パナソニック コネクトの「Let's note FV5」は4月13日に2024年春モデルとして発表された、14型ディスプレイを搭載したノートPCだ。

横縦比3:2の大画面ディスプレイを採用しながらも、本体の重さは約1.134kgと、作業環境と携帯性能のバランスを重視。これに加えて、インテルのCPUで最新世代となる“Meteor Lake”ことCore UltraのノートPC向けラインアップでも処理能力を重視した「H」シリーズ(しかもvPro対応)を採用した。

Let'snote FV5。アスペクト比3:2の14型ディスプレイとボディデザインを継承しつつも、最新のCore Ultra(vPro対応)を搭載し、高い処理能力と省電力を実現する

3:2の画面アスペクト比でコンパクトな本体サイズを実現

Let'snote FVシリーズの特徴の1つとして挙げられるのが3:2の画面アスペクト比だ。PCのアスペクト比は“古の”VGA(640×480ドット)やSVGA(1,024×768ドット)世代の4:3だったのが、現代のフルHDから4Kにおける16:9、そして、縦方向解像度の情報量を訴求する最近の上位機種が採用する16:10が一般的。

それらと比べるとアスペクト比3:2を採用するモデルは少数にとどまる(参考までに2024年5月初頭における「価格.com」登録ノートPC件数でアスペクト比16:10は1245件、16:9は2021件に対し、3:2は251件と10分の1にも満たない)。

サイズは14型なれど横縦比が3:2と縦方向の表示情報量が多いユニークなディスプレイ仕様

16:9と16:10のディスプレイと比べ、3:2のディスプレイは縦方向に表示できる情報量が増える。横書きドキュメントなら表示できる行数が増えるので、先の見通しが良くなって作業効率が向上する。

最近ではWebページデザインでスマートフォンでの利用を考慮して縦方向に長いレイアウトを採用するケースも増えており、そのような場合も縦方向の情報量が多いと使い勝手が向上する。

ただ、対角方向の長さで示すディスプレイサイズが同じ場合、アスペクト比が16:9や16:10のディスプレイと比べてアスペクト比が3:2になると(横方向解像度が同じなら)縦方向解像度が増える一方で、ディスプレイの実サイズでは横方向も縦方向も短くなることに注意したい。

これは、画面が同じ“型”でも本体サイズをコンパクトにできる一方で、同じ解像度で比較するとdpiの値が大きくなって、フォントの一文字一文字が小さくなることを意味する。同じフォントで同じ文字を表示した場合、3:2における表示サイズは約81%にとどまる。表示行数増やして見通しの良さを選ぶか、フォントの表示サイズを大きくして文字の見やすさを選ぶか、そこが3:2ディスプレイを選ぶ一つの分水嶺となるだろう。

3:2のディスプレイを採用したおかげで、14型ディスプレイを搭載したノートPCの中ではコンパクトなボディを実現している。

競合他社の14型級ディスプレイ搭載モデルの本体幅サイズが315mm(Lenovo ThinkPad X1 Carbon)から323mm(Latitude 14やdynabook G8など多数)、329mm(ThinkPad T14s)なのに対して、Let'snote FV5の本体サイズはW308.6×D235.3×H18.2mmと14型ディスプレイ搭載ノートPCでは最もコンパクトな中の1台といえる。

薄型化したボンネット構造や取り外し式のバッテリーは健在

本体の重さは1.13kgと、同サイズディスプレイ搭載モデルの中では軽量の部類に入る(14型ディスプレイ搭載モバイルノートPCは最軽量のFMV LIFEBOOK WU-XとNEC VersaPro タイプVGを除くと、その多くは1kg前後と1.4kg前後に分かれる)。

そんなコンパクトで軽量なLet'snote FV5だが、その姿は“大柄”に見える。これはLet'snoteのアイデンティティともいえる堅牢性を象徴するボンネット構造の天面スタイルの影響だろう。

とはいっても、そのボンネットの立体構造は以前と比べたら段差は低くなり、見た目的にはデザイン的なモールドにしか見えない。いや、そう言うと語弊があるだろう。存在感はなくなったものの、内部には強度が必要な部分に厚みを付けるなどの構造的工夫で76cm落下試験に100kgf加圧振動試験と今までと同様に本体を守っている。

凸部の高さを限りなく低くしたボンネット構造を採用した天面。ボディーカラーはプレミアモデルを象徴するジェットブラックを採用する

取り外し式のバッテリーも“いまだ健在”だ。多くのモバイルノートPCが本体の薄さを重視してバッテリーを内部に収容し、ユーザーが交換的できないようになって久しいが、Let'snoteのラインナップでは、以前からバッテリーパック式を継承している。

これは劣化して駆動時間が短くなったバッテリーパックをユーザー自ら交換できるという目的のほか、複数のバッテリーパックを持ち歩いて交換することで、実質的なバッテリー駆動時間の延長のためにも役立つ。

また、バッテリー駆動時間より本体を軽くして持ち運びを楽にしたいなら、容量を半分にして軽量化したバッテリーパックが選択できるなど、柔軟なバッテリー運用が可能だ。

取り外し式のバッテリーパックもLet'snoteとして長く受け継いできた“伝統”といえるだろう

企業の“情シス”的には劣化したバッテリーを低コスト短期間で交換できるのがメリットだが、ユーザー的には交換することで長時間のバッテリー駆動が可能になることがメリットになる

Wi-Fi 6EやThunderbolt 4、今や希少なSDカードスロットも搭載

ディスプレイ以外でも本体の仕様は従来モデルと共通する。搭載するインタフェースは、Thunderbolt 4(USB 4 Type-C)×2基(電源コネクタ兼用)、USB 3.2 Gen1 Type-A×2基(1基はパワーオフUSB充電機能に対応)、ヘッドホン&マイク端子のほかに、映像出力用としてHDMI出力(4K120Hz・144Hz対応)を用意する。

メディア用インタフェースとしては、今やモバイルノートPCでは少数となってしまったSDメモリーカードスロットも載せている。

 無線接続インタフェースでは、IEEE802.11axまでカバーするWi-Fi 6E(IEEE802.11a/b/g/n/ac/ax準拠)とBluetooth、さらにLTE 4G(選択可)を利用できる。

左側面にはHDMI、Thunderbolt 4×2、ヘッドセット端子、USB 3.0 Type-A、SDメモリースロットを備える

右側面には有線LAN用RJ-45、2基のUSB 3.2 Gen1 Type-A、SDメモリーカードスロット、アナログRGB(D-sub15ピン)出力を搭載する

正面には電源スイッチがある。また、バッテリーパックも正面からアクセスできる

背面にはインタフェースを用意していないもの排熱用スリットを設けている

ディスプレイを開いていくとヒンジに部分がスタンドになって本体が浮き上がる。ディスプレイは全開状態で実測約172度となり、この状態で本体は実測1.8度の傾斜となる

オンライン会議に役立つ機能は? Core Ultraが活きる機能も

リモートワークでの活用を訴求するLet'snoteシリーズらしく、Webカメラやマイク、そして、音声補正やノイズキャンセリング、さらには背景をぼかす画像補正機能などWeb会議の品質を向上させる機能も充実している。

ノイズキャンセリングと画像補正などでは従来モデルからAIを活用しているが、Let'snote FV5ではCore Ultraに統合したNPUでAI関連の演算を実行することで消費電力を削減し、バッテリー駆動時間の慎重に効果があることが期待されている。

ディスプレイ上には1080p対応Webカメラと顔認証用IRカメラ、ステレオマイクアレイを備える

キーボードはピッチ19mmを確保する。キートップ形状は従来のLet'snoteシリーズと同じ左上と右下を「角丸」に成型したリーフ形状を引き継ぐ。ポインティングデバイスも“伝統”のホイールパッド。リングパーツは光沢からマットに。その左脇には指紋センサーを備える

キートップは中央部をわずかに窪ませてタイプした指の“座り”がよくなるように工夫している

ベンチマークで処理性能をチェック。スコアは順当に進化

ここまで見てきたように、本体の仕様は従来モデルをそのまま継承している(キーボードにはCopilotキーもない)。

やはり2024年春に登場したLet'snote FV5の存在意義としては、CPUに搭載したCore Ultraプロセッサとなるだろう。

採用されたのは「Core Ultra 7 プロセッサ 165H」で、TDP(Processor Base Power)は28W、処理能力優先のPerformance-cores(Pコア)を6基、省電力を重視したEfficient-cores(Eコア)を8基組み込んでいるほか、低消費電力 Efficient-core(LPEコア)を2基備えている。

Pコアはハイパースレッディングに対応しているので、CPU全体としては16コア22スレッドだ。スマートキャッシュの容量は24MBで、動作クロックがP-coreでベース1.4GHzのMax Turbo Frequency5GHz、E-coreでベース900MHzのMax Turbo Frequency3.8GHz、LP Eコアでベース700MHzとなる。

CPU-ZでCore Ultra 7 プロセッサ 165Hの仕様情報を確認

Core Ultraに統合された「Intel ARC Graphics」は、ゲーミング向けの「Xe-HPG」をベースに開発された新しいアーキテクチャ「Xe-LPG」を採用する。8基の「Xeコア」を組み込み(演算実行ユニットでいうと従来の96基から128基)、従来のIntel Iris Xe Graphicsと比べて最大2倍の性能を発揮するとされている。

さらに、独立したAI専用エンジン(NPU)として「Intel AI Boost」を実装しており、AI処理に関するスピードを高速かつ高い電力効率で実行できる。

GPU-ZでCPUに統合されたIntel ARC Graphicsの仕様情報を確認

ちなみに、先日レビュー記事を掲載したdynabook R9/Xに搭載されていたCore Ultra 155Hと比べると、Max Turbo Frequencyが4.8GHzから5GHzに上がっているのみで、その他の仕様は共通する。

なお、CPU以外でLet'snote FV5に実装された処理能力に影響するシステム構成を見ていくと、システムメモリはLPDDR5X-6400を32GB搭載。ストレージは512GB SSD(PCIe 4.0対応)だ。

Core Ultra 7 プロセッサ 155Hを搭載したdynabook R9/Xの処理能力を検証するため、ベンチマークテストを実施した。

なお、比較対象としてCPUにCore i7-1360Pを搭載し、ディスプレイ解像度が1,920×1,080ドット、システムメモリがLPDDR5-4800 16GB、ストレージがSSD 512GB(PCI Express 4.0 x4接続)のノートPCで測定したスコアを併記する。

第13世代のCore i7 TDP28Wを搭載した比較対象ノートPCと比べ、Core Ultraプロセッサを採用したLet'snote FV5が全体的に上回る結果となった。

同じCore Ultra世代のCore 7 155Hを搭載したdynabook R9/Xのベンチマークテストと同様に、3DMarkなどのグラフィックス性能で大きな差が見られた。ここでもIntel ARC Graphicsの描画性能がアーキテクチャの進化によって強化されたことを確認できるだろう。

なお、ストレージの転送レートを測定するCrystalDiskMarkに関してはスコアがほぼ同等(わずかながら数値は高い)だが、これは比較対象も評価機材も、搭載するSSDで、サムスン電子ラインアップの同等モデルを採用している点が大きく影響しているためといえる。

Core Ultraへの移行はモバイルノートPCにとって処理能力以上に重要なバッテリー駆動時間の向上ももたらすという。インテルの説明ではバッテリー駆動時間が第13世代Coreプロセッサ搭載モデルと比べて約10〜14%改善したと説明している。

バッテリー駆動時間を評価するPCMark 10 Battery Life Benchmarkで測定したところ、Modern Officeのスコアは12時間21分(Performance 5851)となった。ディスプレイ輝度は10段階の下から6レベル、電源プランはパフォーマンス寄りのバランスに、それぞれ設定している。

なお、PCMark 10のSystem informationで検出した内蔵するバッテリーの容量は55,270mAhだった。評価作業における肌感覚としてはACにつないでいる感覚でLet'snote FV5を使っていても2日間は無補給で不安なく使えたことを申し添えておきたい。

底面には奥側に広範囲に吸気用スリットを設けている

ヒンジ奥に排気スリットを設けており、ディスプレイを開いた状態でパネルに沿って排熱されていく

14型なのにコンパクト。日常使いでもAI機能が役立てそう

Let'snote FV5のユニークなところは、(これまでのFVシリーズと同様に)「14型なのにコンパクト」なことだろう。ディスプレイのアスペクト比を3:2とすることで、同じ14型でも16:9や16:10のモデルと比べると本体の幅も奥行きも短くできる。

ただ、14型ディスプレイからイメージする2,560×1,440ドット(WQHD)や2,560×1,600ドット(WQGA)のような高解像度と比べると、表示情報量は少なくなる。この辺りは携帯性と画面視認性のトレードオフになる。

Core Ultra採用PCで訴求ワードとなる「AIへの対応」だが、2024年5月段階ではやはり「“AI PC”だからなに?」とならざるを得ない点が難しいところだ。

ただ、ローカル環境でのAI演算に対応したソフトウェアの開発は進んでいるのに加えて、AI演算に限らず同様な行列演算や並列処理を求められるソフトウェアでも日常的(もしくはバックグランド的)に利用する用途では、NPUで演算させることで消費電力が抑制できる効果も考えられる。

具体的には、ビデオ会議ユーティリティですでに利用されている「Windows Studio Effects」と「Intel AI Boost」による背景ぼかしなどがあるが、それ以外でも例えば、暗号化復号化処理などでも大量の演算リソースを常時消費しつつ、消費電力を抑制することが、NPUによって可能になる。

AI活用というと大規模言語モデルが利用できる環境とミドルウェアが必須で、それが利用できない状況においてCore Ultra世代CPUの存在価値を見出すのが難しいと思いがちだが、意外と「日常使いのアレコレ」でモバイルノートPCにおけるCore Ultraの価値が出てくるのではないだろうか。