九州、中国四国を中心に展開するファミレスのジョイフル。一時は債務超過に陥りそうになった同社が正社員の独立を促進するワケとは(写真:アフロ)

コロナが5類移行して1年以上が経った今、大きなダメージを受けていた外食業界も大半の業態で売り上げがコロナ前を上回るように回復してきた。しかし、息つく間もなく、原材料の高騰、エネルギー価格の上昇、人手不足という環境変化が押し寄せ、コロナ禍で疲弊した外食業界にさらなる変革を迫っている。

外食企業を悩ます「FLR比率」の上昇

こうしたコスト上昇は、外食の収益構造に大きく影響を与える。FLR比率(F:原材料費<Food>、L:人件費<Labor>、R:地代家賃<Rent>の売上高に占める割合)の上昇に直結しているからである。

外食ではこのFLR比率を抑えることが収益確保につながるが、一般的な目安としてF:3割、L:3割、R:1割、残りの費用を2割に抑えると1割の利益が出る(業態によってかなり違いはあるが)と言われており、近時の価格上昇が減益要因に直結していることがわかるだろう。

だが、安い材料に替えるとなれば、品質に影響する恐れがある。材料品質を保ちながら、仕入価格を抑えるためには、調達構造を変えなければならない。人件費を上げていかなければ、スタッフの確保が難しくなるため、オペレーションを効率化、省人化していくしかない。

最近は各社ともにタッチパネル注文、QR注文、セルフレジなどのDX化を急速に進めてはいるが、これも限界があり、相応の価格転嫁を実施していかねば採算が合わなくなっている。

「売上高=客数×客単価」という前提で考えれば、値上げ(単価上昇)をすれば、客数が減るという恐れがあり、「値上げ後単価×減少後の客数」がプラス以上に維持できる水準を探りながら実験していくしかない。コロナで財務基盤を毀損している企業も多い中、経営のかじ取りはかなり難しくなっている、と言わざるをえない。

特に人手不足、人件費の上昇については、インフレ環境に転換したことを前提とするならば、一過性ではなく、継続的な課題として取り組まねばならない。いわゆる労働力人口が減少していくため、人手不足は解消することはなく、異業種を含めた相対的な比較の中で待遇改善を図っていかねば、必要人員が確保できなくなる。

賃上げによる「兵糧攻め」を図る大手

最近、新聞紙上でもコロナ後の賃上げ率のランキングを発表していたが、全産業中のトップが外食最大手ゼンショーであった。こうした局面は、収益力のある大手にとっては、賃上げは他社から人材を奪うための積極的な競争要因ともなり、大手はその規模の利益を最大限活用して賃上げ競争に持ち込み、「兵糧攻め」するという選択肢がある。

中堅中小外食にとっては、人手の確保をできないことは死活問題ともなりうるのだが、賃上げ競争という同じ土俵に上がるだけでは勝算が乏しいであろう。

一般的に、外食チェーンは、チェーンストア理論に基づき、店舗の標準化、オペレーションのマニュアル化、物流の効率化、といったインフラを構築して、同質の店舗を増やしていくことで収益を上げる、という作りになっている。

この仕組みにおいては、店舗スタッフは決められた作業手順を粛々とこなす労働力として位置づけられており、パート・アルバイトで人件費を抑えた運営をすることを想定している。これはチェーンストアがスピーディーに店舗数を増やして成長していくための仕組みであり、また、安い労働力を提供してくれる人が数多くいることが前提でもあっただろう。

しかし、人手不足という環境下で高い賃金を求めて労働側が選択するという状態になれば、こうした仕組みは成り立たなくなってくる。賃金水準に加えて、やりがいやキャリアアップの展望が見えない組織では、人は定着してくれない。

昔から飲食の世界は労働環境がキツいことで知られているが、それでもいつか独立して自分の店を持つ希望があった。だが、そうした展望がなければ、長い間働いてもらえるはずがない。

売り手市場の下で、外食チェーンが優秀な人材を長く確保するためには、キャリアアップを支援する仕組みや、独立を応援する仕組みを持つことが重要になってきたのである。

ジョイフルでは総店舗の16%がFC転換

ファミレス業界大手の一角、ジョイフルが、国内直営店の経営をベテラン店長経験者に託す、社員独立フランチャイズチェーン(FC)を本格始動させた。この制度によるFC店は2024年1月で97店舗になったといい、同時点のジョイフルの総店舗611店の約16%が一気にFC転換したという。

会社経験とやる気のある人に任せるほうが、営業力が高まる、という判断であり、最大3店舗まで運営できる制度になっているらしい。なぜ、こうした制度を導入するにいたったのだろうか。

ジョイフルは、九州、中四国中心の店舗展開であるため、それ以外の地域の方にはあまり馴染みがないかもしれないが、すかいらーく、ロイヤルホスト、サイゼリヤに次ぐ4番手のファミレス企業である。


コロナ期に140店の閉店を余儀なくされ、それでも従業員の雇用を維持したため、大幅な損失を計上し、一時、債務超過寸前まで追い込まれた時期があった。


その後、助成金などに支えられつつ、黒字化を実現、2024年6月期決算見込みでは、売上高626億円、経常利益33億円(利益率5.2%)にまで回復する見込みである。

コロナを機に不採算店舗はすでに閉店済みであり、今後は採算の取れる店を、FCオーナーの独立経営に任せるほうが、結果として本部も加盟店も共に利益が拡大すると判断したようだ。


熟練社員がFCを運営することのメリット

FCというと、過去の外食業界においても、本部と加盟店の利害が対立して争議に発展した事例も少なくないが、それは社員独立型ではなく、店舗数を増やすために外部からオーナーを募って新規店舗を出店するケースに起きている。

かつて、焼肉チェーン牛角は成長を加速するため、FC募集を外部コンサルに委託して店舗数の急拡大を図った。ところが、委託先コンサルが自らの収益追求に走ったことで過剰出店に陥り、加盟店との争議が多発して、牛角自体も経営が揺らぎ、MBOにより非上場化、再生ファンドの傘下になった、という事例もある。

このように外部参加者による新規出店というFCは、いわば信頼関係の構築もないまま、見込みで新規出店するため、失敗する店舗が続出するリスクが高い。しかし、すでに直営での実績がある店を、熟練社員の判断で運営する場合は、マーケティングの精度も、本部との連携、信頼も格段に高く、失敗する確率がかなり低くなる。

実際、カレーチェーン最大手のCOCO壱番屋は国内店舗数1200店のうち、1093店舗(2024年2月期実績)がFC加盟店により運営されているが、そのほとんどが独立した社員によって経営されており、その10年継続率は91%であることを開示している。

ほかにも、餃子の王将は732店中190店がFCであるが、この過半が社員独立FCである。鳥貴族もコロナの最中に社員独立専用のFC業態大倉家をスタートさせた。

こうした事例を見れば、社員の独立支援制度を持っている外食企業が各業態のトップ企業であり、社員のキャリアアップ支援を会社方針としている企業が、組織のモチベーションを維持できることを実証している。

賃上げだけが解決策ではない

これからの外食チェーンは、新店開発を本部が行い、一定期間のマーケティング実証をして持続可能な店舗を貢献度の高い社員に渡していく企業が増えるはずだ。

なぜなら、従業員を労働力として扱うのではなく、パートナーとして育て、共存共栄していくという体制を持たない企業に、人は集まらないからである。そして、これは正社員に限ったことではなく、パート・アルバイトから正社員をスカウトしていくうえでも有効であることは間違いない。

人手不足という課題を外食産業の現状を踏まえてみてきたが、この問題、国内の労働集約的産業に共通の問題であることは言うまでもない。解決策は、生産性向上や賃上げといった話として議論されていることが多いように思うのだが、本質的には従業員個人としてのキャリアアップをサポートする気があるか否か、が最も重要なのではないか。

人材確保に賃金水準が最も大事なことは間違いないが、必要条件であって十分ではないだろう。人はパンのみにて生きるにあらず!なのである。

(中井 彰人 : 流通アナリスト)