ガーナ共和国の首都アクラにあった「アグボグブロシー・スクラップヤード」は、毎年1万5000トンもの電子廃棄物を受け入れるアフリカ最大の電子廃棄物処理場のひとつでした。この電子廃棄物処理場が地域にもたらす影響を、アメリカの公共ラジオ放送局であるNPRがまとめています。

Here's photos of e-waste and discarded electronics in Ghana : Goats and Soda : NPR

https://www.npr.org/sections/goats-and-soda/2024/10/05/g-s1-6411/electronics-public-health-waste-ghana-phones-computers



ガーナ人のエマニュエル・アカティレさんは、18歳の時に地元から約500マイル(約800km)離れた首都アクラで仕事を探していたそうです。その時見つけた仕事が、「廃棄された電子機器の山から価値ある金属スクラップを探す」というもの。廃棄物処理場で金属スクラップを探す仕事の月収は、60ドル(約8900円)程度だったそうです。アカティレさんはスクラップ収集の仕事に就いた理由について、「両親を亡くした後、残された家族を養うために2021年頃からスクラップ収集の仕事を始めました」「私の住む地域は電気も通っておらず、開発も進んでいません」と語りました。

アカティレさんが働いていたのは、長らくアフリカ最大の電子廃棄物処理場として年間1万5000トンもの携帯電話やコンピューターなどの使用済み電子機器が処理されていたアグボグブロシー・スクラップヤードです。この廃棄物処理場では、水に浸出して空気を汚染する有毒化学物質がまん延しており、人体にとって有害となる環境下で行うスクラップ収集作業は非常に危険な仕事とされています。



そんなアグボグブロシー・スクラップヤードで働く人々に焦点を当てたプロジェクト「E-WASTE IN GHANA Tracing Transboundary Flows(ガーナの電子廃棄物:国境を越えた流れの追跡)」が、カルミニャック財団のフォトジャーナリズム賞を受賞しました。

プロジェクトの共同リーダーであるジャーナリストのアナス・アレメヤウ・アナスさんは、「世界中の国々がアグボグブロシー・スクラップヤードにゴミを全部捨てるわけにはいきません。それは人々に本当に悪い影響を与えます。しかし、電子廃棄物をアグボグブロシー・スクラップヤードに捨てることには良い側面もあります」と語っています。アナスさんの言う「良い側面」とは、アカティレさんのような貧しい人々に雇用を提供することです。

電子廃棄物は世界的な問題となっており、2022年に人類が廃棄した電子機器の総量は約6200万トンと推計されています。これは廃棄物を積載したトラックを並べると赤道を埋め尽くすほどの量です。国連の推計によると、この約6200万トンの電子廃棄物には910億ドル(約13兆5000億円)相当の貴金属が含まれており、これを回収するためにアカティレさんのようなスクラップ回収員が活躍しているそうです。



電子廃棄物は、大きく分けて「機能するもの」と「機能しないもの」の2つに分類できます。2つの境界線はあいまいで、ある人にとっては「使用可能あるいは修理可能」であっても、別の人にとってはそうでないケースもあるそうです。国際法では、「有毒物質を含む機能しない電子廃棄物」の取引が禁止されていますが、国連は「機能する電子廃棄物」の取引を「製品の寿命を延ばすことができるため有益」としています。

「ガーナの電子廃棄物」プロジェクトでは、アグボグブロシー・スクラップヤードで作業する輸出業者が「機能する電子廃棄物」と「機能しない電子廃棄物」を分類していないことを突き止めています。プロジェクトの共同執筆者であるジャーナリストのベネディクト・クルゼンさんは、「コンテナにテレビ画面が大量に詰まっている場合、一体どうやってそのひとつひとつを検査し、機能しているか否かを確認するのでしょうか」と語りました。

以下は、アクラの税関を通過する電子廃棄物を積載した貨物トラックのX線写真。「ガーナの電子廃棄物」プロジェクトによると、1時間に最大120台の貨物トラックをスキャンすることで、違法な電子廃棄物を検出することができたそうです。ガーナでは多くの種類の有害な電子廃棄物の輸入が禁じられていますが、現地の税関職員などは賄賂を受け取ることで、違法な電子廃棄物の輸入を許可しています。



その結果、ガーナの海岸線沿いには政府非公式の電子廃棄物処理場が乱立しており、ここで機能する電子廃棄物と機能しない電子廃棄物が分別されることなく山のように捨てられています。そして、これらの電子廃棄物処理場では廃棄物の中から価値のある貴金属を回収するアカティレさんのようなスクラップ回収員が活躍しているというわけ。

電子廃棄物の回収作業は危険な作業で、切り傷や火傷などの怪我を負うこともあるそうです。さらに、前述の通り電子廃棄物処理場では有毒ガスが発生するケースもあります。



「ガーナの電子廃棄物」プロジェクトの共著者であるチャサントさんによると、スクラップ回収を行う作業員のほとんどはガーナのアッパーイーストと呼ばれる地域からやってきた人々だそうです。この地域では温暖化により伝統的な農業慣行が一変しており、「この地域は若者の失業率は最も高い」とチャサントさんは語っています。同氏によると、アッパーイーストの若者たちは乾季になると電子廃棄物処理場に出稼ぎに来るそうです。

スクラップ回収作業では銅線や鉄などの貴重な鉱物を役に立たないプラスチックから分離するために、しばしばゴミを焼却します。この過程で有毒ガスが発生し、火傷・切り傷・その他の怪我を負うことがある模様。電子廃棄物処理労働者の多くは子どもであるとプロジェクトチームは指摘。

チャサントさんによると、スクラップ回収作業中に亡くなった若者も少なくないそうです。チャサントさんは「鎌状赤血球キャリアのアカンウィーさんは、火事や採集作業には絶対に近づきませんでした。しかし、スクラップ回収作業が唯一の生活の糧だったそうです」と、現地住民が生活のたまに電子廃棄物処理場で働かざるを得ない現状を明かしています。

銅線を回収するために電線を燃やしているスクラップ回収作業員。



他にも、電子廃棄物に含まれる重金属が土壌や水に浸透し、地域コミュニティに深刻な健康被害をもたらすケースもあります。プロジェクトによると、「人々がゴミを燃やし始めると、有毒ガスのせいで人々は移住せざるを得なくなる」そうです。

廃棄されたプラスチックの中からリサイクル可能なプラスチックを回収している作業員。有毒物質が水に浸出することで、地域の水供給が悪化するケースもあるそうです。



これらの被害と並行して、リサイクルおよび修理産業がガーナでは急成長しています。他にも、回路基板の修理や貴金属の抽出を求める買い手や、壊れた携帯電話を売る非公式の市場なども確認されており、ガーナでは電子廃棄物処理業界を中心に経済が発展しています。「ガーナの電子廃棄物」プロジェクトによると、アクラにはテレビやコンピューターまで、中古または修理済みの機器を売る小さな個人商店が何百店も並んでいるそうです。

クルゼンさんは「アフリカでは、人々はまだ修理が大切だと考えています。捨てないでください。まだ何とかできるはずです。西洋諸国では、こうした物を使い捨てとみなしており、それが世界中で電子廃棄物の増加に拍車をかけています」と語りました。



電子廃棄物から抽出された貴金属の中で最も価値が高い鉱物はガーナ国内に留まることは少ないそうで、そのほとんどがヨーロッパやアジアのより先進的な精錬所へと輸出されている模様。

アナスさんたちプロジェクトチームのメンバーは、このプロジェクトが人々の生活における電子機器との関係を見直すきっかけとなることを期待していると語っています。クルゼンさんは「携帯電話を動かす材料にとって、処理場での時間はほんの一瞬に過ぎません。これらの材料は世界中を旅しています。私たちが手にしている電子機器は、世界のどこかで誰かの犠牲の上に成り立っており、無料で手に入るものではありません」と語りました。