中東、特にサウジアラビアは、若く活気があり、ますます裕福になっている人口動態を特徴とする、ラグジュアリーファッションおよび美容分野の急成長市場だ。この地域は急速な文化的および経済的変革を遂げており、ファッションおよび美容業界は独特の機会と課題に直面している。

中東は30歳未満の人口が多く、ひとりあたりの資産も増加しているため、世界のラグジュアリーブランドにとって焦点になりつつある。コンサルタント会社のフューチャーラボラトリー(The Future Laboratory)のアレックス・ホーキンス氏によると、「この地域の人口は63%が30歳未満で、新しい忠実な顧客ベースを獲得しようとする消費者志向のブランドにとって最高の市場となっている」という。

ホーキンス氏によると、サウジの若者はハイブリッドなアイデンティティを示している。つまり、世界から影響を受けながらも、現地の文化に深く根ざしている。この二重性が、特にラグジュアリーアイテムの消費パターンを形作っている。

サウジアラビアの若者と地域ブランドの台頭

ホーキンス氏は、顕著な「ヨーロッパのラグジュアリーブランドへの傾倒」があると同時に、「現地のブランドを支援したいという欲求が高まっている」と述べ、若いサウジ人の約95%がサウジファーストのビジネスの重要性を強調している。この変化が、愛国の誇りの新たな波と国内ラグジュアリー市場の急成長を牽引している。

ラグジュアリーアイテム小売業のシャルーブグループ(Chalhoub Group)の最高戦略責任者であるジャスミナ・バンダ氏は、過去1年間で、この地域のラグジュアリーファッション市場の売上が50億ドル(約7850億円)に達し、著しい成長を遂げていると述べた。

この目覚ましい成長にもかかわらず、バンダ氏は、この地域にあるいくつかの課題を指摘した。中東のファッション市場は不安定な年を迎えている。昨年の売上は10%減少し、ことしは1桁の成長にとどまった。

この減速を引き起こした課題には、コロナ後の回復、海外でのショッピングのほうが安くなったこと、イスラエルとパレスチナの地政学的問題、ブランドの安定性に影響を与える世界的な二極化、世界市場の軟調さなどがある。

しかし、全体的な実績を見れば、ブランドにとってこの地域に長期的なチャンスがあることがわかる。先月のシャルーブグループの発表によると、バーレーン、クウェート、オマーン、カタール、サウジアラビア、UAEを含む湾岸協力理事会(GCC)の個人向けラグジュアリー市場は、2023年末に過去最高の125億ドル(約1兆9600億円)に達し、業界の世界における成長速度の2倍のペースで伸びている。

依然としてファッションが最大のカテゴリーで、それに続くのが時計とジュエリーだ。GCCの高級ファッション市場は2023年に52億ドル(約8160億円)に達し、前年比10%の成長を記録した。この成長率は、世界の平均成長率である4%を大幅に上回っている。

「最近、ドバイのショッピングモール、エミレーツモール(Mall of Emirates)にラグジュアリーファッションブランドのジマーマン(Zimmerman)の店舗をオープンしたが、非常に好調だ」と、バンダ氏は語った。「ジマーマンはすでに世界中で50店舗から70店舗を展開しているが、中東ではデパート内にしか実店舗がなかった」。

ラグジュアリー市場拡大と新たな小売インフラ



シャルーブグループは最近、世界で2番目のジャックムス(Jacquemus)店舗をドバイにオープンし、ラグジュアリーブランドのジルサンダー(Jil Sander)など、まだ市場に参入していないブランドの出店場所を積極的に探している。

「第3四半期には、サウジアラビアで初となるファッションブランドのマルニ(Marni)の店舗をオープンする」とバンダ氏は語った。「ショッピングセンターのドバイモール(Dubai Mall)には、ファッションブランドのメゾンマルジェラ(Maison Margiela)の店舗があり、非常に好調だ」という。

「同ブランドは当社のポートフォリオのなかでもっとも成長の早いブランドのひとつで、今後さらに数店オープンする予定でいる。よりアバンギャルドでクールなブランドは、若い世代にとって魅力的なようだ」と言い添える。

バンダ氏によると、中東ではリヤドのソリティアモール(Solitaire Mall)やアブダビのザ・グローブ(The Grove)のような大規模プロジェクトにより、新たな小売インフラに多額の投資が行われている。今後数年のあいだにジェッダのメイダン(Meydan)やアベニューズモール(Avenues Mall)などドバイとサウジアラビアでさまざまな施設がオープンすることになっており、ブランドに新たな小売の機会をもたらすだろう。

2023年10月に大規模なファッションショーのファッションウィーク(Fashion Week)がリヤドではじめて開催されたが、これは、この地域のファッションシーンが急成長中で、現地のデザイナーが育ち、サウジのラグジュアリーブランドが生まれている証拠だ。

このように現地色を打ち出すことは美容業界でも同じで、いわゆる「アラブビューティー」が台頭し、ドバイのコスメブランドであるフーダビューティー(Huda Beauty)などが、韓国ビューティーのような定着している地域的な美容トレンドに対抗する立場に立っている。

デジタル投資と文化的配慮



eコマースプラットフォームのマイテレサ(Mytheresa)でCEOを務めるマイケル・クリガー氏は、中東市場にアピールするには現地の季節や祝日に合わせることが重要だと強調した。

「当社ではラマダンやイードのほか、お客さまが旅行に出発するときや、結婚式をあげるときにもキャンペーンを実施している」とクリガー氏は語った。「また、VICイベントを国内のアンバサダーと共催している。もちろん、何よりも中東のすべてのお客さまが、世界中の『お金では買えないイベント』に招待されるなどの特典の恩恵を受けている」。

小売業の革新とデジタル投資に関して、サウジアラビアは手加減をしていない。ホーキンス氏は、サウジアラビアは未来の技術に約64億ドル(約1兆円)という巨額の投資を行い、デジタル革新国家として世界トップ20の一角を占めることをめざしていると述べた。

このデジタル化への取り組みは、eコマースやフィンテックなどさまざまな分野で顕著であり、現地でテストされる予定のシームレスで没入型の小売体験を通じて消費者の購買体験を向上させるだろう。

「サウジアラビアはGCCのなかで最大の国なので、まだまだ潜在力がある」とバンダ氏は述べた。「ラグジュアリーという観点から見て、サウジアラビアは最大の市場だが、まだ完全に捕らえられているわけではない」。

同氏は現在のショッピング体験の限界も指摘した。「ブランドの店舗はたくさんあるが、旗艦店は多くない」という。「顧客サービスはまちまちで、スタイリング能力が欠けていることもある」。

マイテレサは存在感を高めるために、現地のインフルエンサーやデザイナーとのコラボレーションも行っている。「こうした人たちがもたらす信頼と評判は非常に重要だ」とクリガー氏は語った。

ことし、マイテレサはラマダンとイードを祝うキャンペーンで、ソーシャルメディアのインフルエンサーであるノジュード・アル・ルマイヒ氏(インスタグラムのフォロワー数は58万人)とコラボレーションし、ラグジュアリーブランドのロクサンダ(Roksanda)、サフィヤ(Safiyaa)、タレーマルモ(Taller Marmo)などの限定ルックを披露した。

サウジ市場を狙う国際的なラグジュアリーブランドにとって、現地の文化的イベントに合わせ、高い文化的配慮を示すことは極めて重要だ。ブランドが提供するものを敬意を持って受け入れてもらうには「適切な人と相談し、ある程度の文化的配慮があることを確認することが不可欠だ」とホーキンス氏は語った。

バンダ氏は、現地の好みに合わせてラグジュアリーショッピング体験全体を向上させることが重要だと強調した。「この市場では、ショッピング体験を新しいエンターテインメントとの一種だと考えてはいけない。小売店舗を設けるときは、十分に検討する必要がある」。

[原文:Luxury Briefing: The growing Middle Eastern market presents opportunities and challenges for luxury]

ZOFIA ZWIEGLINSKA(翻訳:ジェスコーポレーション 編集:坂本凪沙)