「うすくち龍野醤油資料館」外観

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 兵庫県たつの市のシンボル、龍野城。城下町は、江戸時代から昭和戦前期にかけての伝統的な建造物が良好な状態で保存されていて、風情ある街並みや歴史あふれる景観を楽しむことができます。

 その一角にたたずむのが、国の有形文化財にも指定されている「うすくち龍野醤油資料館」です。1932年に建てられた元ヒガシマル醤油本社社屋を利用し、1979年11月に全国初のしょうゆの資料館として開館しました。

「うすくち龍野醤油資料館」外観

「外観は、龍野城下町でも一際目を引くレンガ造りですが、入ってみると内部は木造建築になっています」。そう教えてくれたのは、館長の長井孝雄さん。昭和初期に多かった建築様式だといい、入ってすぐのガラス窓は、味のある自然なゆがみがおしゃれに感じられ、映えスポットとしても人気なのだそうです。

館内エントランスのガラス窓

 館内には、当時使われていた道具類や文書などが、なんと約2400点以上保管・展示されています。

歴史を辿ることのできる、充実した資料

 なかでも驚くのが仕込み桶の大きさです。仕込み桶とは、しょうゆ造りの際に麹と塩水を混ぜこみ、一年間熟成させて「諸味(もろみ)」を造るための巨大な桶。容量は5400リットルもあり、その中に塩水を3.4トン、大豆を1トン、小麦を1トン、計5トン以上もの材料が収まるのだそう。

 攪拌するときには、職人が桶の上に渡した一枚板の上に乗って作業していたのだとか。3.5メートルほどの高さから、深い桶を満たす大量の諸味をかき混ぜるのはかなり大変な作業です。当時使用されていた道具がそのまま保管されているからこそ、そういったリアルな迫力も感じられます。

巨大な仕込み蔵と仕込み樽 館内に展示

 そんな龍野の地で淡口しょうゆ造りが発展していった理由は、全国的にもまれな“鉄分の少ない軟水”である揖保川の伏流水に恵まれたことが大きい、と長井さんは話します。この良質な水が、色が淡く味の良い、香り高い淡口しょうゆを作るのに欠かせないとのこと。だからこそ、約400年が経った現在もこの龍野の地で製造が続けられているのです。

 趣ある街並みを愛でながら、地域の歴史に触れられる場所でタイムトリップした感覚に浸るのも、龍野城下町での楽しい時間の過ごし方かもしれません。

(取材・文=洲崎春花)