ムーンライダーズ 鈴木慶一

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CSホームドラマチャンネルは【連続企画】「ムーンライダーズ セレクション」と題して、“現存する日本最古のバンド”と称されるムーンライダーズの貴重なライブ映像を、2024年7月より3か月連続で放送する。ラインナップには、豪華アーティストとの競演が楽しめる映画『マニアの受難』や、進化し続けるバンドサウンドをファンに届けた『moonriders LIVE 2022』、そして生涯現役宣言を発表した『Special Live 「カメラ=万年筆」』など、どれも彼らの活動を語る上で欠かせないライブが並ぶ。そこで、バンドのフロントマン・鈴木慶一に当時の思い出をそれぞれ振り返っていただいた。

ーー今回の「ムーンライダーズ セレクション」はバンドとしての《過去》と《現在》が楽しめるラインナップになっています。最初に、この3作品(映画『マニアの受難』、『moonriders LIVE 2022』、『Special Live 「カメラ=万年筆」』)が放送されることへの感想をお聞かせください。

感謝の気持ちでいっぱいです。特に2006年の映画『マニアの受難』は商品として入手が困難になっているそうで。それを多くの方に観ていただけるのは、大変嬉しいことです。本当にありがとうございますという気持ちです(笑)。

映画『マニアの受難』  ©2006 MediaCraft/White Noise Production

ーー『マニアの受難』は2006年に日比谷野外音楽堂で行われた30周年記念ライブの映像を軸に、高橋幸宏さんやPANTAさん、あがた森魚さんなど、多くの関係者やアーティストへのインタビューも交えた、ドキュメンタリータッチの作品になっています。

皆さんのインタビューカットはどれも面白かったですね。特に、レコード会社関係者のコメントは、どれもド真ん中を突いているなと思いました。というのも、当時の我々にはヒットチャートに載るような代表曲がなく、そのため、「ウチでヒット曲を作りましょう」と熱意を持って仰ってくださっていたんです。それは非常にありがたいことではあったのですが、ただ我々としては、どうしてもそのときどきで作りたい音楽をやるというのが優先順位のトップにあり、そこが譲れない部分でもあった。ですから、アイデアをいただいても、右の耳から左の耳へ抜けてくようなことが度々ありまして(笑)。映画の中でレコード会社の方々が語っている、「言うことを聞いてくれない」という言葉は本音だったんだろうなと思いましたね(苦笑)。

映画『マニアの受難』  ©2006 MediaCraft/White Noise Production

ーーこの2006年の30周年を経て、ムーンライダーズは一度、2011年に活動を休止しました。その後、期間限定の復活ライブなどを挟みながら、完全な活動再開の宣言をしたのが、今回放送される2020年のライブ『Special Live 「カメラ=万年筆」』でした(9月放送予定)。

このライブが現在のムーンライダーズの起点になっていますね。2020年の4月頃からメンバーと、「そろそろ(アルバム制作を)やっとかないと、いつまたやれるかわかんないぞ」とメールのやり取りをしまして(笑)。それでひとまず、それぞれでデモ曲を作ることにしたんです。アルバムを作るのも約10年ぶりなわけですし、みんなが今どんな音楽を聴いていて、どんな曲を作るかもわかりませんでしたから。ただ、大量のデモが集まったのはいいけど、次に“はたしてみんなの演奏はどうなのか”という壁にぶち当たった。そこでアイデアとして、ちょうど40年前の1980年にリリースしたアルバム『カメラ=万年筆』の楽曲をフルで再現してみようという話になったんです。でもね、これがきつかった(笑)。

『Special Live 「カメラ=万年筆」』

ーーと言いますと?

『カメラ=万年筆』はニューウェイブ真っ盛りの時期に出したアルバムだから、テンポがものすごく速い。しかも、むちゃくちゃややこしい録音の仕方をしていた。アナログでレコーディングをしながら、一部分だけエコーをかけたり、電気掃除機の音を入れてコーラスの音が吸い込まれるような音を入れてみたり。そんなことばっかりをやっていた時代だったんです。

ーーそうした実験的な音楽作りは、『Special Live 「カメラ=万年筆」』でも見事に再現されていました。

ライブは当時コロナ禍ということもあり、無観客配信ライブという形になりました。また、『幕間』という曲を作ってくださった佐藤奈々子さんが新しい歌詞を書いてきて、その歌詞を詠んでくれた以外は我々6人だけでしたので、まるでスタジオで録音しているかのような雰囲気のライブになりましたね。

『Special Live 「カメラ=万年筆」』

ーーそして2022年3月に『moonriders LIVE 2022』(8月18日放送予定)を開催。会場となった日比谷野外大音楽堂は前述の2006年のライブ以来、16年振りでした。当時のセットリストを振り返っていただけますか?

このセットリストは本当に辛かった(笑)。話の時間を少し戻すと、2020年から始まったアルバム制作では48曲ほどデモが集まったのですが、それをアルバムにするには10曲ぐらいに絞らないといけなくて。でも、我々では選びきれないので、選曲してもらうために、信頼の置ける人たちで構成されたチームを作ったんですね。我々は彼らを「G.H.Q.」(Geek High Qualityの略)と呼んでいるんですが(笑)、その彼らにライブのセットリストの叩き台も作っていただきました。選んだ曲を見ると、ライブ会場が野音ということで、ビル街の野外で演奏することを意識して選んでくれたのかなと思います。

『moonriders LIVE 2022』

ーー『moonriders LIVE 2022』のセットリストで印象に残っている曲はありますか?

選曲した人の意志が強く働いているなと感じたのは1曲目の『いとこ同士』。1996年に20周年ライブを同じ野音で開催し、その時、コンピューターが暴走して、曲が終われなかったという過去があるんです。だから、「今度はちゃんと最後まで演奏してください」という意味も込めて、1曲目に選んできたのではないかと思います(笑)。また、30周年の記念シングルとして作った『ゆうがたフレンド(公園にて)』は、それこそライブでめったに披露していない曲で。リハーサルをしていて、こんないかした曲があったのかと思い出しましたね(笑)。

ーー最後に、放送をご覧になられる方にあらためてメッセージをお願いいたします。

そうですね。2006年から2020年の、そして2022年にいたるまでの経年劣化をご覧ください(笑)。いや、そこは観てもしょうがないか(苦笑)。でも、確実に変化はしていますからね。特に2006年はメンバー全員がステージにいる。これは我々にとってもすごく大きなことです。2022年にアルバム『It's the moooonriders』を出した際も、最初は割と気軽に作り始めたのですが、いざ作業を始めると、2013年に亡くなったドラムのかしぶち哲郎君の喪失感がものすごく湧いてきた。作詞・作曲する人が一人いなくなるというのは、アルバムの中にその人が作ってきたスペースがなくなるわけですから。その意味では、もし次にアルバムを作るとしたら、きっとまた全然違うでしょうね。今度はキーボードの岡田徹君までいないわけですし。こうした状況がいつか訪れるかもしれないなというのは、思ってもみなかったことでした。ずっとこのまま6人なんだろうなと思い続けてきましたから。だからこそ、6人全員がそろっている2006年の野音は我々にとっても非常に特別なものだと言えます。

取材・文:倉田モトキ
撮影(鈴木慶一):宮田浩史

【鈴木慶一 プロフィール】Keiichi Suzuki 1951年8月28日、東京都出身。1972年、「はちみつぱい」を結成。1975年、「はちみつぱい」を母体に「ムーンライダーズ」を結成。個人としては70年代半ばより、アイドルから演歌まで多数の楽曲を提供すると共に、CM、映画、ゲーム音楽を作曲。代表作にゲーム『Mother』シリーズなど。映画音楽では『座頭市』(北野武監督)で日本アカデミー賞最優秀音楽賞。現在は、ケラリーノ・サンドロヴィッチとのユニット「No Lie-Sense」や松尾清憲とのデュオ「鈴木マツヲ」としても活動を行っている。