスタートした今季が初めて。JFA公認S級コーチングライセンス講習会に参加したのも昨年で、まだまだ未知数の部分が多いのは確かだ。

「自分自身のプロ監督経験はないですが、コーチングスタッフには経験値があるし、同じフットボールなので、勝利のために何をしなければいけないかは共通する。勝負のところでよりこだわりを持たなければいけないとも考えています」と新指揮官は強調。同じくレジェンドの本山雅志・羽田憲司の両コーチ、中田浩二新フットボールダイレクターらと手を携え、より一層の一体感と結束力を持って、リーグ戦の残り6戦に突き進む構えだ。

 契約期間は明らかになっていないが、現体制はとりあえず今季限りの模様。鹿島、セレッソ大阪、松本山雅FCやパリ五輪代表で数々の経験を蓄積してきた羽田コーチが加わったことで、選手たちもある程度、迷わずに戦えるのではないか。そこは朗報と言える。
 
 ただ、2025年以降は新監督とコーチを招聘し、現有スタッフと融合させながら、より強固な組織を作っていくことになりそうだ。新指揮官候補には川崎フロンターレの鬼木達監督ら数人が挙がっていると言われるが、今後の動向は舵取り役である中田FDの双肩にかかる部分は少なくない。

 ご存じの通り、彼は2014年の引退後、クラブ・リレーションズ・オフィサー(CRO)としてスポンサー、サポーター、行政などとクラブをつなぐ役割を担ってきた。本人もビジネス志向が強く、現場に戻ることは考えていなかったという。

 しかしながら、昨年末に強化部のテコ入れを図るため、会社側から異動の打診を受けた。本人も苦悩した末に受託。今年からはパリ五輪を除くメディア関係の仕事も全て断り、毎日の練習と試合に帯同。「選手と一番近い強化部員」としてコミュニケーションを密にしてきた。

 そんな日々の中で他クラブの強化担当や代理人との人脈を作り、ネットワークを広げていったと見られるが、まだ強化スタッフとしては成長途上。その状況でFDの大役を担うのは、本当に大胆なチャレンジと言うしかない。

 今までは「二度のワールドカップに参戦した鹿島の偉大なレジェンド」として、多くの人々にリスペクトされ、称賛されてきた。だがFDという立場上、失敗すれば批判を浴びることになる。それだけ強化のトップというのは厳しい立場。その覚悟で引き受けたのだろう。

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 鹿島には長年、チームを掌握してきた鈴木満フットボールアドバイザーもまだ残っているから、疑問や問題点があれば相談できるのは幸いだ。さらに、中田FDよりも強化担当経験の長い石原正康氏もいるし、同じタイミングで強化部に入った先輩OBの山本脩斗氏もいる。そういった人々と力を合わせながら、強固な組織を構築し、チームを正しい方向へと導いていくこと。それが中田氏に課せられることだ。

 それはやりがいのある仕事のはず。こうなった以上、思い切って“中田浩二色”を前面に押し出し、新たな鹿島のカラーを作っていってほしい。新FDの決断を会社が一丸となってサポートし、実現のために向かっていくような機運を作ることが、今の鹿島に必要不可欠なポイントではないか。
 
 中田、本山、羽田、中後といった2000年代の黄金期を知る人材をズラリと並べたことで、鹿島がどう変化していくのか。そこは非常に興味深い点だ。選手時代の実績があっても、指導者や強化部隊として成功できる保証はないが、彼らを応援する人々は多いはず。

 そういう前向きなムードも糧にしつつ、常勝軍団復活への明確な方向性を見出せれば理想的。まずは10月19日の次戦・アビスパ福岡戦の中後監督の采配、そして中田FDのマネジメントを注視したいものである。

取材・文●元川悦子(フリーライター)