エッセンシャルワーカーとは?意味や職種の一覧を紹介
1.エッセンシャルワーカーとは
エッセンシャルワーカー(Essential Worker)とは、医療、福祉、運送など、日常生活を維持するうえで「必要不可欠な(Essenntial)」仕事に従事する人を指します。国内では2021年の緊急事態宣言の際に、感染リスクを負いながら現場で働く人たちに対して敬意を込め、この言葉が広く用いられるようになりました。
エッセンシャルワーカーの働き方の特徴として、事務系の職種に就くホワイトカラーと比べて現場に立つことが多く、リモートワークにシフトしにくいことが挙げられます。
2.エッセンシャルワーカーの職業一覧
エッセンシャルワーカーに該当する職業に明確な定めはありません。ここでは、2020年に厚生労働省が「緊急事態宣言時に事業の継続が求められる事業者」として定義した職業を紹介します。
引用元:厚生労働省|緊急事態宣言時に事業の継続が求められる事業者
医療関係者には、以下の職種が挙げられます。
・医師 ・医療技術者(診療放射線技師・臨床検査技師など) ・看護師 ・准看護師 ・医療事務 ・保健師 ・医療ソーシャルワーカー(MSW) ・リハビリテーション職員(理学療法士・作業療法士・言語聴覚士) ・薬剤師 ・栄養士 ・歯科医師 ・歯科衛生士など
医師や看護師などはもちろんのこと、間接的に医療に携わる病院勤務の清掃員や、医薬品製造・販売に関わるMR(医薬情報担当者)、MS(医薬品卸販売担当者)、登録販売者なども、エッセンシャルワーカーに該当します。
近年新型コロナウイルスの感染拡大は収まりつつありますが、医療従事者のインフルエンザやB型肝炎などの感染リスクは依然として高く、看護師にいたっては結核の感染リスクが一般人の約4倍高いといわれています。
医療関係のエッセンシャルワーカーは、人々の健康に関わる業務のため責任が重く、自身の感染リスクが高い仕事といえます。しかし、患者の回復をそばで見られたり、直接感謝の言葉を受け取れたりするなど、大きなやりがいを感じられる職種です。
引用元:厚生労働省|緊急事態宣言時に事業の継続が求められる事業者
介護福祉関連の事業者には、以下の職種が挙げられます。
・介護職員 ・生活相談員 ・ケアマネジャー ・児童発達支援管理責任者 ・サービス管理責任者 ・サービス提供責任者など
介護福祉の現場は、身体介護や生活援助などをおこなう職員に加え、介護タクシーのドライバーや、相談援助の専門職員など、さまざまな職種が連携して成り立っています。
これらの人材が不足すると、介護を必要とする人に十分なサービスが行き渡らないだけでなく、その家族の負担も増加します。少子高齢化が進む日本では、介護人材の重要性は今後さらに増していくでしょう。
引用元:厚生労働省|緊急事態宣言時に事業の継続が求められる事業者
生活に不可欠なサービスを提供する事業者には、以下の職種が当てはまります。
・インフラ運営(電気・通信工事、水道工事など) ・飲食料品供給(農業、漁業、食料品の輸入・製造・加工など) ・飲食サービス(食堂、レストラン、宅食・テイクアウトなど) ・生活必需品供給(家庭用品の輸入・製造・加工など) ・生活必需品小売(スーパー、コンビニ、ホームセンターなど) ・家庭用品のメンテナンス(自動車修理・ 電気機械器具整備など)) ・生活必需サービス(宿泊、銭湯、ランドリーなど) ・ごみ処理(ごみ収集・産業廃棄物収集など) ・冠婚葬祭業(火葬場、葬儀場など) ・メディア(テレビ・ラジオ・新聞・ネットなど)など
医療福祉に携わる人に注目が集まりがちなエッセンシャルワーカーですが、コンビニやスーパーの店員、食料品や衣料品などの生活必需品の製造から販売に携わる職業も、人々の生活に欠かせない役割を担う仕事に該当します。
引用元:厚生労働省|緊急事態宣言時に事業の継続が求められる事業者
社会の安定・維持に不可欠なサービスを提供する事業者には、以下の職種が当てはまります。
・金融(銀行・決済サービス事業者など) ・物流・運送 ・国防 ・企業活動に必要なサービス(ビルメンテナンス、セキュリティなど) ・治安維持 ・公共工事(河川や道路の管理など) ・行政サービス(地域包括支援センター職員・保健師) ・育児サービス(保育士・幼稚園教諭)など
人々の生活を支える仕事は、生活必需品・サービスを供給する仕事だけではありません。物流を支えるトラックドライバーや、高齢者の生活相談窓口の役割を担う地域支援センター職員、子どもの成長と子育て世帯の生活を支える保育士・幼稚園教諭などもエッセンシャルワーカーに該当します。
tips|エッセンシャルワーカーではない職業とは?
エッセンシャルワーカーではない職種として、事務職、クリエイティブ職、エンターテインメント関連、研究職などが挙げられます。
これらの職業は看護師やトラックドライバーなどと比べると、日常生活の維持に必要不可欠な仕事とはいえません。しかし、喜びや感動を提供したり、社会の発展に貢献したりする仕事であり、エッセンシャルワーカーとは違う角度から人々の生活を支えている仕事といえるでしょう。
3.エッセンシャルワーカーの3つの課題と対策
エッセンシャルワーカーとして注目されやすい医療・福祉、運送業・郵便業などの賃金は、平均を下回るケースが多いです。
エッセンシャルワーカーが提供するサービスは、誰でも利用できるよう価格が抑えられていることが多いため、結果として従業員の給料も比較的低くなりやすい傾向にあります。
ただし、一概に低いとは言い切れません。電気・ガスなどの生活インフラ業界は大企業が多く、平均勤続年数が長いため、全業界トップクラスの給料を誇ります。
対策・支援事例この課題に対し政府は、医療、介護、保育などの社会保障領域において、診療報酬や介護報酬、子ども・子育て支援制度など公定価格の改善を推進しています。
たとえば介護領域では、3年ごとに介護報酬が改定されており、2009年から2022年の間に月額4万3,000円処遇が改善され、今後も継続して改善されていくことが予想されます。
2025年問題とは、高齢化が進むことによって起こりうる、社会保障費負担の増加や、労働力の減少・経済の縮小などの問題を指します。
厚生労働省によると、2025年に必要とされる介護職員数は243万人、看護師は195万人です。しかし介護職員は2022年時点で215.4万人、看護師は2020年時点で173.4万人不足しているのが現状です。
また、2040年には高齢者人口増加のピークを迎え、国民の4人に1人が後期高齢者となり、2040年問題としてより深刻化すると予想されています。
対策・支援事例これらの課題に対し国や自治体は、医療費や介護費などの自己負担額の見直しや、資格取得希望者への支援制度の整備、エッセンシャルワーカーへの支援事業の実施など、医療・介護人材の離職防止と新規人材の獲得に力を入れています。
たとえば、東京都では2024年6月より、介護職員やケアマネジャーなどの給与を月1万~2万円引き上げる「居宅支援特別手当」の受付を開始し、介護職員の処遇の改善を進めています。
また、大阪市では2023年から2024年にかけて「大阪府社会福祉施設等従事者支援事業(第2弾)」として、介護・保健・保育などの福祉施設へ従事する約41.4万人を対象に、2万円分のギフトカードを配付する事業を実施し、エッセンシャルワーカーへの感謝の意を示しています。
2019年に働き方改革関連法が施行され、多くの職種で時間外労働時間に上限が設定されました。運送業や医師など、急な切り替えが難しい業種や職種には準備期間として適用までに5年間の猶予が設けられましたが、2024年4月よりドライバーは年360時間、医師は年960時間の上限が適用されています。
しかし、医療・運送の現場では、猶予期間中に新型コロナウイルスの対応に追われて準備が進まず、現在は労働力の不足が深刻化しています。
対策・支援事例医療現場の課題に対し政府は、看護師や薬剤師などの医療従事者が担当できる業務範囲を広げる法令改正をおこないました。これによって、医師に偏在していた負担を軽減するタスクシフト・シェアを促進しています。
また物流に関する課題に対し国土交通省は、対策をまとめた「物流革新に向けた政策パッケージ」を策定しました。効率化につながる設備やDX化などへの投資支援や、配送を急がないものを鉄道や船での輸送に切り替える「モーダルシフト」の推進などにより、労働時間や輸送量の削減を目指しています。
4.エッセンシャルワーカーの担い手を増やすには
エッセンシャルワーカーの需要が拡大する反面、賃金問題や高齢化による働き手の減少など、さまざまな問題が顕在化しています。
これらに対応するため、各業界および事業所単位でDX化やAIの導入、ワークライフバランスの見直しといった業務改善が進められています。
さらに、この問題を解決するには、消費者側の意識改革も必要不可欠です。私たちが日常的に利用している医療や福祉サービス、物流の安定供給は、多くのエッセンシャルワーカーによって支えられています。それを当たり前と思わず、裏で支える人々を認識することが大切です。
安心して働ける職場環境の実現と、利用者の意識改革がエッセンシャルワーカーの担い手を増やす重要な要素となるでしょう。
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参考
厚生労働省|緊急事態宣言時に事業の継続が求められる事業者 厚生労働省|令和5年賃金構造基本統計調査の概況