『上田と女が吠える夜』前川瞳美氏、現代の清少納言たちが見せる着眼点の面白さ 「悪口」を「共感」に昇華
●常に意識する「最大限努力したのか?」
注目を集めるテレビ番組のディレクター、プロデューサー、放送作家、脚本家たちを、プロフェッショナルとしての尊敬の念を込めて“テレビ屋”と呼び、作り手の素顔を通して、番組の面白さを探っていく連載インタビュー「テレビ屋の声」。今回の“テレビ屋”は、『上田と女が吠える夜』(毎週水曜21:00〜)の演出をを務める日本テレビの前川瞳美氏だ。
MC・上田晋也と歯に衣着せぬ女性陣が、モヤモヤする旬な話題や社会に対して一刀両断していくトークが共感を呼び、22年4月にレギュラー化すると瞬く間に人気番組に。「令和版 枕草子」という裏テーマのもと、独特の着眼点を見せる現代の清少納言たちに感服しながら収録に臨んでいる――。
○美大の絵画学科からテレビ局へ
――当連載に前回登場した『テレビ千鳥』の山本雅一さんから、「知り合いから美大卒で次世代の最も勢いのある優秀な女性ディレクターがいると聞きました。面識はないですが、一方的に存じておりました」とご指名いただきました。
『テレビ千鳥』はよく見ています。スタッフも演者もやりたいことをやってる感じがすごくうらやましいです。山本さんの奥様(日本テレビ社員)から、「家で笑いながらオフライン(編集作業)してる」と聞いていて、そんなに楽しく仕事できるなんて、ディレクターとしてこんなに幸せなことはないよなあと。そういう意味でも、すごくいい番組だなと思いますね。
――美大の絵画学科にいらっしゃって、そこからなぜテレビ業界を志そうと思ったのですか?
美術作家になりたくて美大に行ったのですが、入って半年ぐらいで挫折しまして。自分はアート作品を作って生きていくということはできないだろうなと察してしまったんです。
――あと3年半もある中で…。
そうなんです。学費も高いですし。そこで、映像制作的なことをやっていて、今で言うYouTuberの走りみたいな。現代アートと称して自分でいろんなことにチャレンジするとか、自作自演のコントをやって、主に学校とかで発表したりして、終盤はYouTubeにもアップしていたんです。
それと、美術業界って結構狭い世界で、美術が好きな人の間でしか見てもらえないというジレンマもあり、もうちょっといろんな人に見てもらえるもの作りをしたいなって思ったときに、テレビ局がいいのかなと、短絡的な発想で。
――山本さんは「僕は加地(倫三)さん、前川さんは古立(善之)さんという師匠がいるなど、共通点も多いのではないかと思います」とおっしゃっていました。
ロケは基礎から全部、古立さんに教わりました。『(世界の果てまで)イッテQ!』では、「自分がやっても面白くなるネタなのかどうかを考えろ」と言われまして。要するに、「このタレントさんがやったら面白くなるだろう」という視点で企画を考えるのではなく、いいネタやいい企画というのは、自分や一般人がやっても面白くなる、ということ。それは、最初に配属になった『人生が変わる1分間の深イイ話』でトシさん(高橋利之氏)にも言われました。「これはアナウンサーがやっても面白くなる企画なのか?」を考えた方がいいと。
――『イッテQ!』では、自ら出役にもなりますよね。
『イッテQ!』は、「どんな手を使ってでもオチを作らないと」というプレッシャーが全ディレクターにあると思います。海外でゲテモノを食べたり、バンジーをやったり、それまでの過程が面白くても、最後にオチてないと丸ごとカットになることもある。だからカットになるくらいなら、自分が体を張ろうっていう気持ちになるんです(笑)
――古立さんの番組だと『月曜から夜ふかし』もご担当されていました。
印象に残ってるエピソードで言うと、西葛西(東京・江戸川区)にいるインドの方に「日本に来て感動したこと」や「すごいと思った日本の商品」を聞いてくる街録(街頭インタビュー)があったんですけど、あまり面白いインタビューが撮れなかったんです。そのとき、私も人間的に未熟だったんで、「そんな理想とするものは撮れませんよ!」って、古立さんに逆ギレみたいな感じで言ったら、「普通にやって撮れなかったら、例えば“日本で一番好きなカレー味のお菓子はなんですか?”とか、なんて答えても面白いと思えるような聞き方を考えろ」って怒られまして。古立さんは優しいので基本怒らないんですけど、その時は明確に怒られたので記憶に残ってます。
それ以来、「“これ以上は無理だ”と諦める前に、自分は手を変え品を変え、面白くなるように最大限努力したのか?」というのは、自分の心の中にお守りのように今もずっとありますね。
――『月曜から夜ふかし』は相当な人数にインタビューしてると聞きますが、むやみやたらに聞き回るのではなく、工夫も相まって面白い人と出会うんですね。
私は街録がそんなに上手くないんですけど、やっぱり上手いディレクターだと、「同じ相手に聞いてもこの人が聞いてるから面白い答えが返ってくる」ということがよくあるので、『夜ふかし』の街録は本当に職人技だと思いますね。
――山本さんからは失敗談も聞きたいということだったのですが、今の怒られた話はまさにですね(笑)
そうですね。あとはマネージャーさんとケンカしそうになったとか、不穏な話しかないんで(笑)
――結構武闘派なんですか?(笑)
いや、武闘派じゃないんですよ。全然気弱で言えないから、「女たちが悪口を言う」っていう番組が生まれたんでしょうね。心の中で言いたいことを溜めちゃうんで、腹が立ったことを全部メモるんです。
『上田と女が吠える夜』(日本テレビ系、毎週水曜21:00〜) ※5月15日は2時間SP (C)日テレ
○「女性ならではの番組」は避けていた
――そこから企画されたのが『上田と女が吠える夜』ということですが、どのような経緯で誕生したのですか?
単発の特番をやらせてもらえることになって、そのために考えた企画があったんですけど、それが「やっぱこの企画面白くないからダメだ」と言われて、急ごしらえで考えたのが『上田と女』の前身になる番組だったんです。
よく「女性らしい感性のもの作りを期待してます」とか言われることがあるじゃないですか。でも、自分的には「別に私は女性代表でもないし、そういうつもりでやってないしなあ」と思ってましたし、ゴリゴリのお笑いをやりたい気持ちがあったので、いわゆる女性をターゲットにした番組というのを避けて通っていたんです。「女性が集まってみんなで悪口を言う」っていう企画のアイデアは前からあったんですが、「女性ならではの番組だね」と言われそうな気がしてずっと出していませんでした。でもその窮地に陥ったんで、「これを出すしかない」と。
――この番組は「令和版 枕草子」という思いを込められていると聞きました。
清少納言はめちゃくちゃ鋭い観察眼を持っていて、それを的確に文章化することに長けた人なんですよね。美しい描写もあるけど、今読んでも共感できるような悪口もいろいろ書いてあって、それこそ「人の悪口ほど面白いものはない」みたいなことも書いてあるので、1,000年前から悪口はひとつの娯楽だったんだと思ったんです。
●とにかく真面目な女性レギュラー陣「向上心がとてつもない」
――MCは百戦錬磨の上田晋也さんです。
上田さんは九州男児ですし、男っぽいからこの番組に合うのかな…と思っていた部分はあったんですけど、始まってみて気づいたのは、女性に対して高圧的な部分はなく、むしろ女性に対するリスペクトが根底にある人だなと。それがあったので、初めて収録したときに、「見えたな」という感じがありました。
――女性のレギュラー陣も、トークの猛者たちが集結しています。
皆さん、とにかくめちゃくちゃ真面目ですね。この番組のために、日々腹が立ったことをメモしていただいてますし、大久保(佳代子)さんは聞くところによると、この番組がレギュラーになってからネタ発掘のためにいろんな人と飲みに行くようになったり、私生活がちょっと変わったそうなんです。若槻(千夏)さんは「家族全員で若槻千夏だよ」とおっしゃってるらしくて。要するに、「旦那も子どもも若槻千夏の一部だから、面白いネタがあったらお寄せください」って感じでみんなでネタを集めているそうです(笑)。この向上心が、皆さんとてつもないんですよね。
大久保佳代子 (C)日テレ
――ひな壇で並んでいると、「ここで負けられない」みたいなライバル心も出てくる感じですか?
うちの番組はチームプレーだと思います。1人が突出して目立てばいいっていうのではなく、誰かがちょっとスベったら誰かがフォローに入るとか、自分が長くしゃべったらこの人の時間がなくなるなとか、そのへんをすごく計算しながら皆さんがやってくださってるなっていう感じがしますね。
――その女性陣の中で、ファーストサマーウイカさんは、この番組が初めての単独バラエティ出演でした。ここまでブレイクするという予感はあったのですか?
新たなスターを発掘したいということで、特番時代からずっとオーディションをやっていて、ウイカさんもそこに来ていただいたんですが、その段階から担当ディレクターが「違う」「この子だったらいける」と言ってましたし、初めて出てもらったときからすごかったですね、
――そんなウイカさんが、大河ドラマ『光る君へ』で清少納言役に起用されました。
私はレギュラーの皆さんのことを現代の清少納言だと思ってるので、「こんなことがあるんだ!」と思って、うれしかったですね。やっぱり大河のスタッフの方も、ウイカさんに独特の着眼点とか、どこか毒気があるとか、清少納言みを感じたんじゃないかと思いますね。
ファーストサマーウイカ (C)日テレ
――他にも「見つけた!」という方を挙げるとどなたになりますか?
私的にはですね、爛々(らんらん)というお笑いコンビがすごくいいなと思っているんです。オーディションのときから良かったですし、何回も出ていただいてます。着眼点もすごいですし、キャラクターとしてもすごくいいなと思っています。
○「自分の世界とつながっている」と感じるトークテーマに
――これまでを振り返って、印象的なトークを挙げるとすると何でしょうか?
皆さんの話を聞いてて「枕草子っぽいな」と思うことがよくあるんです。例えば、街の女性に「どういうときに寂しいと思いますか?」と聞いたときに「スーパームーンのような天体ショーはみんなでSNSで盛り上がれるけど、今道端に咲いてる花のような、何げない美しいものを、きれいだねって言い合える人がいないことに気付いたときに孤独を感じます」と言われて、繊細な感性に心震えたり。
スタジオの女性陣の皆さんも、MEGUMIさんが「すごい帽子をかぶってサングラスをかけた女性が颯爽と歩いてきて、どこのタレントかなって思ったんだけど、サングラス取ったらどこの誰でもなかった」という話とか、若槻さんが言った「並んだお皿で隠れミッキーをすぐ見つける女」とか、着眼点が素晴らしいなと思ってすごく印象に残ってます。
――トークのテーマ設定はどのように意識されているのですか?
「共感できる」というところを大事にしてます。タレントさんの世間離れした話とか、”芸能界あるある”的な話ばかりになると、視聴者が共感できる要素がない。なので、「人見知り」「メンタル弱い」「寂しがり」とか、あえてネガティブだったりコンプレックスに感じるようなことを選んで、多くの人が当てはまる普遍的なテーマを考えています。街頭インタビューを入れているのも、見ている人に「自分の世界とつながっている」と感じてもらうためです。
――レギュラー化して2年で、元日のゴールデンタイムを任される(※)人気番組になりましたが、支持を受ける理由はその「共感」というところですね。
(※)…能登半島地震の報道特番で後日振替放送。
そうですね。普通のトーク番組だとタレントさんの鉄板トークを聞いていくものが多いと思うんですが、この番組は必ずしも笑いだけじゃなくて、視聴者の皆さんにとって自分事になってもらえてるのではないかと思います。それと、自分が普段、日常生活で言えないようなストレスを、タレントの皆さんが代わりに言ってくれる気持ちよさもあると思います。
――そうすると、数字を見ると男女比は圧倒的に女性のほうが多いですか?
そうですね。
●「悪口を言い合う」番組の炎上リスクは
――「悪口を言い合う」という着想でスタートし、そこからゴールデンのレギュラー番組として成立させるにあたって、苦労した部分はありますか?
そこは結構悩みましたね。この番組のファンの方は、悪口が好きで愛してくれてる部分もあるけど、毎週悪口を言い合うのはちょっとネタ的にもきついかなと。それと、特番のときから時代の風向きが若干変わってる感じがあったんです。
前身の番組を立ち上げた2016年頃は、「インスタ映え」という言葉が流行して、SNS中心の生活でみんなストレスが溜まっている感じがあった。この番組ではSNSで感じるモヤモヤについて言及することも多いですし、そこが一番視聴者に刺さった部分だと思います。でも今はSNSのモヤモヤに言及するのも1周回った感じがあって。それと、自己肯定ブームもあって、悪口に対する風当たりも強くなってきた中で、どうやって落とし込んでいこうかと悩みました。
――炎上リスクというのは、どう考えていますか?
「悪口を言う」ということについては、こっちも演者さんも腹を決めてやってるから、多少のことは許容しますが、予期せぬところで炎上してしまうのは本意ではないので、言い回しが少し言葉足らずで、そこを切り取られてタレントさんが傷つくことがないように、編集はかなり繊細にやっています。テロップの出し方もそうですし、この言い回しはちょっと感じ悪く取られるなと思ったら、もう切っちゃいますね。
――制作側が編集でケアする分、スタジオでは臆することなく自由にやってもらおうと。
そうですね。
――4月からスタートした『上田と女がDEEPに吠える夜』は、より社会的なテーマを取り上げることになりますから、一層注意するところですよね。
そうですね。少し過激に見えたり、繊細なテーマを取り上げることも多いので、いろんな人に「倫理的に違和感があったら言ってください」とお願いしています。ただ、炎上とは言わずとも、番組のコンセプトやテーマが視聴者から敬遠されてしまう可能性もあるとは思っています。でも、視聴者から嫌われても「やる意味がある番組」だと思ってます。
『上田と女がDEEPに吠える夜』(日本テレビ系、毎週火曜23:59〜) (C)日テレ
○数字よりも大事なことを…『DEEPに吠える夜』
――そもそも、どのような狙いで『上田と女がDEEPに吠える夜』を立ち上げることになったのですか?
ゴールデンでやっていて、もうちょっと突っ込んだ女性の悩みとか、女性に対する誤った先入観や価値観に対してもっと語れるような場が欲しいなと、ちょっと前から思っていたんです。その矢先に番組を立ち上げる機会を頂きまして。ある種の臭いものに蓋してきた部分やタブーになっていた部分をあえて取り上げて、もっと生きやすい世の中になればいいなというのが、裏テーマにあります。
――真面目な部分とバラエティの笑いの部分は、どのように考えていますか?
ゴールデンほど笑い中心ではないですが、視聴者の方の反応を見て、バランスを考えていこうと思いますね。数字よりも大事なことがあると思ってやっている感じです。
――その部分で、上田さんに助けてもらう部分もあるのでしょうか。
そうですね。性教育とか女性の下着といったテーマで、上田さんが何を語るのか想像できない部分もあったんですけど、実際に始まったら本当に見事に回してくださって。聡明でいらっしゃるので、どんな分野でも知識が豊富で、上田さんへのリスペクトがまた深まっている感じがあります。
――『news zero』の直後という枠は、社会的なテーマを取り上げるのに適しているかもしれないですね。
確かに、ゴールデンとは違う層が見てくれている感覚はあります。初回は「性教育について考える」というかなり社会派なテーマでしたが、「『上田と女が吠える夜』は見たことないけど、この番組は気になって初めて見た」というような感想もいくつかありました。とは言え、まだ24時台というのがどうなのか、自分でもつかみきれていない部分がありますね。
ただ、『月曜から夜ふかし』をやってた時間帯と考えたら、うまくハマりそうな気がします(笑)。あの番組は「『夜ふかし』だから許される」みたいなところがあるじゃないですか。なので、『DEEPに吠える夜』も、そういう解放区的な番組になっていったらいいなというのがありますね。
●番組ロゴで視認性を無視した結果…
――美大出身ということで、そこで学んだことが番組制作で生かされている部分はありますか?
昔は深夜でお金がないときに、番組で使うイラストを自分で描いたりしてましたね。『上田と女』に関しては、番組ロゴって、視認性が大事だと思うんですけど、ロゴって番組のセンスが一発で分かる部分だと思っていて、読みやすさはもういいやと。タイトルの文字面がダサくても、ロゴさえカッコよければおしゃれな番組に見えると思っているので、視認性を無視して、読みづらいけどカッコいいロゴにしたんです。そしたら『THE W』の副賞(番組出演権)の紹介で、「女」が読めなかったみたいで、『上田と七人が吠える夜』って間違えられちゃって。視認性を取らなかったツケがここで回ってきました。
(C)日テレ
――テロップやスタジオセットなどはいかがですか?
テロップもビジュアルの一つとしてはこだわってますね。セットに関しては、自分のやりたいおしゃれさと、みんなに受け入れられるところのバランスを取ったという感じです。
――トーク中は常にBGMが流れている印象があります。トークの内容によって曲を変えてるので、そこもこだわっているのかなと思ったのですが。
たしかに多いかもしれないですね。この選曲は、全幅の信頼を置いている音効さんにお願いしています。紅ゆずるさんが出たときにX JAPANの「紅」がかかったり(笑)。のんびりタイプの人がしゃべりだして、いい意味で空気が止まりそうだなというときに、変な曲がかかったりしてますし。
あとはSE(効果音)も多いと思います。SEに関しては、当時制作局の局長だった加藤幸二郎さん(現・日テレ アックスオン社長)に「テレビの画面を見ていなくても、耳に入っただけで“あの番組だ”って分かるSEをつけた方がいい」と言われて、トークネタがモニターに出る時など、あえて若干違和感のあるSEを音効さんに付けてもらっています。
○「誰もが尊重されるべき世界」で前向きな番組作り
――近年は「コンプライアンス」がより叫ばれるようになるなど、バラエティを巡る制作の環境の変化はどのように感じていますか?
当然できないことが増えてるというのはあると思うんですけど、全然後ろ向きに思ってなくて。要するに昔はもっと弱い者に厳しい世界だったわけじゃないですか。女性もそうですけど。そこからどんどん時代がアップデートされて、誰もが尊重されるべきという世界になってきてると思うんですよね。それは当然いいことだし、様々な配慮とかもこれまで傷ついてきた人たちを守るためにやっていることなので、私はすごく前向きに、今の時代にフィットしながらやっていきたいという気持ちです。
――今後こんな番組作ってみたいというものはありますか?
やっぱり自分がロケ番組で育ってきたというのもあるので、ガッツリのロケ番組は1つやりたいなと思いますね。トーク番組はタレントさん頼りのところがあるんですが、ロケだとよりディレクターの腕が求められて、自分に向き合えるような気がするんです。なので、トーク番組はタレントさんに助けてもらっているという意識を忘れないようにしています。
――『上田と女』の正月特番で台湾の開運ロケもやっていましたし、こちらも企画・演出を担当するKing & Princeさんの『キントレ』でもロケ企画を入れていますよね。
『上田と女』でロケに出るのはあれが初めてだったんですが、好評だったのでまたやりたいなと思いますね。ロケはスタジオよりも、より人間性が出るものだと思っているので、『キントレ』ではKing & Princeの2人に毎回ロケに出てもらっています。永瀬廉くんの生意気なんだけど結果ロケが終わる頃には取材先の方にベタ褒めされる「人たらし」な部分や、高橋海人くんの「手先は器用」なんだけど「性格的には不器用」で、人見知りな自分と葛藤しながら頑張っている部分など、視聴者の皆さんに愛してもらえたらいいなと思ってやっています。
――ご自身が影響を受けたテレビ番組は、何ですか?
本当に好きな番組として影響を受けたのは『ごっつ(ダウンタウンのごっつええ感じ)』(フジテレビ)なんですけど、今の番組作りにつながってるという意味で言うと、『恋のから騒ぎ』(日本テレビ)とか『ねるとん紅鯨団』(関西テレビ)とかになりますね。
――『ねるとん』がやってた頃なんて、全然子どもじゃないですか?
5〜6歳のときに見ていて、好きだったんですよ(笑)。女の子って早熟じゃないですか。大人の世界を覗き見ているような後ろめたさと好奇心があって、ほかにも『キスイヤ(キスだけじゃイヤッ!)』(読売テレビ)とか、いわゆる大人が恋愛を語るような番組が好きで見てたんですよね。『上田と女』も、周囲の人から「うちの小学生の娘がすごい好きなんだよ」と言ってもらえることがあって、大人の女性たちの話を背伸びするような気持ちで見てくれているのかなと思うと、自分の小さい頃とつながっているような気がして、うれしいです。
――いろいろお話を聞かせていただき、ありがとうございました。最後に、気になっている“テレビ屋”を伺いたいのですが…
『ザ!世界仰天ニュース』の総合演出をやられている厨子王の石田昌浩さんです。超レジェンドなんですけど、番組作りに関しても働き方に関しても昔の常識にとらわれず、今の感覚にアップデートされていて、本当にすごいなと思っています。いろんな番組の演出が集まってご飯を食べたときに「次集まるときまでに誰が一番自分の番組で高視聴率とれるか争おうぜ!」って呼びかけられたり(笑)。その向上心もすごいですし、『仰天ニュース』で森友問題などめちゃくちゃ攻めた企画をやってらっしゃるし、第一線でチャレンジングなことをやり続けていて、とにかくすごいお方です。
――お仕事は一緒にされていないんですか?
一緒に仕事をしたことはないんですが、もし、自分が『24時間テレビ』をやる日が来ることがあれば、ご一緒したいなと思っている人でもあります。
――まだ女性で『24時間テレビ』の総合演出をやった人はいないので、ぜひその日が来ることを期待したいです。
番組の持っているものが重すぎるので、生半可な思いではできないという気持ちがずっとあるんです。自分があの番組をやるのにふさわしい人間なのだろうか、やるところまでいけているのだろうか…という葛藤ですね。もちろん、これまでも入社以来何かしらコーナーは担当しているんですけど、もし「やれ」と言われたらやってみたいと思います。
次回の“テレビ屋”は…
『ザ!世界仰天ニュース』総合演出・石田昌浩氏
注目を集めるテレビ番組のディレクター、プロデューサー、放送作家、脚本家たちを、プロフェッショナルとしての尊敬の念を込めて“テレビ屋”と呼び、作り手の素顔を通して、番組の面白さを探っていく連載インタビュー「テレビ屋の声」。今回の“テレビ屋”は、『上田と女が吠える夜』(毎週水曜21:00〜)の演出をを務める日本テレビの前川瞳美氏だ。
○美大の絵画学科からテレビ局へ
――当連載に前回登場した『テレビ千鳥』の山本雅一さんから、「知り合いから美大卒で次世代の最も勢いのある優秀な女性ディレクターがいると聞きました。面識はないですが、一方的に存じておりました」とご指名いただきました。
『テレビ千鳥』はよく見ています。スタッフも演者もやりたいことをやってる感じがすごくうらやましいです。山本さんの奥様(日本テレビ社員)から、「家で笑いながらオフライン(編集作業)してる」と聞いていて、そんなに楽しく仕事できるなんて、ディレクターとしてこんなに幸せなことはないよなあと。そういう意味でも、すごくいい番組だなと思いますね。
――美大の絵画学科にいらっしゃって、そこからなぜテレビ業界を志そうと思ったのですか?
美術作家になりたくて美大に行ったのですが、入って半年ぐらいで挫折しまして。自分はアート作品を作って生きていくということはできないだろうなと察してしまったんです。
――あと3年半もある中で…。
そうなんです。学費も高いですし。そこで、映像制作的なことをやっていて、今で言うYouTuberの走りみたいな。現代アートと称して自分でいろんなことにチャレンジするとか、自作自演のコントをやって、主に学校とかで発表したりして、終盤はYouTubeにもアップしていたんです。
それと、美術業界って結構狭い世界で、美術が好きな人の間でしか見てもらえないというジレンマもあり、もうちょっといろんな人に見てもらえるもの作りをしたいなって思ったときに、テレビ局がいいのかなと、短絡的な発想で。
――山本さんは「僕は加地(倫三)さん、前川さんは古立(善之)さんという師匠がいるなど、共通点も多いのではないかと思います」とおっしゃっていました。
ロケは基礎から全部、古立さんに教わりました。『(世界の果てまで)イッテQ!』では、「自分がやっても面白くなるネタなのかどうかを考えろ」と言われまして。要するに、「このタレントさんがやったら面白くなるだろう」という視点で企画を考えるのではなく、いいネタやいい企画というのは、自分や一般人がやっても面白くなる、ということ。それは、最初に配属になった『人生が変わる1分間の深イイ話』でトシさん(高橋利之氏)にも言われました。「これはアナウンサーがやっても面白くなる企画なのか?」を考えた方がいいと。
――『イッテQ!』では、自ら出役にもなりますよね。
『イッテQ!』は、「どんな手を使ってでもオチを作らないと」というプレッシャーが全ディレクターにあると思います。海外でゲテモノを食べたり、バンジーをやったり、それまでの過程が面白くても、最後にオチてないと丸ごとカットになることもある。だからカットになるくらいなら、自分が体を張ろうっていう気持ちになるんです(笑)
――古立さんの番組だと『月曜から夜ふかし』もご担当されていました。
印象に残ってるエピソードで言うと、西葛西(東京・江戸川区)にいるインドの方に「日本に来て感動したこと」や「すごいと思った日本の商品」を聞いてくる街録(街頭インタビュー)があったんですけど、あまり面白いインタビューが撮れなかったんです。そのとき、私も人間的に未熟だったんで、「そんな理想とするものは撮れませんよ!」って、古立さんに逆ギレみたいな感じで言ったら、「普通にやって撮れなかったら、例えば“日本で一番好きなカレー味のお菓子はなんですか?”とか、なんて答えても面白いと思えるような聞き方を考えろ」って怒られまして。古立さんは優しいので基本怒らないんですけど、その時は明確に怒られたので記憶に残ってます。
それ以来、「“これ以上は無理だ”と諦める前に、自分は手を変え品を変え、面白くなるように最大限努力したのか?」というのは、自分の心の中にお守りのように今もずっとありますね。
――『月曜から夜ふかし』は相当な人数にインタビューしてると聞きますが、むやみやたらに聞き回るのではなく、工夫も相まって面白い人と出会うんですね。
私は街録がそんなに上手くないんですけど、やっぱり上手いディレクターだと、「同じ相手に聞いてもこの人が聞いてるから面白い答えが返ってくる」ということがよくあるので、『夜ふかし』の街録は本当に職人技だと思いますね。
――山本さんからは失敗談も聞きたいということだったのですが、今の怒られた話はまさにですね(笑)
そうですね。あとはマネージャーさんとケンカしそうになったとか、不穏な話しかないんで(笑)
――結構武闘派なんですか?(笑)
いや、武闘派じゃないんですよ。全然気弱で言えないから、「女たちが悪口を言う」っていう番組が生まれたんでしょうね。心の中で言いたいことを溜めちゃうんで、腹が立ったことを全部メモるんです。
『上田と女が吠える夜』(日本テレビ系、毎週水曜21:00〜) ※5月15日は2時間SP (C)日テレ
○「女性ならではの番組」は避けていた
――そこから企画されたのが『上田と女が吠える夜』ということですが、どのような経緯で誕生したのですか?
単発の特番をやらせてもらえることになって、そのために考えた企画があったんですけど、それが「やっぱこの企画面白くないからダメだ」と言われて、急ごしらえで考えたのが『上田と女』の前身になる番組だったんです。
よく「女性らしい感性のもの作りを期待してます」とか言われることがあるじゃないですか。でも、自分的には「別に私は女性代表でもないし、そういうつもりでやってないしなあ」と思ってましたし、ゴリゴリのお笑いをやりたい気持ちがあったので、いわゆる女性をターゲットにした番組というのを避けて通っていたんです。「女性が集まってみんなで悪口を言う」っていう企画のアイデアは前からあったんですが、「女性ならではの番組だね」と言われそうな気がしてずっと出していませんでした。でもその窮地に陥ったんで、「これを出すしかない」と。
――この番組は「令和版 枕草子」という思いを込められていると聞きました。
清少納言はめちゃくちゃ鋭い観察眼を持っていて、それを的確に文章化することに長けた人なんですよね。美しい描写もあるけど、今読んでも共感できるような悪口もいろいろ書いてあって、それこそ「人の悪口ほど面白いものはない」みたいなことも書いてあるので、1,000年前から悪口はひとつの娯楽だったんだと思ったんです。
●とにかく真面目な女性レギュラー陣「向上心がとてつもない」
――MCは百戦錬磨の上田晋也さんです。
上田さんは九州男児ですし、男っぽいからこの番組に合うのかな…と思っていた部分はあったんですけど、始まってみて気づいたのは、女性に対して高圧的な部分はなく、むしろ女性に対するリスペクトが根底にある人だなと。それがあったので、初めて収録したときに、「見えたな」という感じがありました。
――女性のレギュラー陣も、トークの猛者たちが集結しています。
皆さん、とにかくめちゃくちゃ真面目ですね。この番組のために、日々腹が立ったことをメモしていただいてますし、大久保(佳代子)さんは聞くところによると、この番組がレギュラーになってからネタ発掘のためにいろんな人と飲みに行くようになったり、私生活がちょっと変わったそうなんです。若槻(千夏)さんは「家族全員で若槻千夏だよ」とおっしゃってるらしくて。要するに、「旦那も子どもも若槻千夏の一部だから、面白いネタがあったらお寄せください」って感じでみんなでネタを集めているそうです(笑)。この向上心が、皆さんとてつもないんですよね。
大久保佳代子 (C)日テレ
――ひな壇で並んでいると、「ここで負けられない」みたいなライバル心も出てくる感じですか?
うちの番組はチームプレーだと思います。1人が突出して目立てばいいっていうのではなく、誰かがちょっとスベったら誰かがフォローに入るとか、自分が長くしゃべったらこの人の時間がなくなるなとか、そのへんをすごく計算しながら皆さんがやってくださってるなっていう感じがしますね。
――その女性陣の中で、ファーストサマーウイカさんは、この番組が初めての単独バラエティ出演でした。ここまでブレイクするという予感はあったのですか?
新たなスターを発掘したいということで、特番時代からずっとオーディションをやっていて、ウイカさんもそこに来ていただいたんですが、その段階から担当ディレクターが「違う」「この子だったらいける」と言ってましたし、初めて出てもらったときからすごかったですね、
――そんなウイカさんが、大河ドラマ『光る君へ』で清少納言役に起用されました。
私はレギュラーの皆さんのことを現代の清少納言だと思ってるので、「こんなことがあるんだ!」と思って、うれしかったですね。やっぱり大河のスタッフの方も、ウイカさんに独特の着眼点とか、どこか毒気があるとか、清少納言みを感じたんじゃないかと思いますね。
ファーストサマーウイカ (C)日テレ
――他にも「見つけた!」という方を挙げるとどなたになりますか?
私的にはですね、爛々(らんらん)というお笑いコンビがすごくいいなと思っているんです。オーディションのときから良かったですし、何回も出ていただいてます。着眼点もすごいですし、キャラクターとしてもすごくいいなと思っています。
○「自分の世界とつながっている」と感じるトークテーマに
――これまでを振り返って、印象的なトークを挙げるとすると何でしょうか?
皆さんの話を聞いてて「枕草子っぽいな」と思うことがよくあるんです。例えば、街の女性に「どういうときに寂しいと思いますか?」と聞いたときに「スーパームーンのような天体ショーはみんなでSNSで盛り上がれるけど、今道端に咲いてる花のような、何げない美しいものを、きれいだねって言い合える人がいないことに気付いたときに孤独を感じます」と言われて、繊細な感性に心震えたり。
スタジオの女性陣の皆さんも、MEGUMIさんが「すごい帽子をかぶってサングラスをかけた女性が颯爽と歩いてきて、どこのタレントかなって思ったんだけど、サングラス取ったらどこの誰でもなかった」という話とか、若槻さんが言った「並んだお皿で隠れミッキーをすぐ見つける女」とか、着眼点が素晴らしいなと思ってすごく印象に残ってます。
――トークのテーマ設定はどのように意識されているのですか?
「共感できる」というところを大事にしてます。タレントさんの世間離れした話とか、”芸能界あるある”的な話ばかりになると、視聴者が共感できる要素がない。なので、「人見知り」「メンタル弱い」「寂しがり」とか、あえてネガティブだったりコンプレックスに感じるようなことを選んで、多くの人が当てはまる普遍的なテーマを考えています。街頭インタビューを入れているのも、見ている人に「自分の世界とつながっている」と感じてもらうためです。
――レギュラー化して2年で、元日のゴールデンタイムを任される(※)人気番組になりましたが、支持を受ける理由はその「共感」というところですね。
(※)…能登半島地震の報道特番で後日振替放送。
そうですね。普通のトーク番組だとタレントさんの鉄板トークを聞いていくものが多いと思うんですが、この番組は必ずしも笑いだけじゃなくて、視聴者の皆さんにとって自分事になってもらえてるのではないかと思います。それと、自分が普段、日常生活で言えないようなストレスを、タレントの皆さんが代わりに言ってくれる気持ちよさもあると思います。
――そうすると、数字を見ると男女比は圧倒的に女性のほうが多いですか?
そうですね。
●「悪口を言い合う」番組の炎上リスクは
――「悪口を言い合う」という着想でスタートし、そこからゴールデンのレギュラー番組として成立させるにあたって、苦労した部分はありますか?
そこは結構悩みましたね。この番組のファンの方は、悪口が好きで愛してくれてる部分もあるけど、毎週悪口を言い合うのはちょっとネタ的にもきついかなと。それと、特番のときから時代の風向きが若干変わってる感じがあったんです。
前身の番組を立ち上げた2016年頃は、「インスタ映え」という言葉が流行して、SNS中心の生活でみんなストレスが溜まっている感じがあった。この番組ではSNSで感じるモヤモヤについて言及することも多いですし、そこが一番視聴者に刺さった部分だと思います。でも今はSNSのモヤモヤに言及するのも1周回った感じがあって。それと、自己肯定ブームもあって、悪口に対する風当たりも強くなってきた中で、どうやって落とし込んでいこうかと悩みました。
――炎上リスクというのは、どう考えていますか?
「悪口を言う」ということについては、こっちも演者さんも腹を決めてやってるから、多少のことは許容しますが、予期せぬところで炎上してしまうのは本意ではないので、言い回しが少し言葉足らずで、そこを切り取られてタレントさんが傷つくことがないように、編集はかなり繊細にやっています。テロップの出し方もそうですし、この言い回しはちょっと感じ悪く取られるなと思ったら、もう切っちゃいますね。
――制作側が編集でケアする分、スタジオでは臆することなく自由にやってもらおうと。
そうですね。
――4月からスタートした『上田と女がDEEPに吠える夜』は、より社会的なテーマを取り上げることになりますから、一層注意するところですよね。
そうですね。少し過激に見えたり、繊細なテーマを取り上げることも多いので、いろんな人に「倫理的に違和感があったら言ってください」とお願いしています。ただ、炎上とは言わずとも、番組のコンセプトやテーマが視聴者から敬遠されてしまう可能性もあるとは思っています。でも、視聴者から嫌われても「やる意味がある番組」だと思ってます。
『上田と女がDEEPに吠える夜』(日本テレビ系、毎週火曜23:59〜) (C)日テレ
○数字よりも大事なことを…『DEEPに吠える夜』
――そもそも、どのような狙いで『上田と女がDEEPに吠える夜』を立ち上げることになったのですか?
ゴールデンでやっていて、もうちょっと突っ込んだ女性の悩みとか、女性に対する誤った先入観や価値観に対してもっと語れるような場が欲しいなと、ちょっと前から思っていたんです。その矢先に番組を立ち上げる機会を頂きまして。ある種の臭いものに蓋してきた部分やタブーになっていた部分をあえて取り上げて、もっと生きやすい世の中になればいいなというのが、裏テーマにあります。
――真面目な部分とバラエティの笑いの部分は、どのように考えていますか?
ゴールデンほど笑い中心ではないですが、視聴者の方の反応を見て、バランスを考えていこうと思いますね。数字よりも大事なことがあると思ってやっている感じです。
――その部分で、上田さんに助けてもらう部分もあるのでしょうか。
そうですね。性教育とか女性の下着といったテーマで、上田さんが何を語るのか想像できない部分もあったんですけど、実際に始まったら本当に見事に回してくださって。聡明でいらっしゃるので、どんな分野でも知識が豊富で、上田さんへのリスペクトがまた深まっている感じがあります。
――『news zero』の直後という枠は、社会的なテーマを取り上げるのに適しているかもしれないですね。
確かに、ゴールデンとは違う層が見てくれている感覚はあります。初回は「性教育について考える」というかなり社会派なテーマでしたが、「『上田と女が吠える夜』は見たことないけど、この番組は気になって初めて見た」というような感想もいくつかありました。とは言え、まだ24時台というのがどうなのか、自分でもつかみきれていない部分がありますね。
ただ、『月曜から夜ふかし』をやってた時間帯と考えたら、うまくハマりそうな気がします(笑)。あの番組は「『夜ふかし』だから許される」みたいなところがあるじゃないですか。なので、『DEEPに吠える夜』も、そういう解放区的な番組になっていったらいいなというのがありますね。
●番組ロゴで視認性を無視した結果…
――美大出身ということで、そこで学んだことが番組制作で生かされている部分はありますか?
昔は深夜でお金がないときに、番組で使うイラストを自分で描いたりしてましたね。『上田と女』に関しては、番組ロゴって、視認性が大事だと思うんですけど、ロゴって番組のセンスが一発で分かる部分だと思っていて、読みやすさはもういいやと。タイトルの文字面がダサくても、ロゴさえカッコよければおしゃれな番組に見えると思っているので、視認性を無視して、読みづらいけどカッコいいロゴにしたんです。そしたら『THE W』の副賞(番組出演権)の紹介で、「女」が読めなかったみたいで、『上田と七人が吠える夜』って間違えられちゃって。視認性を取らなかったツケがここで回ってきました。
(C)日テレ
――テロップやスタジオセットなどはいかがですか?
テロップもビジュアルの一つとしてはこだわってますね。セットに関しては、自分のやりたいおしゃれさと、みんなに受け入れられるところのバランスを取ったという感じです。
――トーク中は常にBGMが流れている印象があります。トークの内容によって曲を変えてるので、そこもこだわっているのかなと思ったのですが。
たしかに多いかもしれないですね。この選曲は、全幅の信頼を置いている音効さんにお願いしています。紅ゆずるさんが出たときにX JAPANの「紅」がかかったり(笑)。のんびりタイプの人がしゃべりだして、いい意味で空気が止まりそうだなというときに、変な曲がかかったりしてますし。
あとはSE(効果音)も多いと思います。SEに関しては、当時制作局の局長だった加藤幸二郎さん(現・日テレ アックスオン社長)に「テレビの画面を見ていなくても、耳に入っただけで“あの番組だ”って分かるSEをつけた方がいい」と言われて、トークネタがモニターに出る時など、あえて若干違和感のあるSEを音効さんに付けてもらっています。
○「誰もが尊重されるべき世界」で前向きな番組作り
――近年は「コンプライアンス」がより叫ばれるようになるなど、バラエティを巡る制作の環境の変化はどのように感じていますか?
当然できないことが増えてるというのはあると思うんですけど、全然後ろ向きに思ってなくて。要するに昔はもっと弱い者に厳しい世界だったわけじゃないですか。女性もそうですけど。そこからどんどん時代がアップデートされて、誰もが尊重されるべきという世界になってきてると思うんですよね。それは当然いいことだし、様々な配慮とかもこれまで傷ついてきた人たちを守るためにやっていることなので、私はすごく前向きに、今の時代にフィットしながらやっていきたいという気持ちです。
――今後こんな番組作ってみたいというものはありますか?
やっぱり自分がロケ番組で育ってきたというのもあるので、ガッツリのロケ番組は1つやりたいなと思いますね。トーク番組はタレントさん頼りのところがあるんですが、ロケだとよりディレクターの腕が求められて、自分に向き合えるような気がするんです。なので、トーク番組はタレントさんに助けてもらっているという意識を忘れないようにしています。
――『上田と女』の正月特番で台湾の開運ロケもやっていましたし、こちらも企画・演出を担当するKing & Princeさんの『キントレ』でもロケ企画を入れていますよね。
『上田と女』でロケに出るのはあれが初めてだったんですが、好評だったのでまたやりたいなと思いますね。ロケはスタジオよりも、より人間性が出るものだと思っているので、『キントレ』ではKing & Princeの2人に毎回ロケに出てもらっています。永瀬廉くんの生意気なんだけど結果ロケが終わる頃には取材先の方にベタ褒めされる「人たらし」な部分や、高橋海人くんの「手先は器用」なんだけど「性格的には不器用」で、人見知りな自分と葛藤しながら頑張っている部分など、視聴者の皆さんに愛してもらえたらいいなと思ってやっています。
――ご自身が影響を受けたテレビ番組は、何ですか?
本当に好きな番組として影響を受けたのは『ごっつ(ダウンタウンのごっつええ感じ)』(フジテレビ)なんですけど、今の番組作りにつながってるという意味で言うと、『恋のから騒ぎ』(日本テレビ)とか『ねるとん紅鯨団』(関西テレビ)とかになりますね。
――『ねるとん』がやってた頃なんて、全然子どもじゃないですか?
5〜6歳のときに見ていて、好きだったんですよ(笑)。女の子って早熟じゃないですか。大人の世界を覗き見ているような後ろめたさと好奇心があって、ほかにも『キスイヤ(キスだけじゃイヤッ!)』(読売テレビ)とか、いわゆる大人が恋愛を語るような番組が好きで見てたんですよね。『上田と女』も、周囲の人から「うちの小学生の娘がすごい好きなんだよ」と言ってもらえることがあって、大人の女性たちの話を背伸びするような気持ちで見てくれているのかなと思うと、自分の小さい頃とつながっているような気がして、うれしいです。
――いろいろお話を聞かせていただき、ありがとうございました。最後に、気になっている“テレビ屋”を伺いたいのですが…
『ザ!世界仰天ニュース』の総合演出をやられている厨子王の石田昌浩さんです。超レジェンドなんですけど、番組作りに関しても働き方に関しても昔の常識にとらわれず、今の感覚にアップデートされていて、本当にすごいなと思っています。いろんな番組の演出が集まってご飯を食べたときに「次集まるときまでに誰が一番自分の番組で高視聴率とれるか争おうぜ!」って呼びかけられたり(笑)。その向上心もすごいですし、『仰天ニュース』で森友問題などめちゃくちゃ攻めた企画をやってらっしゃるし、第一線でチャレンジングなことをやり続けていて、とにかくすごいお方です。
――お仕事は一緒にされていないんですか?
一緒に仕事をしたことはないんですが、もし、自分が『24時間テレビ』をやる日が来ることがあれば、ご一緒したいなと思っている人でもあります。
――まだ女性で『24時間テレビ』の総合演出をやった人はいないので、ぜひその日が来ることを期待したいです。
番組の持っているものが重すぎるので、生半可な思いではできないという気持ちがずっとあるんです。自分があの番組をやるのにふさわしい人間なのだろうか、やるところまでいけているのだろうか…という葛藤ですね。もちろん、これまでも入社以来何かしらコーナーは担当しているんですけど、もし「やれ」と言われたらやってみたいと思います。
次回の“テレビ屋”は…
『ザ!世界仰天ニュース』総合演出・石田昌浩氏