伊藤沙莉、大島優子…ドラマ界を席巻する「元子役」たちが原石時代に見せていた“大物の片鱗”
芦田愛菜
「いまの連続ドラマは、元子役なしでは成り立ちませんよ」と話すのはコラムニストの桧山珠美氏だ。
4月スタートの連ドラでは、元子役の活躍が目覚ましい。連続テレビ小説『虎に翼』(NHK)主演の伊藤沙莉(30)、『アンメット ある脳外科医の日記』(関西テレビ系)の杉咲花(26)と若葉竜也(35)、『季節のない街』(テレビ東京系)の池松壮亮(33)、仲野太賀(31)ら、今期ドラマでメインを張るのは、元子役たちばかりだ。
「第一線で活躍している子役出身者たちはほんのひと握りですが、残っているだけですごいこと。長年、いろいろな役を経験してきたからこそ、純粋に芝居が上手いと感じます。出演していると、ドラマに厚みが出るんです」(桧山氏)
若き“ベテラン女優”らの原石時代を追うと、いくつもの“大物の片鱗”が見えてきた。
伊藤沙莉が注目を集めたのは『女王の教室』(2005年、日本テレビ系)で、同級生役の志田未来(31)をいじめる、いじめっ子役だった。ドラマを手がけた日テレの関係者によると「オーディションで、明らかにほかの参加者とは異質の装いだった」という。
「まだ子どもなのにハスキーボイスで、ユニークな存在でした。印象に残っているのは、待ち時間にスタジオの廊下や踊り場で、ひとりでダンスをしていたことです。本人に聞くと、慣れない環境だったからか『寂しさを紛らわすため』と答えていました。当時は無名でしたが、撮影中にメキメキ実力を発揮し、主演の天海祐希さんとスタッフも伊藤さんに注目し始めました。本来は、伊藤さんの役はそこまで重要ではなかったのが、自然と出番が増えていきました」
杉咲花は、2007年に本仮屋ユイカの幼少時代を演じて映画デビュー。4年後「味の素Cook Do」のCMで、回鍋肉などを一心不乱に貪る姿が話題になり、ブレイクした。CMに携わった、大手広告代理店関係者はこう話す。
「見た目は華奢なのに大食い、というギャップが狙えると、彼女を選びましたが、みごとにハマりました。父親役の山口智充さんも『この子はスターになるよ』とおっしゃっていましたね。杉咲さんはこれ以降、13年にわたって味の素のCMに出演し続けています。浮き沈みの激しい芸能界で、これだけひとつのクライアントに出続けるのは、若手女優では珍しい」
7月放送開始の連ドラでも、元子役の快進撃は止まらない。『マル秘の密子さん』(日本テレビ系)では福原遥(25)が、『ギークス〜警察署の変人たち〜』(フジテレビ系)では松岡茉優(29)が主演を務める。福原といえば『クッキンアイドル アイ! マイ! まいん!』(2009〜2013年、NHK)のまいんちゃんでブレイク。当時のNHK番組ディレクターは、福原の隠れた努力が印象的だったという。
「主人公のまいんちゃんは右利きという設定だったんですが、福原さんは左利き。彼女には『視聴者が共感しやすいように』と誠心誠意、伝えて、右手で箸や包丁を持ってもらいました。最初は本当に苦戦して、泣きそうになっていましたが、楽屋でお弁当を食べるときに右手で箸を持っていて、幼いのに見上げたプロ根性を感じました」
演技力の評価が高い松岡茉優は、不遇の時代が長かった。
「芸能界入りのきっかけは、妹の松岡日菜さんが3歳のときにスカウトされて、面接についていったら『お姉ちゃんもやってみる?』と誘われたことだそうです。すぐに売れっ子になった妹とは対照的に、仕事がなかなか入らず、あせった時期もあったとか。13歳で『おはスタ』(テレビ東京系)のおはガールになり、NHKの連続テレビ小説『あまちゃん』でブレイク後の活躍は、言うまでもありません。伊藤沙莉さんしかり、苦労人の子役はその間に力を蓄え、大化けするのではないでしょうか」(桧山氏)
2021年に結婚した大島優子(35)と林遣都(33)は “元子役夫婦” だ。『アンチヒーロー』(TBS系)にも出演した大島は、AKB48加入以前にデビュー。林は中学生で芸能界入りしている。
夫婦ではないが“子役の名コンビ”といえば、芦田愛菜(19)と鈴木福(20)だろう。
「芦田さんはネグレクトを受ける少女を演じた『Mother』(2010年、日本テレビ系)がヒット作。彼女の泣くシーンに視聴者もつられ、涙して、一躍有名になりました。『マルモのおきて』(2011年、フジテレビ系)では鈴木福くんと双子の役を演じ、ふたりでドラマの主題歌を歌って『NHK紅白歌合戦』にも出演しました。芦田さんが6歳のときに出演した『徹子の部屋』(テレビ朝日系)では、黒柳徹子さんとお店屋さんごっこをしたんです。店員役の芦田さんが『ポイントカードはお持ちですか?』と言って、その優秀さに徹子さんもびっくりしていました(笑)」(同前)
上白石萌音(26)、萌歌(24)、浜辺美波(23)の芸能界入りは、同じ年の「東宝シンデレラ」オーディション出身だった。
「2011年の『東宝シンデレラ』オーディションは、グランプリが萌歌さん、審査員特別賞が萌音さん、ニュージェネレーション賞を浜辺さんが受賞した “神回” 。中継を見ていましたが、3人とも本当に小さくて、かわいかった。浜辺さんはアイドル的な人気が出ましたが、朝ドラの『らんまん』(2023年、NHK)では、きっぷのいい奥さんを上手に演じていて、一気に成長したと思います」(同前)
デビュー当時、民放のドラマプロデューサーは、浜辺の執念深さを見ていた。
「いまでは仲よしとのことですが、『東宝シンデレラ』のあと、浜辺さんは、グランプリを獲得した萌歌さんをライバル視していましたよ。“主役”の座を奪われたのがよほど悔しかったのか、『萌歌ちゃんは一生、超えられない』とたびたび語っていました」
上白石姉妹の仲のよさは有名だが、大手広告代理店のキャスティング担当者は、姉の萌音のこんな素顔を明かす。
「萌音さんは『いつも萌歌ばっかり』が口癖(笑)。『東宝シンデレラ』のグランプリも、大学卒業も、萌歌さんが先。『芸能界では妹が先輩でライバルなんです』と言っていますが、ことあるごとに自分を差し置いて『妹をよろしくお願いします』と関係者に頭を下げています。しっかり者のお姉ちゃんなんです」
池松壮亮は、先に芸能活動をしていた姉に「野球カードを買ってあげるから」と言われ、しぶしぶついて行ったのが劇団四季のオーディションだったという。芸能界入り後の彼の“大物伝説”を話すのは、大手広告代理店キャスティング担当者だ。
「子役時代の池松壮亮といえば、映画『ラスト サムライ』のトム・クルーズ演じる主人公と心を通わせる少年役が有名。でも『あまり映画を観ていなかったので、トム・クルーズを知らなかったんです』と、あとになってあっけらかんと話していました(笑)」
『アンメット』で注目された若葉竜也は、大衆演劇一家で育ち「チビ玉三兄弟」の三男として知られる。
「ワイルド系の俳優を待っていた人は、『アンメット』を見て『見つけたぞ』 と思ったのでは。いまは30代前半の俳優がしのぎを削って、いい関係ができています。2026年の大河ドラマ主演が決まった仲野太賀さんも、ここ数年ですごく注目されるようになりました」(桧山氏)
父親、中野英雄の息子・太賀への溺愛ぶりを話すのは、多くのヒット作を手がける映画プロデューサーだ。
「太賀くんがドラマに出ると『仲野太賀が出ます!』と、お父さんが必ず連絡をしてきます(笑)。僕が手がけた映画『バッテリー』のオーディションを太賀くんが受けに来たとき、英雄ちゃんから連絡がきたんですよ。『よろしく』と言うのかと思いきや『ぜったいに俺(父親)のことは話すなと伝えてあるから、いいと思ったらでけっこうです』と。当時、演技は素人だったけど、大声で何度も『よろしくお願いします!』と頭を下げる、2世らしからぬ姿に、将来、大物になる予感がしていましたね」
いまや、多くの元子役がドラマで活躍し、芸能界を席巻している。その理由を桧山氏はこう話す。
「元子役は、芦田愛菜さん以前と以後で変わったように思います。たとえば、子役で活躍した坂上忍さんや杉田かおるさんは、その後、売れない時期が長くありました。なかには、トラブルでイメージが悪化する人もいて、『子役あがり』という肩書に、どうしてもマイナスイメージがつきがちでした。しかし芦田さんの場合は、彼女が成長する過程を、視聴者がテレビを通してずっと見ているんです。受験勉強で休んだ以外は、子役で売れて以降も出ずっぱり、というモデルケースを作ったのが芦田さんで、それにつられて『元子役』のイメージがよくなったと思います」
6月で最終回を迎えるドラマも、7月からスタートするドラマも、注目すべきは元子役たちだ。
写真・本誌写真部、共同通信