「認知症」の初期症状はご存じですか? 原因や受診の目安も医師が解説!

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「親の物忘れが目立つようになった」「もしかして認知症かもしれない」と不安を感じる人もいるのではないでしょうか。高齢化が進む現在、認知症の患者数が増加しており、症状を重症化させないためには早期発見・早期介入が必要です。一体、どのような症状がみられたら受診すべきなのかについて、「船堀ふじたメンタルクリニック」の藤田先生に詳しく教えていただきました。

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監修医師:
藤田 雅也(船堀ふじたメンタルクリニック)

藤田保健衛生大学(現・藤田医科大学)医学部卒業。順天堂大学大学院医学研究科修了。北里大学病院助教、桜ヶ丘記念病院助教、長谷川病院教育研修部長などを務める。2021年、東京都江戸川区に「船堀ふじたメンタルクリニック」を開院。医学博士。日本精神神経学会、日本うつ病学会、日本老年精神医学会、日本臨床精神神経薬理学会、日本産業精神保健学会の各会員。

認知症の初期症状

編集部

認知症になると、どのような症状が表れるのですか?

藤田先生

そもそも、認知症は「アルツハイマー型認知症」や「レビー小体型認知症」など、いくつかのタイプがあり、それぞれによって出現する症状は異なります。例えば、「同じことを何度も話す」「ものの置き忘れが増える」「探し物が増える」といったことは、アルツハイマー型認知症の典型的な初期症状です。

編集部

アルツハイマー型認知症について、もう少し詳しく教えてください。

藤田先生

アルツハイマー型認知症は、日本で発症する認知症のなかで最も多いタイプで、脳の神経細胞が減少するなど、脳の生理的な老化が原因で発症するとされています。この場合は、物忘れがひどくなることから始まり、「新しいことを記憶できない」「体験そのものを忘れてしまう」といった症状があります。

編集部

加齢に伴う物忘れとは違うのですか?

藤田先生

たしかに間違われやすいのですが、加齢に伴う物忘れの場合は「朝食に何を食べたか思い出せない」といったように、体験したことの一部を忘れるという特徴があります。しかし、アルツハイマー型認知症の場合には、「朝ごはんを食べたこと自体を忘れる」ような、体験そのものを忘れる特徴があります。

編集部

両者では忘れる対象が違うのですね。

藤田先生

加齢に伴う物忘れは物忘れの自覚があり、日常生活への支障はあまりありません。しかし一方で、アルツハイマー型認知症の場合には物忘れの自覚がなく、日常生活への支障が生じ、さらに症状が進行していくという違いもあります。

編集部

物忘れだけでは、認知症とは診断できないのですね。

藤田先生

そのとおりです。アルツハイマー型認知症は物忘れから始まることが多いとされますが、そのほかにも「音として聞こえても話を理解できない(失語)」「目に見えたものを形として把握できない(失認)」「今までできていた行動ができなくなる(失行)」といった症状がみられることもあります。

アルツハイマー型認知症以外の認知症では、どのような症状がみられるのか?

編集部

そのほかのタイプの認知症では、どのような症状がみられるのですか?

藤田先生

アルツハイマー型認知症の次に多いのは、「血管性認知症」です。脳梗塞や脳出血などの脳血管障害によって引き起こされる認知症で、アルツハイマー型認知症と同様の症状を示します。突然、症状が表れたり急に悪化したりと、症状の出現が激しいという特徴があります。さらに、歩行障害、手足の麻痺、抑うつなどの症状がみられることがあります。

編集部

そのほかは?

藤田先生

レビー小体型認知症は、脳に「αシヌクレイン」というタンパク質がたまることで発症すると考えられています。「実際には見えないはずのものが見える(幻視)」といった症状が出たり、転びやすくなったり歩きにくくなったりするなど、パーキンソン様症状が起きることもあります。また、前頭側頭型認知症は「信号無視や万引きを繰り返す」「失礼な発言をする」「暴力的になる」など、人格や行動が社会性を失うという特徴があります。

編集部

それぞれのタイプによって症状が異なるのですね。

藤田先生

タイプによって発症する年代も異なりますし、進行のスピードも違います。しかし、ひとたび発症すると完治させることは難しく、治療は「症状の進行をいかにして遅らせるか」ということに焦点が当てられます。そのため、「認知症かもしれない」と思ったら、早めに受診することが大切です。

編集部

最近では新しい治療薬も保険適用になりましたよね。

藤田先生

はい。2023年12月から日本の製薬会社エーザイとアメリカのバイオジェンが共同開発した「レカネマブ」が保険適用となり、患者への使用が始まっています。ただし、アルツハイマー型認知症に対する治療薬です。それ以外の認知症患者やアルツハイマー型認知症の患者でも進行している場合には、適応外となることもあります。認知症の治療薬はほかにもあり、認知症のタイプを正確に見極めてから、患者に適した薬剤を選択していきます。

認知症の受診の目安は?

編集部

どのような症状がみられたら、受診すればいいのでしょうか?

藤田先生

例えば、「物忘れがどんどんひどくなる」「迷子になることが増えた」「落ち込んだり、イライラしたりすることが増えた」など、以前と異なる変化がみられる場合には早めに受診することをおすすめします。認知症の症状はゆっくり進行することが多いとはいえ、受診を先延ばしにすると「徘徊して行方不明になってしまった」「交通事故に遭った」などのトラブルになることも考えられます。

編集部

早く治療を開始した方が、治療効果も高いのですか?

藤田先生

治療効果も高くなりますし、認知症を引き起こしている病気によっては治療可能なものもあるので、認知症の症状そのものを治せる場合もあります。例えば、甲状腺機能低下症は認知症の症状を引き起こす疾患で、適切に治療することで症状を軽減できます。そのほか、老年期のうつ病やせん妄などの心の病気も認知症と間違われやすいため、それらと鑑別するためにも早めに受診することをおすすめします。

編集部

何科を受診すればいいのですか?

藤田先生

まずは、かかりつけの医師に相談してみましょう。また、「物忘れ外来」を設置している医療機関もあるので、利用してみるのもおすすめです。あとは、精神科や脳神経内科・脳神経外科を標榜している医療機関でも、認知症の治療がおこなわれています。

編集部

早めの受診が肝心とはいえ、高齢の家族に受診を促すのが難しい場合もあると思います。

藤田先生

そうですね。認知症の自覚がない人を病院へ連れて行くのは案外難しいものです。その場合、かかりつけ医に相談したり、訪問診療をお願いしたりするといいかもしれません。また、いきなり受診を促すと抵抗されることもあるため、はじめは「健康診断を受診してみたら?」と提案するのもいいと思います。あとは地域包括支援センターや保健所でもそうした相談に乗ってくれるので、訪ねてみてはいかがでしょうか。

編集部

とにかく、まずは早めに受診することが大事ですね。

藤田先生

特に気をつけたいのは、うつ病と認知症が併発している場合です。老年期になると環境の変化や加齢による体の衰えなどが原因となり、うつ病を発症する人が多いのです。一方、認知症でもうつ症状を示すことがありますから、「うつ病かと思ったら、実は認知症が進んでいた」ということも少なくありません。

編集部

うつと認知症を併発している場合はどうするのですか?

藤田先生

うつ病の治療を適切におこなうことで、症状の軽減が期待できます。まずは医療機関を受診し、必要な検査をおこなって、認知症の有無を調べること、そして症状の原因となっている疾患がわかったら、適切な治療を開始することが大切です。早めに治療を開始すれば症状の進行を緩やかにすることもできますから、困ったことがあれば早めに医師へご相談ください。

編集部

最後に、読者へのメッセージをお願いします。

藤田先生

認知症というとネガティブなイメージがありますが、その一方で「認知症になると死に対する恐怖を忘れられる」「物忘れがあることで毎日新しい体験の連続になり、新鮮な気持ちになれる」というポジティブな考え方もあります。そうしたことを覚えておくと、認知症に対する悪印象が和らぎ、認知症を患った人に接する際も、少し優しい気持ちになれるのではないでしょうか。認知症の人と接するときに大切なのは、相手の尊厳を尊重することです。物忘れを繰り返す人に対し、どうしても怒ってしまう人も多いと思いますが、怒ると余計に症状が悪化します。「患者にどう対応するべきか」ということも、メンタルクリニックなどで医師に相談できますから、ぜひ困ったことがあったら気軽に受診してみてください。

編集部まとめ

現在、日本では認知症の患者数が増加しており、決して他人事ではありません。身の回りの人が認知症かもしれないと思ったら、躊躇わずにできるだけ早く専門医に相談を。同時に認知症の発症リスクになる糖尿病や高血圧などに気をつけ、予防を心がけることも大切です。

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