体調不良の際に新型コロナウイルスなのか、熱中症なのか、見分けがつかない場合、どう対処する?

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 新型コロナウイルスの感染者数が全国的に増加傾向にあります。「KP.3」と呼ばれる変異株の流行が原因といわれており、中には、熱中症だと思って医療機関を受診したところ、新型コロナウイルスに感染していたことが判明したケースもあるようです。

 体調不良に陥った際に新型コロナウイルス感染症なのか、熱中症なのか、見分けがつかない場合、どのように対処したらよいのでしょうか。新型コロナウイルス感染症と熱中症の症状の違いも含め、あんどう内科クリニック(岐阜市)の安藤大樹院長に聞きました。

「せき」「たん」「喉の痛み」がポイントに

Q.熱中症になると、どのような症状が出るのでしょうか。

安藤さん「熱中症は、高温多湿な環境下で体内の水分やナトリウムなどミネラルのバランスが崩れたり、体温の急激な上昇で体温調節機能が崩れたりすることなどによって起こります。その症状は、基本的に『脱水に伴う症状』と『高体温による脳の機能不全による症状』に分かれます。日本救急医学会の『熱中症診療ガイドライン2024』では、熱中症でみられる主な症状を3段階の重症度に分けてまとめています。

1度(ローマ数字の1)はめまいや立ちくらみ、筋肉痛、大量の汗などの症状、2度(ローマ数字の2)の場合は頭痛や吐き気、嘔吐(おうと)、倦怠(けんたい)感、脱力感などの症状がそれぞれ出ます。3度(ローマ数字の3)の場合、意識障害やけいれん、手足の運動障害、高体温といった症状が出るため、入院が必要となります。

症状として押さえておく必要があるのは2度(ローマ数字の2)です。なぜなら2度(ローマ数字の2)の症状は、脱水による血液の循環が悪くなることにより起こるため、医療機関での治療が必要になるからです。『頭痛やだるさ程度なら、休んでいれば治るだろう』と軽く見ていると、その後に入院管理が必要となる3度(ローマ数字の3)に進行してしまうかもしれません」

Q.最近、流行しているといわれる新型コロナウイルスの変異株「KP.3」の特徴について、教えてください。

安藤さん「現在、拡大を続けている新型コロナウイルスの変異株『KP.3』は、少し前までアメリカで大流行していた株で、インバウンドの拡大で海外からの観光客が増えることにより、日本でも広まることは時間の問題といわれていました。

変異株といっても、一昨年から流行しているオミクロン株の亜型のため、症状は喉の痛みやせき、倦怠感、鼻水・鼻詰まり、頭痛、筋肉痛、発熱など、これまでの変異株と同様で、重症化するかは個人の基礎疾患や免疫状態に左右されます。

ただ、この変異株の特徴は『感染のしやすさ』です。ウイルス表面のスパイクタンパク質の変異により免疫系を回避しやすくなっているといわれています。また、ワクチン接種率の低下や長期間の感染対策による集団免疫の低下により、感染しやすくなっていることも懸念されています」

Q.新型コロナウイルス感染症と熱中症を見分ける方法はあるのでしょうか。

安藤さん「まずは、新型コロナウイルス感染症と熱中症の基本的な経過と症状を押さえておきましょう。

やはり、ポイントになってくるのが『せき』『たん』『喉の痛み』です。熱中症でもこれらの症状が全く出ないわけではないのですが、少なくとも症状の中心になることはありません。また、新型コロナウイルス感染症でも意識がぼーっとすることはありますが、これは症状が進行した場合にみられる症状です。熱中症では初期から認められる場合があります。けいれんやめまいも、新型コロナウイルス感染症には特徴的ではありません。

味覚障害がみられる場合は新型コロナウイルス感染症の可能性が高まりますが、熱中症で口の中が乾燥していても味覚を感じにくくなりますし、そもそも個人の感じ方にも差があるため、鑑別の決定打にはなりません。ただ、嗅覚障害が熱中症でみられることはまずないため、判断の決め手にはなるでしょう。また、急に全身の筋肉がつるような症状を認める場合は、熱中症の可能性が高まります。

現在、流行している変異株『KP.3』は、やや弱毒化したこともあり、今までより『緩やかな経過』を取る傾向があります。そのため、感染初期には喉の痛みが目立たなかったり、せきやたんを認めなかったりすることもありますし、場合によっては熱すら出ていないこともあります。

また、新型コロナウイルスの感染の可能性を判断する上で有益な情報だった味覚障害や嗅覚障害も、オミクロン株に置き換わって以降、頻度が低くなってきています。加えて、最近は手足口病やRSウイルス、溶連菌感染症など、多様な感染症が流行しているため、よほど典型的な症状や喉の所見などを認めない限り、新型コロナウイルス感染症なのか、熱中症なのか、もしくは他の感染症なのかは、医療従事者でも判断することが難しくなっています」

見分けがつかない場合はどう対処?

Q.では、新型コロナウイルス感染症の症状なのか、熱中症の症状なのか、見分けがつかない場合の具体的な対処法について、教えてください。

安藤さん「大切なのが、『発症のきっかけ』です。特に熱中症は『気温・湿度の高い場所』『水分を取りにくい状況』『風通しの悪い室内』などにいることにより、発症することが多いです。先述の熱中症診療ガイドラインには、『暑熱環境にいる、あるいはいた後の体調不良はすべて熱中症の可能性がある』と記載されています。

新型コロナウイルス感染症の場合も『密室環境』『感染者との接触』『流行地域への滞在』など、発症のきっかけの情報が有用ですが、『KP.3』の平均的な潜伏期間が3〜4日程度なので、なかなか特定できない場合も多々あります。

そのため、『暑い環境で過ごした後、急に発症し、せきや喉の症状があまり目立たない』という病歴があれば熱中症を疑い、その他のケースは新型コロナウイルス感染症などの感染症を疑うというのが現実的な対応になります。

高齢者や基礎疾患をお持ちの人は、新型コロナウイルスへの感染には細心の注意を払う必要がありますが、基本的に『KP.3』は弱毒化が進んでいるため、健康な人が重症化することはあまりありません。

何より覚えておいていただきたいのは『熱中症は一刻を争う病気だ』ということです。熱中症は、適切な対応が取られない場合、その日のうちに死に至る可能性のある怖い病気です。『急激に悪くなる』という点では新型コロナウイルス感染症よりも熱中症の方が怖いのです。

もし新型コロナウイルス感染症か熱中症か、判断に迷うときは、まずは熱中症を疑って行動するようにしてください。もちろん、『免疫力が弱い人を感染リスクにさらしてしまう』という観点からは、決して新型コロナウイルス感染症を軽く見てはいけません。

熱中症を疑ったときに行うことは、脱水状態の確認です。脱水が強く疑われる代表的な初期症状は『めまい』『立ちくらみ』『意識が飛ぶような感覚』『集中力がなくなった』などです。

また、水分を補給しても口や唇の乾きが改善しなかったり、トイレの間隔が長くなったり、尿の色が濃くなったり、急に汗をかかなくなってしまったりなどの状態に陥った場合も、比較的分かりやすい脱水のサインです。『普段は塩辛く感じる経口補水液がおいしく感じる』というのも、脱水のときによくみられます。

こういった症状に加え、頭痛や吐き気といった体の循環が悪くなっている症状が出てくると、これは一歩進んだ状態といえます。

ただ、脱水はゆっくりと進行することもあり、自分で気付くのがなかなか難しい場合もあります。その場合、次の5つのポイントを確認してみましょう」

(1)舌
舌は通常、赤くてツヤツヤしていますが、脱水気味になると白っぽく、溝が目立つようになります。

(2)皮膚の張り
手を軽く握って手の甲を引っ張ってみてください。パッと離したときにすぐに戻れば良いのですが、三角形が3秒ぐらい残ってしまう状態は脱水の可能性があります。

(3)爪
爪はだいたいピンク色をしています。キュッとつまんでパッと離したときに3秒以内に色が戻れば良いのですが、白い色がずっと残っている状態の場合、脱水を疑う所見です。

(4)手のひら
手のひらは体の端にあり、循環が悪くなると冷たくなります。顔は熱くほてっているのに手のひらが冷たい場合、脱水を疑うサインです。

(5)脇の下
脇の下は通常、多少湿っている状態なので、そこが乾燥しているのは脱水を疑う所見です。感染対策として手袋を用意している人はそれを手に着用し、脇に挟んでください。引っ張ったときに抵抗なくスルッと抜けてしまったら脱水症の可能性があります。

脱水症になってから初めて行うと分かりにくいので、普段から舌や爪、脇の状態などを確認して比較できるようにしておくと良いでしょう。