東山義久

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植木豪が総合演出を務め、東山義久と三浦宏規が出演するENTERTAINMENT DANCE PERFORMANCE『BOLERO ―最終章―』が、2024年7月18日(木)から上演される。世界的に有名で、多くの人たちに愛される芸術性に富んだ壮大な楽曲、“ボレロ”。言葉では表現しきれない魅力が溢れるボレロの世界観を追求する本作では、東山と三浦を始めとした今、注目のダンサーたちが美しきステージを作り上げる。東山に本作への意気込み、そしてダンスの魅力を聞いた。

――『BOLERO』は8年ぶり3回目の公演になります。今回は「最終章」というサブタイトルもついていますが、改めて本作への思いを聞かせてください。

『BOLERO』は僕にとって、『DECADANCE』(2003/上島雪夫 作・構成、演出)や『DANCE SYMPHONY』(2007~2015/西島数博、新上裕也らとともに立ち上げたシリーズ公演)に続き、ダンス公演3作目となる作品で、僕が主体となって作り上げているシリーズです。僕は今でこそさまざまな舞台に出演させていただいていますが、キャリアのスタートはダンサー。この『BOLERO』は今の僕にしかできない表現だと思います。

実は、『DANCE SYMPHONY』には、まだ10代の(三浦)宏規も出ていたんですよ。昨年から今年にかけて、久しぶりにフレンチロックミュージカル『赤と黒』で共演して、彼の成長を間近で見て、ダンサーでありながら芝居やミュージカルに出演するというキャリアを持っているのは、若い年代では彼くらいしかいないと改めて思いました。しかも彼は特級。今、僕ができること、そして宏規ができることをお見せすれば、きっとすごく魅力的なものになると思うので、来たるべくして来たタイミングと作品だなと思っています。

――そうすると、今回は三浦さんと踊るということが企画の最初から念頭にあったのですね。

もともとは、僕はピン(ひとり)が多かったんですが、今回、プロデューサーさんと話をする中で、宏規とできるならやろうという話が出ました。僕自身も、「今の宏規とやりたい」という思いがあって決まりました。

――10代の頃から三浦さんをご覧になっていて、今、どんなところに彼の成長や変化を感じますか?

僕は彼がダンサーとしてキャリアを積んでいる頃しか知らず、この7、8年は会っていなかったんですよ。なので、『赤と黒』で歌とお芝居をしている姿、そして踊っている姿を観て、これほど成長したんだと頼もしくもなり、年甲斐もなく嫉妬のような思いも芽生えました(笑)。彼がどう思っているのかは分かりませんが、今の僕は彼が知っている10年前の僕とは違うし、彼も僕が知っている10年前とは違うことを観させてもらったので、どんな作品が出来上がるのか、すごく楽しみです。

今回は、宏規と二人で踊るシーンもありますし、僕が率いて踊るシーンも、彼が率いて踊るシーンもあります。「あの宏規が」という兄貴心もありますが、今回はライバルとして僕が出ていないシーンでは彼が魅せて欲しいですし、彼が出ていないシーンでは僕が魅せる。そうやって任せられることが嬉しいですし、悔しくもあり、負けないぞという思いもあります。

『BOLERO-最終章-』メインビジュアル

――本作は麗しき青年と少年の出会いと哀切なる別れを描くという物語だと聞いています。

まだストーリーは考えあぐねているところですが、この原案は、ソウルメイトとして長きに渡って一緒に戦ってきたプロデューサーからの提案です。ただ、ダンス公演なので、歌もお芝居もないんですよ。お客さんにどう観ていただくかだと思います。ひとつのストーリーはありますが、それはあくまでも景色であって、お客さんがご覧いただいてそれぞれに感じてくださったらいいなと思います。美しい場面の連続を作ろうと思っています。

――唯一の女性キャストとして蘭乃はなさんも出演されます。蘭乃さんの魅力についてもお聞かせください。

先日、このポスター撮影で久しぶりに会ったら、すごく大人になっていました。天真爛漫な方で、僕にとっては妹のような存在です。例えば、飛び込んでくるような振付があったら、普通は多少なりとも気を遣うものだと思いますが、彼女は本気で飛び込んでくるんですよ(笑)。そういう勢いがある人です。それから、ものすごくエンターテイナーでもあります。稽古場では自分が出ていないシーンでも踊るんですよ。練習の場からずっと自分の世界を作り上げていて、それがすごく素敵な方です。今回、紅一点ですが、蘭ちゃんには今回のメンバーは合っていると思います。

――総合演出を植木さん、総合振付を大村さんと、今ご活躍されているクリエイティブの方々が揃っているのも魅力です。

(植木)豪とは2008年の舞台『ALTAR BOYZ』で初めて会って以来の盟友です。彼は今、演出家としてさまざまなところで活躍していますが、出会った当時は、PaniCrewのメンバーとしても、プレイヤーとしても活動されていた時期でした。彼はブレイクダンスの名手なので、僕とは全く違う立場のダンスをするんですよ。なので、僕と一緒にデュエットする時も、「俺は大地のダンスをするから、おまえは天空のダンスをしてくれ」と。そうして作品を作ってきた彼に、この『BOLERO』に携わってもらえるというのは、本当に楽しみで嬉しいです。ある意味、お互いにすごく緊張すると思います(笑)。

――昔から知っているからこそ、東山さんの良さが引き立つ演出になるのではと期待が高まります。

そうですね。彼はそもそも、役者を引き立たせるための風景、画角を作る天才だと思います。どういうふうに、誰を配置して、どんな映像と光を当てるのかを考える演出家なんですよ。それは、いわゆるストレートプレイやミュージカルの演出家とはまた一線を画している、新しいジャンルだと僕は感じています。そういう意味でも、『BOLERO』はぴったりだと思います。今回は彼とは違うダンスジャンルのメンバーを集めたので、彼がどういう画角に僕らを入れるのか、お互いの挑戦になるのではないかなと思います。

――総合振付の大村俊介(SHUN)さんについてはいかがですか。

SHUNくんは、振付の天才です。DIAMOND☆DOGS(※東山がリーダーを務めているエンターテイメントグループ)のメンバーでもありましたが、音楽が好きだし、リズムが好き。もちろん、ダンスを踊っている人も好きだし、舞台も好き。最初に出会ったときから、「この人は天才だな」と思っていたので、今の活躍もなるべくしてなっていると思います。日本を代表するコレオグラファーの一人だと思います。

――楽曲についても教えてください。これまでの『BOLERO』ではオリジナル楽曲が使われていましたが、今回はいかがですか。

今回も全曲オリジナルです。今回は、la malinconicaさんにお願いして、ラテンからタンゴ、クラシカルなものまで、かなり幅広いものになっています。毎回、最後はラヴェルの『Bolero』をアレンジした楽曲と決めていますが、それ以外はかなりバラエティに富んだ楽曲を生演奏でお届けできると思います。それから、オープニングで使われるオリジナル楽曲の『BOLERO』も毎回作っているのですが、それもすごくいいものが上がってきています。シンプルな振付になっているので、とても楽しみです。

僕は、ダンス公演ではストーリーがあって、音楽に合ったコレオグラフ(振付)をする方が良いと思っているんですよ。「ただ回る、ただ飛ぶ」を続けているだけでは、お客さんが飽きてしまいます。回るべくして回って、飛ぶべくして飛んだほうがいい。役を持ってその表現として飛んだり、回る。それをコレオグラフして、リハでテクニックを使って作り上げていく。そして、一番大事なのは、その役を通した、音楽を通した表現だと僕は思います。今回はまさに音楽を通した表現をしていきたいと思っています。

――なるほど。今のお話にも通じると思いますが、セリフがないダンス公演だからこその難しさ、魅力についてはどのように考えていますか? 

セリフがあったらすぐにその感情は伝わりますよね。ですが、ダンスの場合は身体を使って感情を表現しなくてはいけない。だからこそ、面白いですし、怖い。自由に幾通りにも捉えられるという楽しみ方もありますが、僕たちはなるべく多くのお客さんに自分が思う感情を伝えなくてはいけない。それがダンサーのテクニックだと思います。ただ、それができるのは、照明や音楽があってこそなんですよ。パフォーマンスが身体的にすばらしい、きれいであるということはもちろんのこと、そこに照明とのコラボレーションがあって、音楽があって成立する。ダンスは総合芸術だと感じています。

――では最後に、『BOLERO』という言葉から東山さんがイメージするものは何ですか?

そもそも『BOLERO』という公演タイトルは僕の思い入れからつけたものです。僕は22歳からダンスを始めたのですが、その時、シルヴィ・ギエム、坂東玉三郎さんとヨーヨー・マさんのコラボレーション、ジョルジュ・ドンという、3本のDVDとVHSが僕のバイブルとなっていて、擦り切れるほど観ていました。当時はマイケル・ジャクソンが世界的に人気だった頃。一方で僕は、坂東玉三郎さんの静の美に感動したり、『Bolero』のジョルジュ・ドンの赤い血潮が舞う“生命の賛歌”を感じる踊りの素晴らしさ、シルヴィ・ギエムのダンサーとしての美しさに魅入っていて、それが僕の初期の原動力となっていました。

その後、『DECADANCE』の公演などを経て、自分が主体となってやりたいことをやるとなった時にダンサーとして提案をしたいと思ったのがこの『BOLERO』という企画です。おこがましいですが、全員がジョルジュ・ドンのような気持ちで挑みたいと思っています。ダンス公演というと発表会のようなものはたくさんあっても、きちんと知名度を持って、お客さんに観たいと思っていただける公演はあまりないと僕は思います。今回は、僕と宏規、そして出演してくださるメンバーでダンスの可能性を引っ張っていきたい。歌わなくてもお芝居をしなくても1時間半、お客さんに「素晴らしかった」「ダンスって素敵だな」と思っていただけるようなものをお見せしたいと思います。

取材・文=嶋田真己 撮影=中田智章