ゴリラになって森などの箱庭世界で暴れまわる『Gorilla Tag』の魅力とは?(画像はSteamより)

ゴリラになれるVRゲーム『Gorilla Tag』が海外でかなりの人気を集めている。

2021年にリリースされた本作は、2024年6月時点で収益が1億ドル(約160億円)を突破しており、デイリーアクティブユーザー数は100万人、累計プレーヤー数は1000万人にもなるという。日本ではあまりプレーヤーが多くないが、それでもすごい人気だろう。

なぜ、ゴリラになれるといった奇妙なゲームが人気なのか? 実際に遊んでその魅力を確かめてみた。

腕を振り回して移動する癖のあるゲーム

『Gorilla Tag』では、プレーヤーは脚のないゴリラになる。そして、左右の腕を動かしたり地面を叩くように移動したりするわけだ。VRゲームは両手のコントローラーで操作するのが基本となるので、それに応じた移動方法となる。

当然ながら、この移動方法は難しい。最初はよちよち歩きの赤ちゃんのようになり、なんとか道を進んで、苦労しながら崖を登るようになる。

しかし、慣れてくると慣性をつけてすごい勢いで動き回ることが可能になるうえ、壁をぴょんぴょんと飛び登り、自由に木と木を渡るゴリラになれるのだ。

チュートリアル(ゲーム序盤の説明部分)が非常に短いのも現代風である。歩く動作や高いところに行く動作を覚えたあとは、いきなりマルチプレー(ほかのプレーヤーとの同時プレー)に突入する。

ゲームの基本ルールはいわゆる鬼ごっこ。鬼ゴリラはほかのゴリラを追いかけ、タッチすればよい(いくつかほかのルールも存在する)。本作はボイスチャットにも対応しており、英語での会話が非常にさかんである。

『Gorilla Tag』はSteam版とMeta Quest版が存在するが、後者は基本プレー無料となっている。ゲーム内にゴリラの見た目を変えるさまざまなアイテムが用意されており、それで収益をあげるビジネスモデルとなっている。


ゴリラのおしゃれは実にさまざま。コミュニケーションを取る場において他人との差別化は重要で、ゆえに衣装をアイテム課金で購入する人が出てくる(画像はSteamより)

さまざまなゴリラから声をかけられる

『Gorilla Tag』の魅力が何かを考えてみると、1つは本作がメタバース的な遊び場になっていることが挙げられる。

公園のようなプレイグラウンドがあり、そこには水風船、虫、ツリーハウスなどいろいろなアイテムや場所がある。さらに鬼ごっこというわかりやすいルールでみんなと遊ぶわけで、一緒にいるゴリラと自然と盛り上がるわけだ。

かくいう筆者も、実際に遊んでいるとさまざまなゴリラ(プレーヤー)から声をかけられた。

青いゴリラは英語で「ニュービーだな? 動き方を教えてやるよ」と語りかけてきて、素早く移動する方法を教えてくれた。

本作はプレーがうまくなればなるほど動きが洗練されていくので、プレースキルの伸びしろもかなりある。ただ場所が提供されているわけではなく、そこで遊び続けることによってゴリラとしての腕前が上がり、より楽しくなっていくわけだ。

あるいは別のゴリラには、急に「ハグしてくれよ!」と言われたりもした。一瞬意味がわからなかったが、後から考えると初心者の筆者が鬼になっていてかわいそうだったので、その役割を請け負ってくれたようだ。親切な人もいるものである。

コミュニケーションが促進されるような場に

子どももかなり多い。子どもと思しき声のゴリラが急に目の前に立ちふさがり「お前どこのやつ?」と声をかけられた(もちろんこれも英語である)。すると違うゴリラが横から入ってきて「なあ、あっちいこうぜ!」みたいなことを言いはじめる。

すると、最初のゴリラは「いま俺はこいつと話しているんだ!」と怒り出し、筆者そっちのけで2匹のゴリラの喧嘩がはじまった。まるで動物園の檻の中にいるようだと思いつつ、ただ呆然と2匹の様子を眺めるほかなかった。


みんなで仲よくコミュニケーションがとれれば、素晴らしいゲームだと感じられるだろう(画像はSteamより)

もちろん、さまざまな人がいるのでいいコミュニケーションばかりではない。しかし、虫を捕まえてそれをみんなで観察したり、一緒に奇妙なポーズを取ったりと、ゴリラの縄張り内でさまざまなコミュニケーションが促進されるような場になっているわけだ。

鬼ごっこをまじめにやってもいいし、ダラダラしゃべるだけでもよい。誰か友達がいそうな公園と、そうでない公園があったとしたら、前者に行くだろう。現在は「人が集まりそうなところには人が集まる」という当たり前の事実が大きな魅力となっていると思われる。

日本人がいない理由は、端的にいえば英語でコミュニケーションをとっていることが多いからだろう。本作はフレンドと遊ぶこともできるので、プライベートルームに引きこもっている日本人もいるはずだ。

また、意外と身体を使うゲームのため、広い部屋がほしいのも正直なところである。筆者もプレーするうちに部屋の中をうろうろ移動していたし、狭い場所で遊ぶと何かにぶつけるのは容易に想像できる。実際、ユーザーレビューのなかには「手を切ってしまった」だとか「手痛い怪我をしたが私はまたゴリラになるだろう」と書かれているものもあった。

ゆえに『Gorilla Tag』が日本ではやるかはかなり微妙なところなのだが、いずれにせよ注目に値するゲームではあるだろう。ゴリラとして暴れまわることが楽しいコミュニケーションになり、こぞってみんながゴリラになろうとしているのだから。

(渡邉 卓也 : ゲームライター)