反トラスト法裁判で Google と米司法省の攻防激化。Google解体とその影響に飛び交う憶測
記事のポイント
裁判によってGoogleの広告ビジネスに対する包括的な支配が制限される可能性がある
業界関係者らはGoogle分割案に賛否が分かれ、特に広告収益への悪影響を懸念する声が上がっている。
Googleの広告スタックの分離は、複雑な相互依存関係を崩し、副作用が生じる可能性がある。
裁判によってGoogleの広告ビジネスに対する包括的な支配が制限される可能性がある
業界関係者らはGoogle分割案に賛否が分かれ、特に広告収益への悪影響を懸念する声が上がっている。
Googleの広告スタックの分離は、複雑な相互依存関係を崩し、副作用が生じる可能性がある。
Googleのアドテク裁判の第1週が終了し、同裁判をめぐる議論が花盛りだ。地殻変動の始まりだと主張する者もあれば、単なる雑音だと切り捨てる者もある。
それでも、今後の展開に関する広告業界の憶測は止まらない。
アドテク各社の見立て
ザ・トレードデスク(The Trade Desk)のジェフ・グリーンCEOは、先週ロンドンで開催されたExchangeWireのATSカンファレンスに登壇し、「Googleはオンライン広告システムの検察官、弁護士、そして裁判官と陪審員の3役を兼任してきた」と指摘した。「解決策は少なくともそのうちのひとつを降りることだ。3つの役割をすべて兼ねることは許されない」。
問題はまさにこの点だ。Googleがその帝国をほぼ無傷のままこの窮地を逃れたとしても、広告ビジネスに関わるすべての役割を演じる時代はすでに終わりが見えている。規制当局はGoogleの動向に目を光らせているし、広告業界のパワープレイヤーはこぞって爪を研いでいる。この訴訟により、Googleの戦略集はいまや公文書となりつつあり、政治家も裁判の行方を注視している。
Google社内でやりとりされた電子メールの文面には、広告業界を軽視する態度が見え隠れする。また、パブリッシャーとの会議の記録からは、Googleが日常的にその支配力を行使していたことがうかがえる。真に問われているのは、Googleがつまづくか否かではなく、どれだけひどく、どれだけ早くつまづくかということだ。
当然のことながら、この問題に関する限り、広告関係者には言うべきことが山ほどある。
イービクイティ(Ebiquity)で最高戦略責任者を務めるルーベン・シュラーズ氏によると、判決後または司法省との和解を通じて、Googleが同社アドテク事業のセルサイド(Googleアドマネージャーとアドセンス)を分社化する可能性があるという。この裁判で「正面衝突」を避けるために、Googleはあらゆる手を打つだろうと同氏は見ている。
ブロックボード(Blockboard)のマット・ワッサーローフCEOも同様の見解を示している。同氏の見立てでは、最初に分割されるのはGoogleの広告事業で収入の流れをコントロールするアドサーバーかもしれないという。
フォレスター(Forrester)の上級アナリストであるモウ・アリバイ氏は、GoogleのSSP(サプライサイドプラットフォーム)も分社化の候補リストに追加した。
セルサイドの分離で結局Googleが得をする?
結局のところ、誰もが持論を語るが、先のことは誰にも分からない。俎上に乗るのがセルサイドなのかアドサーバーなのか、あるいはサプライサイドプラットフォーム全体なのか、現時点ではどの主張も推測の域を出ない。オンライン広告の独占疑惑でGoogleに有罪判決が下された場合、その余波にどう対処すべきか議論する必要があるうえ、控訴の可能性も高いため、少なくとも当面は現状維持となりそうだ。
たとえば、GoogleがDSP事業を分社化すると仮定する。この場合、YouTubeの広告在庫をほかのDSPにも開放せざるを得なくなり、競争の波が押し寄せると考えられる。しかし、このDSPがGoogleの検索広告の購入にも使用されることを考えると、そもそもこんな仮定が成り立つのだろうか。
オンラインディスプレイ広告に焦点を当てた反トラスト法違反の是正措置としては、検討の範疇には入りそうにない。
だとすれば、シュラーズ氏やワッサーローフ氏が言うように、分離独立の対象となるのはやはりセルサイドなのかもしれない。その場合、Googleと業界のどちらにより大きなメリットがあるのかは分からない。実際、Googleが得をする可能性もある。
考えてみれば、独立したGoogleアドマネージャーにはGoogle所有のDSPがなく、これはYouTube広告と検索広告の買いつけに集中することになる。オープンウェブではそれ以外のすべての要素が置き去りにされるかもしれない。
そして、そこが厄介なところなのだ。
「不要なパーツ」を切り捨てる口実になる可能性も
切り捨てられるのがDSPであれセルサイドであれ、あるいはまったく別の何かであれ、その結果はとても明快とは言えない。確かに、GoogleがYouTubeの広告在庫の開放を余儀なくされれば、待望の競争が多少なりとも生まれるだろう。しかし、それこそがGoogleの思う壺(つぼ)という可能性もある。結果的に、もはや不要のパーツを切り捨て、中核的な収入源をしっかり掌握することになるかもしれない。
なぜか。仮に独占疑惑でGoogleに有罪判決が下され、広告事業の一部を強制的に分離させられたとしても、当該の一部はすでに下り坂にあるからだ。実のところ、この部門の斜陽化は2021年からずっと続いている。この年、Googleのネットワーク事業の売上高は317億ドルで、前年比37.3%増という大躍進を遂げた。しかしその後は下落傾向に転じ、2022年は292億ドル、2023年は282億ドルと下がりつづけ、2024年の数字も大きく好転する兆しは見えない。
モバイルデヴメモ(Mobile Dev Memo)のコンサルタント兼アナリストでエディターでもあるエリック・シューファート氏はこう述べる。
「Googleのネットワーク事業はその全体が鈍化しており、同社にとって構造的に重要なものではない。2024年第2四半期に、YouTube広告の売上高は12億ドルという過去最大の差をつけてネットワーク事業の売上高を上回った。YouTubeの売上高とネットワーク事業の売上高が初めて逆転したのが2023年第2四半期であることを考えれば、これは驚嘆に値する」。
ネットワーク広告は過去の遺物
実際、ネットワーク事業はGoogleにとってあまりにも瑣末なセグメントであるため、シューファート氏がもはや「痕跡」と呼ぶありさまだ。消費者の関心がデスクトップ中心のオープンウェブに向けられていた「時代の遺物」ということだろう。
はっきり言えば、Googleのネットワーク事業は衰退に向かっている。オープンウェブの存在感が薄れ、主要なパブリッシャーがサブスクリプションなどのほかの収益モデルに移行しつつある反面、Googleがもたらす広告収入への依存度を下げようとしているからだ。当然のことながら、すでにGoogleは時代の流れに先手を打つべく動きはじめている。
「Googleがネットワーク事業の切り離しを余儀なくされたとしても、その部分の収益の大半はもっと利益率の高いYouTube広告や検索広告に流れるだけかもしれない」とシューファート氏は指摘する。「ネットワーク事業の利益率の低さを考えると、現在の同事業の売上高のほんの一部を検索に振り向けるだけで、純売上高は現在の水準を維持できるだろう」。
[原文:As Google’s antitrust trial intensifies, the ad industry speculates the consequences of a potential breakup]
Seb Joseph and Krystal Scanlon(翻訳:英じゅんこ、編集:分島翔平)