エチオピアのアディスアベバにある屋内キッチン
Photo: Robin Price / Pope et al., Communications Earth & Environment 2024

もし、あなたが呼吸しているさまざまな場所の空気の質が目に見えたとしたら、おそらく途端に外出をためらうことになるでしょう。一方で、知らぬ間に広がる大気汚染の現実を浮き彫りにすることは重要なことといえます。今回、科学者とアーティストによる研究チームがそんな発表をしました。

空気中の粒子状物質を可視化する研究

『Air of the Anthropocene(人新世の大気)』というプロジェクトの一環として発表されたこの研究は、Nature誌のCommunications Earth & Environmentに掲載されました。

論文にも掲載された複数の画像は、PM2.5やPM10もその一部として知られる粒子状物質が世界中に広く存在していることを示しています。

粒子状物質は、非常に小さく、また空気中に浮遊していて、その存在も広く知られています。今回の研究ではその存在を目に見える形で明らかにするために、さまざまな技術が使われています。

研究チームは、粒子状物質の質量濃度に応じて点滅するようにプログラムされたLED(発光ダイオード)のアレイを作成しました。つまり、大気が汚染されているほど配列されたLEDが点滅して明るくなる、という仕組みです。このLEDのアレイを利用して、いくつかの場所で長時間露光画像を撮影します。さらにその撮影した画像内の風景のなかで、最も汚れている部分を強調した「ライトペインティング」を作成しました。

大気汚染への関心と脅威

今回の研究では、イギリス、エチオピア、インドのさまざまな地域で撮影を行ないました。そのなかには、予想外の場所でも空気の質が悪い場合があることも示していたそうです。

バーミンガム大学の環境学者であり、研究の筆頭執筆者でもあるFrancis Pope氏は、米Gizmodoのメール取材に対して以下のように述べています。

チームとしては、人々に大気汚染の問題を提示するという目的だけでなく、汚染物質との接触についてのアドバイスを示すことも注力しています。

ゆえにエチオピアでの活動では、関心と議論を喚起する手段として、ライトペインティングを使用しました。ライトペインティングをポストカードに印刷し、さらに大気汚染についてと、汚染物質との接触を減らす方法を詳細に記しました。

イギリスのポートタルボットの製鉄工場を背景にしたライトペインティング
Photo: Robin Price / Pope et al., Communications Earth & Environment 2024

研究の共同執筆者であり、オーディオビジュアルアーティストでもあるRobin Price氏は、米Gizmodoに対して以下のように語っています。

私たち(Price氏とPope氏)は、2017年から大気汚染の可視化に取り組んできました。このプロジェクトは素晴らしい経験となり、私たちは繰り返しアプローチをしてきたのです。

論文で最初に紹介した写真は、ウェールズのポートタルボットにある製鉄工場で、この巨大な工業施設に対する住民の懸念から選ばれました。これが最初のライトペインティングであり、その後私たちは世界中で調査と撮影を行なっています。

WHO(世界保健機関)によると、世界の人口の99%が汚染物質を含む空気を吸っており、大気汚染が原因となる早期死亡者が毎年700万人いるそうです。また、WHOは大気汚染の一般的な発生源として、家庭用の燃焼機器、自動車、工業施設、森林火災などを挙げています。

環境格差も可視化される

エチオピアのアディスアベバにある空港前の道路
Photo: Robin Price / Pope et al., Communications Earth & Environment 2024

こちらはエチオピアの首都であるアディスアベバです。空港周辺で特に開発が進んだ地域といえます。研究チームは、粒子状物質の濃度を1立方メートルあたり10〜20μgの範囲で観測しました。これは世界の主要都市と比べると比較的低い数値といえます。

この屋外の画像と、記事冒頭の同じくアディスアベバの屋内キッチンの画像を比べると、キッチンの方が約20倍も濃度が高いことがわかっています。これは、比較的近い場所に住む、あるいは働く個人の間でも、大気汚染へのリスクが大きく異なることを示しているともいえるのです。

インドのパラムプール(左)とデリー(右)の遊具のある公園
Photo: Robin Price / Pope et al., Communications Earth & Environment 2024

おそらく、このライトペインティングのシリーズで最も印象的といえるのが、こちらのインドの2カ所の遊び場で撮影された画像だと思います。

それぞれパラムプールとデリーにあり、距離はおよそ500km以上離れている場所です。空気中の粒子状物質の量は右側のデリーの遊び場の方が多いことは画像からも明らかでしょう。パラムプールに比べて約12.5倍だったそうです。大都市のデリーは空気の質が悪く、丘陵地帯のパラムプールは空気がきれいとわかります。同じ国でも環境格差が生じている例であると、論文でも指摘しています。

オープンソース化してプロジェクトを拡張

このプロジェクト、そして制作されたライトペインティングはアメリカのロサンゼルス、イギリスのベルファストとバーミンガムで展示されています。

さらにチームは、このプロジェクトをオープンソース化することで、世界中の科学者が独自のライトペインティングを制作できるようにしました。昨年は、ウェルビーイングに焦点を当てたヨーロッパ各地の大学が集まる大学連合であるEUniWellとのコラボレーションにより、オランダのライデンでライトペインティングの制作を含むワークショップも行なわれました。

さて、"無知は幸福"だと改めて言えると思います。しかし、それは咳き込むまでの話です。LEDによる光のなかに大気汚染を見ることで、それがどこにでも存在していることを改めて感じさせます。そして、地球上のどこにいても人間の健康に深刻な危険を及ぼすという厳しい現実を思い出させます。

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