「失敗は成功のもと」はウソ、失敗した人が成功をつかむ確率は人が信じているよりずっと低い
「失敗は成功のもと」とよく言われるように、失敗が成功の足がかりになるという考えは広く支持されています。しかし、アメリカ心理学会で発表された新しい研究により、失敗を経験することのメリットが過大評価されていることがわかりました。
The exaggerated benefits of failure.
https://psycnet.apa.org/doiLanding?doi=10.1037%2Fxge0001610
https://scitechdaily.com/the-big-lie-about-failure-and-success-everyone-believes/
◆「失敗は成功のもと」の虚実
これまでの研究では、人間には肯定的な情報より否定的な情報の方に強く反応する「否定性バイアス」や、利益を得ることより失敗を回避することの方を重視する「損失回避」という性質があることが明らかになっています。一方、広く信じられている「失敗は成功のもと」という楽観的な信念は、失敗を重く見る傾向とは逆に見えます。
この矛盾について検証するため、アメリカ・ノースウェスタン大学のローレン・エスクライス=ウィンクラー助教授らの研究チームは、オンラインで募集した1800人以上の参加者を対象に、テーマの異なる11の実験を行いました。
例えば、ある実験では司法試験や教員免許など、専門職の認定試験に落ちた専門家の卵が再試験に合格する確率を予測してもらいました。また別の実験では、質問を変えて高卒認定試験(GED)に落ちた学生が再試験でまた不合格になる確率を予測してもらいました。
この実験の結果、多くの人は失敗した人が再チャレンジで成功をつかむ確率を過大評価する一方で、失敗を重ねる可能性は過小評価することが確かめられました。
例えば、司法試験の再試験に合格する弁護士志望者の割合は35%しかありませんが、参加者らは平均57.95%と予測していたとのこと。同様に、GEDに落ちた学生が不合格になる実際の確率は40%ですが、参加者らは26.61%だと予測しました。
エスクライス=ウィンクラー氏は、「多くの人は、失敗の後に成功が待っていると期待しています。一般的に、人は過去が未来を左右すると考えているので、失敗が成功につながるという点でまったく逆のことが信じられているのは意外でした」とコメントしました。
◆なぜ人は失敗を過小評価するのか?
このような結果になるのは、人が無意識に「失敗した人は過ちから学ぶはずだ」と思い込んでいるからではないかと考えられています。例えば、看護師の参加者を対象に行ったある実験では、参加者を回答者グループと予測者グループにわけて、回答者グループにはアメリカの医療制度が直面している問題に関する2択クイズを受けさせました。そして、予測者グループの参加者に、最初のクイズを間違えた回答者グループの人が次のクイズに正答する確率を予測してもらいました。
この実験では、予測者グループの看護師は同僚が失敗から学び、86.05%の確率で2度目のクイズに正答するだろうと考えました。しかし、最初のクイズで不正解だった看護師が次のクイズに正答する確率は46.34%しかありませんでした。つまり、1度ミスを犯した人の半分以上はミスを繰り返しました。
「人々はあるべき姿と実態を混同しがちです。人は失敗に注意を払い、そこから学ぶべきですが、失敗はやる気をなくし自尊心を傷つけるので、そうしないことが多いのです。失敗したら次は成功だというのは励ましになるかもしれませんが、そのような考えは現実世界では有害な結果をもたらす可能性があります」とエスクライス=ウィンクラー氏は話しました。
◆理想と現実の差を目の当たりにした人の反応
現実を知ることは、人々の行動を変えるかもしれません。薬物依存症の元患者や、刑務所に入っていた元受刑者を対象とした支援事業の是非を尋ねた実験では、参加者は実情を聞かされた後に支援事業への支持を強めました。
例えば、オピオイド依存症をテーマにした実験では、参加者は「オピオイド依存症のリハビリ事業にもっと税金を投入するよう求める嘆願書にサインする確率」を平均49.04%と回答しました。
その後、参加者は「オピオイド依存症から立ち直った人が1年後もその状態を保っている確率はたった9%」だと聞かされました。つまり、公的な支援が終わった後の元依存症患者が1年以上自立できる確率は1割もなく、ほとんどの人はまた薬に手を出してしまっていることになります。
このことを知らされた結果、参加者が前述の嘆願書にサインする確率は58%に上昇しました。
エスクライス=ウィンクラー氏は、「失敗から得られるメリットはほとんどないと知らされると、人は考えを改めるかもしれません。2つの実験により、『元受刑者の更生プログラムや薬物依存症の治療プログラムを利用した人が立ち直れる確率は低い』と知らされた人は、もっと支援事業の予算を増やすべきだという意見に賛成するようになりました。このように、失敗についての誤った考えを正すことで、納税者のお金を処罰から更生や矯正や振り向けられるようになるのではないでしょうか」と話しました。