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若者を中心に多く見られる画一化された「言い回し」の数々。あなたが日常で何気なく使っているその言い回し、実は正しい日本語ではないかもしれません。今回は仕事の場面などでよく使う言葉に注目して、どこがおかしいのか・どう言えば適切な日本語といえるのかを解説します。

「相手の知恵をお借りしたとき」の言い回しは?

・参考になりました…×
・大変勉強になりました…〇

学生からお願いのメールがありました。就職活動のためのエントリーシートに、ゼミでの研究内容をまとめなければならないというのです。こういう依頼は、毎年のことですから、すぐに返事を送ると、こんな返信がきました。

「迅速な対応ありがとうございます!」

加えて、資料を添付して送ると、またこんな返事が返ってきました。

「参考になりました!」

「参考になりました」という言葉は、「参考となるご意見を賜り、誠に恐縮の至りです」などという使い方をすればまだ許されるかもしれません。しかし、言われたほうは、上から目線というか、相手の考えを決めるときの足しとしてしか、自分の意見を扱われていない印象を受けてしまいます。

同輩同士で使うのはいいとしても、目上の人、経験を積んだ人に「参考になった」という言葉は、やはり失礼です。「勉強になりました」「勉強をさせていただきました」と気持ちを込めて相手に感謝するのが、日本語らしい返答なのではないでしょうか。

学生たちがこのような言葉を使ってしまうのは、無理もありません。この学生に限らず、現代の若者たちは、英会話も含め、画一化した「言い回し」を覚えて使っているだけなのが現状です。

日本語は、尊敬、謙譲、丁寧など、「気持ち」を最も大切にしてきた言語ですので、形だけの「言い回し」の濫用になってしまわないよう、言葉に込められた「気持ち」を理解して使っていきたいものです。

名刺交換のシーンでほとんどの人が誤用している!

・ちょうだいいたします…×
・ちょうだいします…〇

ビジネスシーンで、必ず行なう名刺交換。そのとき、「ちょうだいいたします」と言う人がとても増えてきました。名刺をもらう相手に丁寧な言葉を使わなければいけないという意識が、「ちょうだい」と「いたします」という二つの言葉を合わせてしまった結果なのですが、日本語としては間違いです。

名刺交換のときは「ちょうだいします」と言うのがもっとも適当です。「ちょうだい」は漢字で「頂戴」と書きますが、これは両手を自分の頭上に上げ、非常に高い身分の人から賞などを授与されることを表します。

「ちょうだい」だけで謙譲を表しているのに、これに「いたします」という自分や自分の側を下位に置いて、相手を重々しく敬うための言葉を使うと、丁寧すぎて、かえって慇懃無礼な言い回しになってしまうのです。いわゆる、二重敬語と呼ばれるものです。

「拝見します」を「拝見いたします」というのも、同じく二重敬語です。「ちょうだいいたします」「拝見いたします」という言い方が段々と定着してきていますが、とくに相手がお年を召した方などであれば、慇懃無礼だと怒られる場合もありますので、気を付けたほうが賢明です。

初対面の相手の名前を知りたいときには…

・お名前をちょうだいできますか…×
・お名前をお聞かせ願えますか…〇

相手の名前を教えてもらいたいときに、「お名前をちょうだいできますか」と言う人がいます。

「下のお名前をちょうだいできますか」などと言われると、「いやぁ、困ったなぁ」と思ったりもします。「ちょうだいできますか」という質問が、「名前を教えてください」という意味であることは十分わかるのですが、「ちょうだい」とはもともと物や賞などを相手から恭(うやうや)しく受けることを意味します。自分の名前を相手に教えることはできますが、恭しく「ください」と言われても、あげるわけにはいかないものです。

さて、平安時代の紫式部や清少納言など、昔の女性の本名は現在でも分かっていません。それは、決して人に本当の名前を教えなかったからです。当時、名前を教えることは、相手に自分の魂を渡すことだとされていました。名前を教えるということは、それほど恐ろしいことだったのです。

また「下のお名前」というのも不適切です。名前はひとつだけで、上も下もありません。そんな場合には、「お名前を、フルネームで教えていただけますか」あるいは「姓と名をそれぞれお聞かせ願えますか」「フルネームをお伺いしてもよろしいでしょうか」と言うようにしましょう。

山口 謠司
大東文化大学文学部中国文学科教授