「パワハラ批判されているが…」石丸伸二氏と向き合ってきた“元安芸高田市議”が明かす「意外な本音」

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「市長をやめるのは予想より早かったですね。でも、いずれ石丸さんが大きく動く日が来るとは思っていました」

こう語るのは、元安芸高田市議の熊高昌三氏。議会と激しく対立していた市長時代の石丸伸二氏に対し、「どっちもどっち」というスタンスで不信任案を提出したことでも知られている人物だ。

はじめは他の市議と同じように石丸氏の姿勢を懐疑的に見ていた熊高氏だったが、「3年目に入って彼のやりたいことが政策として見えてきた」という理由から、石丸氏に肯定的な意見も発信するようになった。市議会の一員だった熊高氏は、都知事選で吹き荒れた「石丸旋風」をどう捉えているのか。

「反石丸派のなかには『安芸高田市を踏み台にして蹴って出た』と言う人がいるけれど、石丸さんを理解している人は私と同じように『日本の政治を変えてくれる可能性があるので、どこに行っても頑張ってほしい』と考えています。石丸さんの最大の成果はやはり、若い人に政治への関心を持たせたということでしょう。そして財政の無駄を削減し、学校教育に投資をしていったのも大きい」

都知事選の選挙戦中、石丸氏は街頭演説で「都立高校の生徒会長に100万円の“ばらまき”を行う」という公約を発表して大きな話題となった。ネット上では肯定的な意見もあった一方、財源を疑問視する声や「ポケットマネーから出せ」といった批判も相次いだ。

「石丸さんが言った“ばらまき”を、安芸高田市でも今年の新年度の予算で初めてやったんです。二つの高校に100万円ずつ渡して、生徒会が文化祭を考えてそこに100万円を使った。そう聞いて私も見に行ったんですけど、非常に自主的にいろんな活動を生徒自身がやったのが見て取れました。

要は子どもたちの自主性や意欲を引き出すためのお金なんだろうなというふうに私は受け止めました。政治家が子どもたちに直接そういうお金を出せば、子どもたちも政治に関心を向ける。十分な検証ができている状況ではないですが、生き生きと子どもたちが知恵を出し合ってやったということが一つの評価には繋がるのかなという気がします」

とはいえ、熊高氏も石丸氏を無条件に肯定しているわけではない。石丸市政には「影」の部分もあったというのだ。

「市民と市役所、あるいは行政との距離が遠くなったということですね。それが不満の元にもなっていた。その説明責任が十分果たされているかどうかという点で大きな疑問を持たれている人も多いし、それが反発につながってきたと思います」

都知事選後のメディア対応でも、石丸氏の発言内容や態度は「パワハラ」と話題を呼んだ。その様子はこれまで安芸高田市で繰り広げられてきた、市長と議会やメディアとのやり取りそのものだった。議会や市役所職員、さらにメディアへの「口撃」はSNSで拡散され、石丸人気の起爆剤となっていたのだ。市議会で石丸氏と向き合ってきた熊高氏は、石丸氏の態度や発言についてどう考えているのか。

「確かに議会のやり取りの中では、パワハラと捉えられるような強い言葉を言われることもありました。でも、私は若い石丸さんに期待感を抱いていたので、あえて受け流すようにしていました。

メディアとも激しいやり取りがありましたが、パワハラというものとは性質が違うと思います。メディア政治家は対等なレベルですから。メディアには力があるわけで、強いものに対して打ち返しているわけですから、キツイ言い方でないと戦えませんよ」

石丸氏の市長辞任後、熊高氏は大きな決断を迫られることになった。誰が石丸市政を継ぐのか、という問題が浮上したのだ。

「せっかく安芸高田市で政治に目覚めた人が多く生まれたので、その流れをここで切ったらまずいなと思った。引き継ぐ人がいてくれれば別に私が出なくてもよかったのですが、それで1ヵ月ぐらい悩んで……。色々相談はしたんですけど、若い皆さんでも結局出るものがいないということで、出馬を決めました」

東京都知事選と同日に行われた市長選挙で6746票を得て勝利を収めたのは、石丸前市長を批判する新顔・藤本悦志氏だった。熊高氏は4541票で2位に終わったが、手ごたえはあったという。

「石丸さんを見習って私もYouTubeを活用して、選挙戦の中盤は大きな盛り上がりがありました。赤ちゃんを抱っこしたお母さんが応援してくれたりと、今までにはなかった若い人の力を感じることもできました」

熊高氏のYouTubeチャンネルは登録者が5.6万人を超え、「石丸さんの退職に伴う今後について」という動画は49万回再生を記録した。ちなみに安芸高田市の人口は3万人にも満たない。

「市民の政治意識は変わりつつあります。ただ、投票率は60%に届かず、広がりを欠いたのも事実です。最後は相手候補の組織力に対し、私の準備不足で負けてしまいました」

熊高氏は今後、支援者や後援会と相談しながら政治の道を前向きに歩んでいくつもりだという。

「石丸さんは今後、世界に影響力を持つようになると信じています。レベルは違いますが、自分は安芸高田市で頑張っていきます」

取材・文:佐賀旭
1992年静岡県生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科を修了後、『日刊ゲンダイ』『週刊朝日』『週刊現代』などで記者として活動