運休や徐行も…南海トラフ地震臨時情報「巨大地震注意」の発表を受けた「鉄道各社の対応」一覧

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それは令和6年日向灘地震から始まった

24年8月8日16時43分、日向灘(宮崎県東南東沖30キロメートル付近)の深さ31キロメートルを震源とするMj7.1の地震が発生。最大震度は宮崎県日南市で震度6弱、宮崎市、串間市、都城市、鹿児島県大崎町で震度5強の揺れが観測され、直後に九州、四国などの沿岸地域に津波注意報が発表された。この地震により一部地域で土砂災害や家屋損壊が発生したのをはじめ、転倒するなどした負傷者は8人に上った(8月9日消防庁)。

この地震を受け、気象庁は17分後の8日17時、「南海トラフ地震臨時情報(調査中)」を5年前の運用開始から初めて発表するとともに、有識者などで構成される「南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会(会長:平田直 東京大学名誉教授・以下「評価検討会」)」を臨時に開催したことを発表。

この評価検討会は有識者6名で構成され、南海トラフ及びその周辺地域における気象庁以外の機関の観測データについても説明を受けるため、関係機関(国土地理院、海上保安庁、防災科学技術研究所、海洋研究開発機構、産業技術総合研究所)も参画し原則月1回の割合で定例開催されている。

この評価検討会を定例以外に開催する基準は、南海トラフ巨大地震の想定震源域やその周辺でM6.8以上の地震が発生した場合、またはプレート境界面で通常と異なる地殻変動を観測した場合で、気象庁はその事象後5〜30分後に第一段階の「南海トラフ地震臨時情報(調査中)」を発出し、緊急に臨時の評価検討会を開催することになっている。評価検討会では、発生した地震のメカニズムやその後の地震活動領域や、地殻変動の有無などを検討分析した上で評価をまとめ、南海トラフ沿いの領域で、さらなる大地震発生の恐れがあると判断されれば、最短2時間で「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震警戒)」や「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」、「南海トラフ地震臨時情報(調査終了)」を発表する。

そして、この日気象庁は「臨時情報(巨大地震注意)」を発表した。報道資料には、「南海トラフ地震の想定震源域では、新たな大規模地震発生の可能性が平常時と比べて相対的に高まっていると考えられます。今後、もし大規模地震が発生すると、強い揺れや高い津波を生じると考えられます」と書かれ、この衝撃を和らげるように「新たな大規模地震が発生する可能性は平常時と比べて高まっていますが、特定の期間中に大規模地震が必ず発生するということをお知らせするものではありません」と付け加えている。さらに「政府や自治体などからの呼びかけ等に応じた防災対応をとってください」としている。

評価検討会が南海トラフ巨大地震発生の切迫度に応じ臨時情報の「警戒」と「注意」を分ける基準は、南海トラフ巨大地震の想定震源域でM8クラスの地震が発生したと評価した場合で、その地震で破壊されずに残った領域でも次の巨大地震が発生する可能性が高まったとして「巨大時地震警戒」を発表する。

この「巨大地震警戒」が発表された場合、政府は次の巨大地震によって引き起こされると想定される揺れと津波に備え、地震発生後では避難が間に合わない住民の事前避難の一週間程度継続を含めた防災対応を呼びかけることになる。その呼びかけによって自治体は事前避難対象地域に対し避難指示などの避難情報を発令する。

一方、今回のように南海トラフ巨大地震想定震源域内で発生した地震が、M7以上M8未満と評価した場合や、プレート境界で起きた地震でなかった場合、次の巨大地震発生の注意を呼び掛ける「臨時情報(巨大地震注意)」になる。

気象庁は、こうしたMw7.0以上の地震発生後、過去の事例では7日以内にMw8クラス以上の大規模地震が発生するのは数百回に1回程度。異常な現象が観測される前の状況に比べて数倍高くなっているとしている。(ちなみに過去の世界の大規模地震の統計データでは、1904年〜2014年に発生したMw7.0以上の地震1,437事例のうち、その後同じ領域でMw8クラス以上の地震が発生した事例は、最初の地震発生から7日以内に6事例であり、その後の発生頻度は時間と共に減少していく)

また、2018年12月25日に発表された内閣府の「防災対応のための南海トラフ沿いの異常な現象に関する評価基準検討部会」が取りまとめた報告書のうち、「日向灘の地震の取り扱い」について抜粋すると、「日向灘で発生した地震について、その後M8クラス(あるいはそれ以上)の地震が発生した事例は知られていない。しかし、この数少ない事例のみをもってこの領域の地震が南海トラフのM8クラスの地震に繋がらない特別な領域であると評価することは困難である。日向灘は南海トラフの最大クラスの地震の想定において、震源域が更に西側に拡大した場合の領域として想定されたものである。しかし、この領域で発生した地震が、それよりも東側の領域と同様に南海トラフの領域全体に影響する可能性は否定できない。そのため、日向灘の地震についても、南海トラフの想定震源域における他の領域の地震と同一の基準で評価するのが適当である」と述べている。つまり、日向灘の地震後にM8クラス以上の地震が発生した事例は知られていないが、南海トラフの領域全体に影響する可能性もある」としているのだ。

臨時情報で防災対策を強化すべき対象地域となるのは、「南海トラフ地震防災対策推進地域(以下「推進地域」)」。この推進地域とは、南海トラフ巨大地震が発生した場合、震度6弱以上の激しい揺れや高さ3メートル以上の津波のおそれなどがあり、防災対策を強化すべきと推進地域に指定された地域(5-1図)。その範囲は、茨城県から沖縄県にかけての内陸を含む29都府県、707市町村に及ぶ広範地域である。

臨時情報(巨大地震注意)発表直後の主な出来事

総務省消防庁は24年8月8日、南海トラフ地震防災対策推進地域及び都府県防災担当課あてに「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」の発表について」と、次のように通知している。文面は「本日(8日)19時15分、別添のとおり、気象庁が「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」を発表しましたのでお知らせします。つきましては、南海トラフ地震防災対策推進地域係る都府県におかれましては、今後一週間程度、平時よりも後発地震の発生する可能性が高まっていることを踏まえ、地域住民に迅速に伝えるとともに、避難態勢の準備等の呼びかけをお願いします。なお、今後気象庁等が発表する最新の情報等に留意願います。また、本通知の内容について同地域に係る貴管内市町村へ迅速に周知をお願いします」

南海トラフ巨大地震発生時に34.4メートルの日本最大の津波が想定される高知県黒潮町では、「巨大地震注意」の臨時情報を受け、町内全域に「高齢者等避難」を発令し、今後一週間程度は大規模地震の発生に注意するよう呼びかけ、25ヵ所の避難所を開設した。そのほかいくつかの自治体が臨時情報後に避難所を開設したが、ほとんどの地域で避難してくる人は少なく、避難所を閉鎖又は縮小している。住民たちは冷静に行動しているようだ。

さらに、臨時情報(巨大地震注意)の発表後、鉄道各社は推進地域を走る車両の運休や徐行を決めている。

(1)JR東海/東海道新幹線が「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が解除になるまでの間、三島駅〜三河安城駅間で速度を落として運転。これにより、全列車で少なくとも10分以上の遅れが見込まれるとしている。旅行計画を変更する場合、無手数料で変更・払い戻しを行う特別対応を実施するとしている。

(2)在来線/JR東海・JR東日本・JR西日本・JR四国が関係する「寝台特急 サンライズ出雲・瀬戸号」、JR東海とJR西日本が関係する「特急 南紀号」、JR東海の「特急 伊那路号」・「特急 ふじかわ号」を、巨大地震注意が解除となるまでの間運休となった。運休期間は1週間程度を見込んでいるものの、今後の状況次第で変更になるとしている。

(3)JR東日本/8日から当面の間、東海道線(平塚〜熱海間)・伊東線(熱海〜伊東間)・中央線(大月〜茅野間)の上下線で、速度を落として運転する。これにより、東海道線・湘南新宿ライン・上野東京ライン・伊東線・中央線では、遅れや運休が発生する場合があるとしている。また直通運転を行う伊豆急行線でも、伊東〜伊豆急下田間で徐行運転を実施する。

(4)JR西日本/紀伊半島南部の海沿いを走る紀勢線(きのくに線)では、新宮〜御坊間で当面の間、徐行運転を行う。また「特急 くろしお」は、和歌山〜白浜・新宮間で当面の間、運転を取りやめる。

(5)JR四国/牟岐線(由岐〜阿波海南間)・土讃線(吾桑〜土佐久礼間)で当面の間、徐行運転を行う。これにより、高知駅での接続が変更になり乗り換えができない場合や、高知〜窪川間では運休が発生する可能性があるとしている。また、一部直通運転を行う土佐くろしお鉄道も、中村・宿毛線で徐行運転を実施する。

(6)JR九州/9日(金)の運行計画として、九州新幹線(博多〜鹿児島中央間)・西九州新幹線(武雄温泉〜長崎間)は通常運行するものの、在来線では「特急 きりしま」・「特急 ひゅうが」・「特急 海幸山幸」は全列車運休、「特急 にちりん」・「特急 にちりんシーガイア」は一部区間・列車が運休になる。快速列車や普通列車では、日豊本線(佐伯〜延岡間、延岡〜鹿児島間)・日南線(南宮崎〜志布志間)・宮崎空港線(田吉〜宮崎空港間)・吉都線(吉松〜都城間)・肥薩線(吉松〜隼人間)で始発から運転を見合わせる。

(7)私鉄/東京〜神奈川を走る小田急線は9日の始発から当面の間、本厚木駅と小田原駅の間で最大で30キロほど速度を落として運転するため、遅れが生じる可能性があるとしている。

今後、運行状況は、変わっていく可能性があるので鉄道各社のホームページでこまめに確認する必要がある。

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