ドラマ『Destiny』第4話、描かれたそれぞれの“12年”。35歳…終わってくれない青春と友情

写真拡大 (全4枚)

<ドラマ『Destiny』第4話レビュー 文:木俣冬>

真樹:「いまの忘れて」
奏:「無理だよ」
真樹:「じゃあ忘れないで」

なんですか、この会話は! 真樹(亀梨和也)、人たらし!

罪な男・真樹のもとへ「行ってはダメ、わかっているのに」と思いながらも行ってしまった奏(石原さとみ)。もう離れられない感じで終わった第3話からの第4話。

ふつうの恋愛ドラマであれば、このまま元サヤで終わってしまうところだが、『Destiny』は殺人事件が関与しているため簡単には済まない。

「いったい何をしたくて帰ってきたのか」という真樹の自問自答がおもしろく、そのまま真樹の回想がはじまった。

真樹はいろいろ重いものを抱え込んでいて基本シリアスなのに、なぜか時々、ツッコミどころがある。

真樹パートは、真樹の回想による、彼の生い立ちから第1〜3話までのおさらいだった。

横浜の名士の家に生まれた真樹。母は幼い彼を置いて家を出てしまい、高校時代の真樹(羽村仁成)は父・浩一郎(仲村トオル)に反抗し続けて長野の大学に行く。

真樹が横浜、祐希(矢本悠馬)は川崎出身で、やがて奏が横浜地検で働くようになり横浜に住むとは、これもまた運命(デスティニー)!

そして、再び奏パートへ――。

(※以下、第4話のネタバレがあります)

◆止まってる12年と、進んでる12年

顔を洗いながら、真樹との再会を洗い流そうとする奏。貴志(安藤政信)は広い家に引っ越さないかとか、弁護士にならないか、などと提案する。

貴志はじょじょに奏を束縛しようとしはじめているように見える。彼も医者として忙しいから、支えてほしい気持ちもわかる。

真樹さえ現れなかったら、結婚して弁護士になって……という選択肢もあったかもしれないが、真樹のせいで奏は検事としての仕事に執着する。

これもまた仕事なのか私情なのかはっきり切り分けず、あやふやなところがこのドラマの魅力である。

あるとき真樹が待ち伏せていて話があるというので、奏は仕事場に真樹を招く。立派な個室に少し気圧されているような真樹は、コンビニの袋に入ったバニラアイスを渡す。

12年前、カオリ(田中みな実)に会いに行くとき「コンビニに行く」と嘘をつき、奏にアイスを買ってきてと頼まれた。

真樹のなかでは12年の時間が止まっていて、奏は12年、先に進んでいる。重厚な仕事場とコンビニ袋、その差異が残酷だ。例えば、お互いが12年分老いたなあと思うよりも残酷だろう。

【映像】仕事場の立派な個室…コンビニの袋に入ったバニラアイスを渡した真樹

アイスの袋をもらったときの奏の表情はやや複雑そうだった。少なくとも感動とか喜びではなく、どちらかというと苦笑にも見える。

ただのファンタジックな恋愛ものではなくて、12年の間に変わってしまった男女の機微みたいなものが描かれていることが興味深い。このディテールは小説のような味わいがある。

貴志は冷蔵庫に指輪。真樹は12年前のアイス。どちらもひんやり系というのはどういうことか。ふたりは自己表現が独特なところが少し似ていないか。

奏の好みタイプはこういうちょっととぼけた(不器用ともいう)感じの人なのかもしれない。そしてひんやりしたものが好きなのかも?

◆「ずっと友達でいようね」言葉の呪文

なんてことはさておき。

いまや完全に真樹と奏のパワーバランスは変わっている。取り調べのようになって、あの日、真樹とカオリに何があったのか。なぜカオリは事故死したのか。お葬式の日、真樹が「おれが殺した」と言った真意は……12年のときを超えて、疑問が解き明かされていった。

だいたい予想はついていたけれど、カオリが自棄になって車を暴走させたのを、真樹が止めようとハンドルを握ったため指紋がついたのだ。

カオリを止められなかったことをずっと悔やんでいた真樹。でも彼よりも重たいものを、12年間、抱え続けていた人物がいた。――知美(宮澤エマ)である。

そもそも、奏の父・英介(佐々木蔵之介)と浩一郎の確執の事件を見つけて、カオリに話してしまったのは知美だ。

「あれが最後になるなんて」と思いもよらなかったあの日。真剣に奏と真樹を心配するカオリに辛辣なことを言ってしまった知美。それがカオリの精神に大きな影響を与えたかはカオリにしかわからないし、カオリすらわからないかもしれない。

ただ、知美の事実を知ったあとだと、十三回忌で知美がカオリの両親に話していたときの印象はずいぶん変わって見える。

奏や真樹のことばかり追いかけて見ていたら、思いがけない知美の苦しみが噴出してきて驚かされる脚本の妙。

そのうえ、彼女の事情を夫・祐希は知っていて、彼女をまるごと受け止めて12年間ずっと黙っていた。彼の誠意が染みる。

「運命」に回収させているようで、その運命には多くの糸が絡み合っていることを描く、まったく油断のならない脚本である。

「私達の青春はあの日からずっと続いていたんだ。35歳のいまもまだ終わっていなかった」

人が死んでいるという特殊な状況ではあるが、青春や若き日の友情や恋愛にはこのように、苦い思い出があったりする。

「私達ずっと友達でいようね」と言ったカオリの言葉が呪文となって友情を繋ぎ止めている。彼女が犠牲になることで皮肉にも友情は続いているのだ。

こんなことがなければ、ありふれた友情の終わりを迎えていたかもしれないのに。

◆気になってくる第1話の冒頭シーン

「このまま家に帰れない」と言ってしばらく真樹と話していた奏だが、「忘れるねーキスは」と断ち切ろうとする。こんなふうに言えるようになったことも、すっかり奏が大人になった証拠である。12年前はものすごく初々しかったのに。元カノのこういう変化、辛いんじゃなかろうか。

真樹:「奏はやっぱり検事になったんだな」
奏:「そうだよ、なったよ」

こういうやりとりの繰り返しが、離れていた時の長さを何度も念押しするようだ。

ふたりの会話を遠くで見ていた人物がいた。――貴志である。

安藤政信がこれまで演じてきたやばい役がバイアスをかけてきて、こわいことが起こりそうな不安を煽る。

貴志だけは真樹の秘密を知っている。元彼と今彼が患者と医者とは、なんとも難しい。例えば貴志が真樹の手術を行う場合、真樹が治ったら奏は彼のもとに行ってしまうかもしれない。そんなとき貴志のメンタルは大丈夫だろうか。

すでに奏との関係をマウントしてしまうし、貴志は相当焦っていると見た。でも病気の真樹のメンタルを揺さぶってどうする。たとえ、いつか知られてしまうから早いうちにと思ったとしても、である。

「自分の正義を貫くこと、いや、正義を貫けるかどうか それが試される仕事かもしれないな」という英介(佐々木蔵之介)の言葉が、奏だけでなく、貴志にも課されることになるのだから、奏は罪深い。

そして、奏が過去の事件に近づいているとき、もっともいいやつと思った祐希に浩一郎が接近してくるとは、ここもまた油断ならない脚本である。陰謀が止まらない。

ところで、真樹がカオリを殺した疑惑は晴れたとして。そうなると第1話で、奏が真樹の調書をとるシーンが気になってくる。

奏が「この愛を裁けますか」と重たく問いかけていたあのシーン。冒頭の奏の早口をよく聞くと「あなたは今回“〇〇〇〇〇〇〇〇”という罪で逮捕されました」と言っている。第5話からまたぐっと物語が動き出しそうだ。