ショッピングモールの定番ブランドであるアパレル小売のエクスプレス(Express)が憶測が飛び交った数カ月間を経て、4月22日に連邦破産法第11章の適用を申請したとき、かつて消費者からもっとも愛されたあるD2C企業の将来について疑問が浮かび上がってきた。

それは、エクスプレスが、アンディ・ダン氏が共同設立したメンズウェアの新興企業、ボノボス(Bonobos)も運営しているからだ。2007年に創業したボノボスは、フィットガイドであるスタッフの助けを借りて、男性がよりフィットする服を見つけられることを目標としている。同社は、「カーキ ダイパー バット(khaki diaper butt、ヒップ部分がオムツをしているかのように膨らんで見える格好の悪いデザインのパンツ)」問題を解決すると宣言し、大々的にマーケティングを行ってきた。

ボノボスの現在の所有構造は少々複雑だ。ブランド管理会社のWHPグローバル(WHP Global)は昨年、ボノボスブランドを5000万ドル(約80億円)で買収するが、(WHPグローバルの傘下である)エクスプレスが2500万ドル(約40億円)を投じて営業資産を取得し、ボノボスの関連負債を2500万ドル(約40億円)で引き受けると発表した。破産発表のプレスリリース内で、エクスプレスは自社95店舗とアスレジャーブランドのアップウエスト(UpWest)の全店舗を閉鎖する計画だと述べた。しかし、ボノボスの店舗はそのまま残されるようである。

追い討ちをかけられたボノボス



このような状況は、過去6年間にリーダーシップの交代を何度も経験してきたボノボスにとって失墜を意味する。ボノボスは2017年にはトレンディなブランドで、ウォルマート(Walmart)により3億1000万ドル(約490億円)で買収された際には、同年の売上高は1億5000万ドル(約237億円)に達すると報じられていた。しかし、それ以来ボノボスはメンズウェアのカジュアル化への対応に苦戦している。一部のアナリストはボノボスが新規顧客の獲得に最大限の投資を行っているとは思えないと話す。2社の所有下にあるボノボスは明確で長期的な成長戦略を策定していない。

そして、いま、エクスプレスの破産申請により追い討ちをかけられている。

数字を見ると、ボノボスが当初の3億1000万ドル(約490億円)の価値に応えられなかったことは明らかだ。依然成長はしているものの、それほど大規模ではなく、また、おそらく過去6年間で一部から予想されていたほどのスピードでもない。

エクスプレスは、ボノボスは2023年の第2四半期から第4四半期にかけて1億2500万ドル(約198億円)から1億5000万ドル(約237億円)の収益への軌道に乗っていると述べていた。エクスプレスは2023年の第1四半期にはボノボスを所有していなかったため、第1四半期の売上高はその推定値には含まれていない。もし、ボノボスが2023年の第2〜第4の3四半期で約1億5000万ドル(約237億円)の売上を上げたとしたら、年間売上高はおそらく約2億ドル(約316億円)になるということであり、ボノボスが発表した2017年の売上高である約1億5000万ドル(約237億円)と比べて約5000万ドル(約79億円)高いことになる。

グローバルデータリテール(GlobalData Retail)のマネージングディレクターであるニール・サンダース氏は、親会社のエクスプレスと比較すると、少なくともボノボスは「まだ機能しており、関連性と重要性を持っているブランドだ」と考えている。

それでも同氏は、ボノボスは「顧客獲得という点ではまだ本格的に尽力していないだけだ」と考えているという。「ボノボスはまだ非常にニッチな分野に留まっており、ロイヤルティの高い顧客に依存していると思う」。

「道を踏み外す」かどうかの危うい境界線



ボノボスの問題の一部は、ウォルマートのような戦略的買収企業がデジタルネイティブブランドをどうするか検討していた時期に買収されたことである。当時はデジタルネイティブブランドを買収すれば、大手小売業者がeコマースを理解するのに役立つだろうという考え方が主流だった。あまり取り上げられなかったのは、ウォルマートのような企業がブランドの長期的な成長を支援するためにD2Cブランドにどのような投資を行うかということだった。

実際、ウォルマートがボノボスを買収したときにはウォルマートがボノボスを変え過ぎるのではという懸念を抱いた長年のファンもおり、また、顧客の中にはボノボスは「魂を売った」とまで非難する人もいた。

買収後の数年間、新CEOのミッキー・オンルバル氏は数々のインタビューでボノボスはそれほど変わっていないということを慎重に言及していた。ボノボスが語ったことの多くは、ウォルマートが同ブランドを成長させるために行ったことではなく、ウォルマートがボノボスの文化をいかに変えなかったかについてであった。

ウォルマートは自社ウェブサイトでボノボスの商品を販売したことはなく、また販売する計画も一切発表しなかった。また、ボノボスは、ウォルマートが買収したモドクロス(Modcloth)やエロクイ(Eloquii)などのデジタルネイティブブランドのコンソーシアムと並行して、独立して運営されていた。

しかし、ウォルマート幹部の一部がこのようなデジタルネイティブブランドが費やしている金額に不満を抱き始めたため、2019年までに焦点はコスト削減に移った。同年、ボノボスは解雇を実施。ウォルマートは2019年にモドクロスを売却し、2023年にはエロクイを持ち株会社のフルビューティブランズ(FullBeauty Brands)に売却した。

この数年間にボノボスはブランド成長のために多額の投資を行った。ウォルマートの傘下となったボノボスは、35店舗ほどだった小売店舗(ボノボスは「ガイドショップ」と呼ぶ)を60店舗以上に増やした。

サンダース氏は「ウォルマートがボノボスを放置していたとは思わない」と言い、ウォルマートには「このブランドを拡大するための壮大な計画がなかった」と付け加えた。

ウォルマートがボノボスの売上高を公表したことはなかったが、新型コロナウィルスのパンデミックがボノボスの売上に打撃を与えた可能性は高い。主力商品が体にフィットするタイプのメンズウェアであることを考えると、ボノボスは在宅勤務時代に男性が再びワークウェアに興味を持つようになる方法を考え出さなければならなかった。ボノボスは2021年9月に「仕事復帰」キャンペーンを実施し、スウェットパンツをやめるように男性たちに呼びかけた。オンルバル氏はアドウィーク(Adweek)に対し、「これを考えたとき、多くの人々が職場復帰すると思っていた」ことを認めている。この予測は当たらなかった。翌年にはコメディアンのニック・クロールを起用した派手なテレビキャンペーンを実施した。

サンダース氏にとって、ボノボスの核心的な問題は「紳士服市場がいっそうカジュアル化している」という事実に十分に対応できなかったことだという。

さらに、ボノボスがエクスプレスに所有されていたのはこの新しい親会社が破産を申請するまでの短い期間だけだった。エクスプレスのこの1年間における不安定な財務状況を考えると、エクスプレスにはこの新しいブランドに投資する時間も資金もなかったのである。

D2Cに対する進化するアプローチ



書面上では、ボノボスはD2CブランドがD2Cリテール環境で成功するためにやるべきだと言われていることの多くを実行してきた。ボノボスはある問題を解決するために設立されたが、多くのアナリストによればその問題は現在でも存在している。ボノボスは卸売パートナーシップを追加し、オンラインだけではなくオフラインでも顧客にリーチするために多数の小売店をオープンした。また、Facebook広告にとどまらず、テレビキャンペーンへの投資や、大学のキャンパスツアーなど異なるオフラインマーケティング戦略を試みた。

問題はこうした戦略に対して十分な投資が行われていなかったかもしれない点だ。メディア・アド+コマース(Media, Ads + Commerce)の独立アナリストであるアンドリュー・リップスマン氏は、長年にわたりボノボスは多くのD2Cブランドと同じような立場にあると感じていると語る。

ボノボスの創業当時、Facebookではそれほど多くのブランドがマーケティングを行っていなかったため、Facebookでの低広告料金を利用することができた。しかしその後、デジタル広告市場に参入する企業が増えるにつれ、広告価格が上昇し、「その環境で成長することがより困難になった」。キャスパー(Casper)やエバーレーン(Everlane)などの他企業も同様の課題に直面した。

この混乱を乗り越えて、主流ブランドになることができたD2Cブランドは「最終的には文化的な関連性を生み出す必要がある」とリップスマン氏は言う。それは、新しい顧客トレンドに対応する一方で、店舗を通じて多くの顧客にリーチしたり、テレビ広告に投資したりするなどさまざまなことに資金を費やすことで実現できる。

課題は、顧客は気まぐれであり、ボノボスのような企業の多くは市場で人気の新ブランドではなくなったときに消費者からの関心を維持できなくなっていることである。

リップスマン氏はD2Cスタートアップのマーケティング戦略について、「進化がある程度あったのは間違いない。だが、ブランドの永続的な成長を真に推進することを行うよりも、(それほど効果的ではないような)周辺部分をいじくり回しているように思える」と述べた。

[原文:DTC Briefing: Express’s bankruptcy ensnares Bonobos]

ANNA HENSEL(翻訳:ぬえよしこ、編集:戸田美子)
Image via Bonobos