昨年末、老朽化で閉鎖した大阪工場(写真:時事)

機能性表示食品やトクホなどの「健康食品」にウソはないか。

『週刊東洋経済』7月27日号の第1特集は「機能性表示食品、トクホ、サプリのウソ・ホント」。正しく向き合うためのウソ・ホントの情報を網羅する。


収束の兆しが見えない小林製薬の紅麹問題。3月22日に「紅麹コレステヘルプ」など紅麹関連商品の回収を発表して以降、健康被害の報告が相次いでいる。

原因究明を急ぐが、健康被害との因果関係は現状確定していない。

3月末以降、関連の疑われる死亡者数を5件と公表してきた小林製薬。6月28日には「報告基準の変更」を理由に新たに76件を追加した。

これまでの調査では、腎関連疾患による死亡例に限定してきたが、紅麹関連商品が体力減耗など別の症状を引き起こす可能性が浮上した。腎関連疾患によらない死亡例も報告対象に含めたことで、件数が急増した。

厚労相が激しく非難

この間、厚生労働省に対して死亡数に関する説明や進捗報告はいっさいなかったという。武見敬三厚労相は「小林製薬の判断で、死亡者数の報告をしなかったことは極めて遺憾だ」と激しく非難した。

「もう小林製薬だけに任せておくわけにはいかない。厚生労働省が直接調査計画を立てさせ、進捗状況を管理する」(武見厚労相)

原因究明に重要なのが、紅麹原料を製造していた工場の実態だ。

小林製薬は2016年、繊維メーカーのグンゼから紅麹事業を譲り受けた。その後、大阪工場(大阪府大阪市)で紅麹原料を製造してきたが、23年12月、老朽化などを理由に同工場を閉鎖。24年1月以降はグループ会社の工場(和歌山県紀の川市)に設備を移設して製造を続けてきた。


両工場内で同種類の青カビ検出

3月末の厚労省などの立ち入り検査で、両工場内で同じ種類の青カビが検出された。この青カビが混入し、「プベルル酸」という物質が発生した可能性があるという。動物実験の結果、プベルル酸は腎障害を引き起こすことが判明。ほかにも青カビが紅麹菌と共培養されることで生成される別の2つの化合物も確認されている。

工場の衛生管理は十分だったのだろうか。サプリメントに関しては、医薬品の製造・品質の管理基準であるGMP(適正製造規範)認定を受けることが推奨されている。しかし、これを強制する制度はなく、事業者の自主性に委ねられている。小林製薬の大阪工場ではGMP認定を取得しておらず、社内のガイドラインなどに基づき検査を行うにとどまっていた。

GMPでは工場の構造や設備の運用方法、製品の衛生管理などを外部機関が査察し、評価をする。「GMPなど第三者認証を受けていないと、自社の基準で品質管理や検査が甘くなる懸念がある。今回は十分な記録も残されておらず、多面的な原因究明が困難になっている」。企業に対して健康食品のGMP認定を行う日本健康食品規格協会の池田秀子理事長はそう指摘する。

小林製薬が大阪工場でGMP認定を取得していなかったことは、法的に何の問題もない。ただ客観的な記録の不備が、原因究明の遅れにつながっている可能性がある。

1つ明らかなのは、小林製薬が紅麹原料を自社で製造する医薬品とは別の基準で製造してきたということだ。同社は「ナイシトール」や「命の母」などのOTC(一般用医薬品)を製造する。OTCは当然GMPを取得した製造ラインで生産されているが、紅麹原料ではそうした配慮はなかった。


「史上初」をうたう(写真は小林製薬提供)

原因物質については、別の可能性も指摘されている。紅麹が特殊な環境下で製造され、「消費者庁への届出実績がない新規の機能性関与成分」(消費者庁の公表資料)であったことだ。前出の池田氏は「小林製薬の製造方法は特殊で、特異な紅麹菌を使用していたほか、紅麹を約50日と通常より長く培養していた。その過程での汚染や、まったく別の物質を生み出したことも国の調査で報告されている」と指摘する。

なぜ通常より長く紅麹を培養していたのか。小林製薬は「有用成分の適正量を担保するため」だと説明する。ただ独自の製法や管理手法が、未知のリスクを引き起こしたおそれがある。

月1回新製品のアイデアを義務づけ

小林製薬は1886年創業のオーナー企業だ。現在でも創業家が株式の約3割を保有する。

社長の父である小林一雅会長は、社内の反対を押し切りヒット商品を誕生させてきたアイデアマン。

対して小林章浩社長は、創業家の6代目として13年に社長就任。「今後は、会長なしでもやっていけるように会社を変えていく必要がある」と、かねて危機感を語ってきた。その中で、小林製薬の社員は毎月1回、新製品のアイデアか業務改善案を出すことを義務づけられている。

業績面では26期連続の最高純益、25期連続の増配を続ける。ニッチながらシェアの高い独自商品で高収益につなげるビジネスモデル。「チャレンジングな社風で次々に目新しい商品を開発している。その過程で壁にぶつかったのではないか」(卸売業幹部)。

社外取締役にはそうそうたる顔ぶれ

小林製薬はコーポレートガバナンスの面でも優等生といわれてきた。早くから社外取締役を導入、メンバーには日本企業の企業価値向上の必要性を訴えたガバナンスの専門家である伊藤邦雄氏をはじめ、そうそうたる顔ぶれがそろう。


小林製薬が最初に症例報告を受けたのは1月15日。社長には2月6日に報告された。さらに社外取締役に事態の概要が伝わったのは、3月20日の夜だった。このままでは形だけのガバナンスと言われても仕方あるまい。

小林製薬にいま求められているのは、積極的な情報開示など、消費者の生命・健康を最優先に能動的に行動することだろう。今後の対応で自浄能力を示せるかが問われている。


(伊藤 退助 : 東洋経済 記者)