(写真:Peak River/PIXTA)

まじめに仕事をやっているのに成果が出ない。一方で、要領よくうまくやっている人がいる――。なぜ、こうした違いが生まれるのでしょうか。その答えは「ずるい考え方」を知っているかどうか、かもしれません。

「ずるい考え方」とは「ラテラルシンキング」(水平思考)のことで、「どんな前提条件にも支配されない自由な思考法」といわれます。世界を変えた革新的なイノベーションの多くはラテラルシンキングによって誕生しているとも考えられます。

書籍『ずるい考え方 〜ゼロから始まるラテラルシンキング入門〜』の著者である木村尚義氏が、誰でもすぐに活用できて成果を出しやすい「“異質なもの同士を組み合わせる”考え方」について解説します。

アイスクリームのコーンが生まれた瞬間

1904 年、アメリカのセントルイスで万国博覧会が開催されました。会場内ではアイスクリームが売られていたのですが、そのお店が「ある問題」に悩まされていました。それは、いかに容器を回収するか? お店では、アイスクリームを金属の容器に入れて販売していたのですが、数に限りがありました。


(画像:『ずるい考え方 〜ゼロから始まるラテラルシンキング入門〜』より)

食べたあとできちんと返却されれば問題ないのですが、そのまま持ち帰ってしまう人もいたため、容器は常に不足気味。容器がなくなるとアイスクリームを売ることができません。困った店主があたりを見回すと、突然、ある解決策がひらめきます。

隣の店では、ザラビアというエジプトのお菓子を販売していました。ザラビアは油で揚げた小麦粉のお菓子に、砂糖をこれでもかというほど、ふんだんに振りかけたお菓子で、隣の店では平らな形で売られていました。しかし、アイスクリーム店の店主は、これを円錐状に加工して作ってほしいと頼んだのです。

もうお分かりですね。ザラビアがアイスクリーム用の「コーン」ができあがりというわけです。一説によれば、これがアイスクリームコーンの誕生秘話だと言われています。

実は、このように「すでにあるもの」を「まったく別のもの」と結びつけて「新しいもの」を創造するのも、ラテラルシンキング的発想なのです。

携帯電話についているデジカメも、異質なもの同士を組み合わせて成功した例でしょう。電話とは無関係なデジカメを組み込んだことで、携帯電話のモバイルツールとしての価値は飛躍的に高まったのです。

「意外な出会い」を見つけるには?

わたしたちは、ものには特定の用途があって、それ以外の使い方はできないという強い先入観に支配されています。しかし、その先入観から自由になったとき、別のものとの組み合わせが実現し、新たな価値を生み出すことができるのです。

もうひとつ重要なのは、セレンディピティ(偶然の産物・幸運な偶然を手に入れる力)です。アイスクリームのコーンが生まれた例からもわかるように、組み合わせは「偶然」から生まれることが少なくありません。ある場面に遭遇したとき、そこから絶妙なマッチングを思いつけるかどうかが、成否を分けるのです。

◆オススメの方法: 成功例から転用していく◆

何かを組み合わせる場合、いったん成功事例を見つけてしまえば、あとは驚くほど楽になります。成功事例のパターンをアレンジしていけばよいからです。日本で初めて「たらこスパゲティー」を開発したのは、「壁の穴」というパスタ専門店です。常連客のリクエストから生まれたこのメニューは、今や和風パスタの定番メニューとなりました。


(画像:『ずるい考え方 〜ゼロから始まるラテラルシンキング入門〜』より)

「たらこスパゲティー」の存在を知った多くの人は、きっとこんなふうに考えたでしょう。「そうか、パスタはイタリア料理だけど、これに和の食材を合わせてもいいんだ!」。一度「正解」がわかると、あとはそれを転用していくだけ。パスタ+納豆、パスタ+味噌、パスタ+梅干し……と、「たらこスパゲティー」の別バージョンをつくっていけばいいのです。
 何かの成功事例を知ったら、他にアレンジできないか、考える習慣をつけておくといいでしょう。

「組み合わせ」を成功させるには、「携帯電話」のように、組み合わせやすい素材を探すことでしょう。ただし、見つかったとしても手放しで喜べるわけではありません。どんなものでもマッチングが成功するわけではないからです。

・ひげそり

・体温計

・スプーン

こういうアイテムを携帯電話とセットにしたところで、果たしてデジカメほど受け入れられるでしょうか。組み合わせるときには、同じ「本質」のもの同士でなくてはうまくいきません。ですから、ここで発揮しなければならないのは「抽象化する力」です。

「携帯電話」と、デジカメ、テレビ、IC レコーダーが組み合わせやすかったのは、“持ち運びたい情報機器”という共通の本質があったからです。
 そこに、持ち運ぶ必要のないアイテムを持ってきても、うまくマッチングさせることはできません。
 これは「異質なもの同士を組み合わせる」際の、重要なポイントです。

オススメの方法:メモがひらめきを呼ぶ

「材料」がなければ相性の良い組み合わせは見つけられません。そこで、おすすめしたいのが「メモ」をとること。日常生活の中で、面白いものを見つけたら、すかさずメモをとっておくのです。

メモに書いた情報は、繰り返し参照する必要はありません。そのまま放置しておけばいいのです。そうすれば、ワインのように、じっくり脳内で熟成された情報が、やがて偶然によって「組み合わせ」がひらめく瞬間に、記憶の底から浮かび上がってくるのです。

素晴らしい組み合わせを思いつくためにも、どんどんメモをとりましょう。

アップルコンピュータ(現アップル)の創始者スティーブ・ジョブズは、パソコンの世界で数々の伝説を残した人物です。世界で初めて商業的に成功したApple II をはじめ、iPhone、iPad など画期的な商品をいくつも世に送り出しました。

そんな彼が「異質なもの同士を組み合わせ」て、業界を驚かせた例をご紹介しましょう。話は、ジョブズの大学時代にまでさかのぼります。学位を取ることに疑問を持ったジョブズは、たった6カ月で大学を退学することを決意しました。

退学後も授業を受け続けたジョブズ

ところが、それからの行動が変わっています。学校をやめたのなら、普通は「勉強するなんて時間のムダだ。さっさと仕事を見つけよう」と考えるでしょう。ジョブズは違いました。

「卒業のために必須科目を受ける必要はなくなったのだ。だったら、面白そうな授業だけ受けよう」

ジョブズは、自主退学したにもかかわらず、“モグリの学生”として大学に残ります。そして、「カリグラフィ」の授業に興味を持つようになります。カリグラフィとは、専用のペンを使って、アルファベットをさまざまな書体で美しく書く技法で、日本語では「西洋書道」とも言われます。ジョブズは、このカリグラフィが将来何かの役に立つと期待していたわけではありません。単純に、面白いから受講していたのでした。


(画像:『ずるい考え方 〜ゼロから始まるラテラルシンキング入門〜』より)

その後、ジョブズは個人用コンピュータの開発に打ち込みます。そして、Apple と名付けたコンピュータを売るために、1976年、スティーブ・ウォズニアック氏らとともにアップルコンピュータ社を創業しました。

1984年、ジョブズは、現在のコンピュータの原型となるパソコン「マッキントッシュ」をつくることになります。このとき彼が思い出したのが、かつて大学で学んだカリグラフィでした。

「パソコンでいろいろな書体が使えたら楽しいだろうな」

ジョブズは新しいコンピュータにそんな夢を託したのです。

当時、個人が使えるコンピュータで複数の書体が選べるようになったのは、非常に斬新なことでした。古くから存在するフォントと最新のコンピュータ。この通常なら結びつかない組み合わせは、ジョブズが興味本位で授業に出席したことから誕生しました。


カリグラフィの授業で学んだ、文字同士の間隔や書体と書体のコンビネーションに関する知識が、マッキントッシュのフォント開発で生かされたのです。

ジョブズがスタンフォード大学の卒業式で行った、とても有名なスピーチがあります。その中で、彼は次のようなことを言っています。

「未来を見通すことはできない。むしろ過去を振り返って経験から点と点を結びつけ、何らかの形をつくることが重要だ」

過去に経験した事柄は、1つひとつは孤立した「点」かもしれません。しかし、その点が多ければ多いほど、いつか別のものと結びついて新しい「線」になる。そのことを、ジョブズはよくわかっていたのでしょう。

AI時代に求められること

日本で最初に水平思考の必要性が訴えられたのは、電子計算機が一般化した、前の大阪万博の頃です。奇しくも再び万博を控える今日、生成AIが一般化し創造性を求められる分野に影響を与え始めています。

今後、求められるのは、AIが提示する結果にとらわれず、多角的にモノ・コトを捉え直す能力。そう、ずるい考え方です。変革期は不安もありますがチャンスでもあります。ずるい考え方を武器に、明日を切り拓いていきましょう。

(木村 尚義 : 創客営業研究所 代表)