組織やビジネスリーダーは労働者の信頼を勝ち取ることに苦労している。そして、この問題は拡大している。

さらに悪いことに、互いに同じことを感じているようだ。

そして、あらゆる不幸な関係がそうであるように、双方の報復は手厳しい。雇用主の武器はレイオフ、オフィス勤務の義務化、低い透明性、危険なデジタル監視などだ。一方、従業員の武器は静かな退職、賃金に応じた労働、そしてもちろん退職だ。

社内の信頼について企業幹部に尋ねてみると、ほとんどの人が、信頼は強固な組織文化、高い生産性、従業員の満足と密接に関連していることに同意するだろう(あるいは、少なくともその考え方を受け入れるだろう)。一般的に、これらはすべて、ビジネスの成功と相関関係がある。2月に公開されたデロイト(Deloitte)の2024年グローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド(Global Human Capital Trends)調査によれば、調査の対象となったリーダー1万4000人のほとんど(88%)が、ビジネスを成功に導くには、従業員と組織の信頼と透明性にこれまで以上に注力することが重要だと述べている。ただし、その点について、意味ある進展を遂げていると回答したのはわずか13%だった。一方、雇用主を信頼していると答えた従業員はわずか16%だった。そのほかにも、雇用主と従業員の大きな断絶を浮き彫りにする調査結果は枚挙にいとまがなく、両者の距離が縮まる気配はない。

では、なぜ信頼はこれほど危機的な状況にあるのか?

パンデミック後のトレンドのほとんどがそうであるように、この質問の答えは複雑だ。しかし、ニューロリーダーシップ・インスティチュート(NeuroLeadership Institute)のリーダーシップおよびパフォーマンス担当特別研究員で、人事の専門家として20年以上の経歴を持つクリスティ・プルーイット=ヘインズ氏は、雇用主がオフィス勤務の義務化を推し進め始めたころ、転機が訪れたと強調する。ニューロリーダーシップ・インスティチュートは神経科学に裏打ちされたコンサルティングを提供しており、マイクロソフト(Microsoft)、ネットフリックス(Netflix)、ズーム(Zoom)をはじめとするフォーチュン100(Fortune 100)企業の68%以上に職場文化、リーダーシップ戦略、管理スキル、多様性、公平性、包摂性(DE&I)のアドバイスを行っている。

プルーイット=ヘインズ氏によれば、そのころから信頼が急降下し始めた。雇用主は従業員が自律的に働くことを信じていない、あるいは、全員が物理的に同じ場所にいなければ従業員を信じられないという事実に従業員が目覚めたときだ。そして、多くの従業員が、パンデミックによって実現した柔軟性が奪われると感じた。「雇用主が従業員にオフィス復帰を求めたとき、それが本当は従業員を信じていないという直接的なシグナルだった。雇用主は従業員が仕事をしているとは思っていなかったのだ」。

そして2023年、レイオフの大波が押し寄せた。レイオフの多くは、企業がまだ財務的に安定しているように見えた時期、従業員に嫌な形で伝えられ、従業員の雇用主に対する不信と断絶が急上昇したとプルーイット=ヘインズ氏は強調する。

「信頼がなければ、関係には多くの不確実性が付きまとう」とプルーイット=ヘインズ氏は話す。「従業員は1日後に何が起きるかさえわからない。そのような不確実性、つまり『自分の身に何が起きるのだろう?』という疑問は、燃え尽き症候群や不安につながり、誰もそのような状況にとどまりたいとは思わない」。その結果、従業員の離職率が高まり、忠誠心も徐々に失われていく。

しかし、静かな退職のようなトレンドが取り沙汰されても、ほとんどの従業員は自分の仕事に取り組みたいと考えている(ギャラップ[Gallup]の最新調査では、41%の従業員が、それがもっとも望んでいることだと回答している)。また、AIへの不安は現実だが、多くの従業員はこの急速に進化するテクノロジーを積極的に活用したいと考えている。従業員は雇用主に対し、自分たちがそのように考えていることを信頼し、それに従って行動することを求めている。

個人の幸福だけでなく、健全なビジネスのためにも、2024年、組織内のあらゆるレベルで信頼を取り戻すことが極めて重要になるだろう。どうすればこの信頼の危機を回避できるかについて、さまざまな職場の専門家に話を聞いた。

01 従業員データの乱用は信頼を壊す



従業員と透明性の高いコミュニケーションを行うことは、ここ数年、リーダーシップの常とう手段になっている。しかし、それはもはや、経営陣から従業員や株主への一方的なコミュニケーションだけの問題ではない。現在、(良くも悪くも)デジタル技術のおかげで、組織の「透明性」はより深いものになっている。しかし、透明性は進むべき道から大きく逸れているのではないかという懸念が高まっている。

企業は生産性を追跡するという名目で、従業員のキーボードやマウスの動きを追跡したり、カレンダーやメールのデータを掘り出したり、顧客との通話中の音声や動画を監視したりできるようになった。しかし、デロイトの製品および職場戦略担当バイスプレジデントであるスー・カントレル氏は、こうした熱心なデジタル監視が信頼をむしばんでいると強調する。

「従業員とその働き方を含め、ほぼすべてのものに透明性を持たせることができるようになった。そして、透明性はまるで金鉱のような扱いを受けている。正しく扱えば、信頼を高めることも可能だが、それが地雷となり、信頼を著しく損なう危険性もある。透明性はプライバシーと表裏一体だ」とカントレル氏は説明する。

デロイトの最新調査はまた、従業員による責任あるデータの利用が信頼を築く(驚くなかれ!)ことも示している。従業員は組織の責任あるデータ利用を確信している場合、組織を信頼する可能性が35%高くなる。ただし、組織が責任ある方法で従業員データや勤務データを利用していると確信している従業員はわずか37%だ。

「我々が透明性について主張していることのひとつは、懲罰的な結果を伴う監視やAI監視には決して使ってほしくないということだ。一部の生産性追跡ではこのようなことが行われている」とカントレル氏は話す。「むしろ組織が新たに入手したこれらのデータは、従業員にとってもビジネスにとってもより良い結果を生み出すために活用し、従業員の信頼を築いてほしい」。

そのためには、経営陣が考え方を変えなければならない。(マウスクリックやキー入力の追跡技術などによって)活動や労働時間を追跡するのではなく、仕事の質や進歩の度合いなど、人の成果を追跡することに注力すべきだ。「多くの組織はありとあらゆるデータを収集し、それを開示することで透明性を保とうとしているが、それは必ずしも信頼を築く方法ではない」とカントレル氏は補足する。

もし従業員データを追跡するのであれば、データを集約して匿名化し(当然のことだ)、データ収集の方法と理由を周知するため、従業員にオプトインしてもらうべきだ。

「透明性の概念を更新する必要がある」とカントレル氏は話す。「ただ透明性を高めれば、信頼も高まると考えがちだが、その透明性について、リーダーが組織の戦略や優先事項について従業員と情報共有することだという思い込みがある。それが信頼につながるのは確かだが、透明性にはさまざまな形があり、以前よりはるかに複雑で微妙なものになっている。そして、信頼を損なうリスクをはらんでいる。このバランスをうまく取ることができなければ」。

02 信頼はトップから



英国ロンドンを拠点に経営幹部のヘッドハンティングを手掛ける360xecの創業者兼CEO、スティーブ・ハイド氏も、組織内の信頼回復には早急な対応が必要だと考えている。「課題のひとつは、経営幹部のあいだにも信頼が存在しないことだ」とハイド氏は話す。「経営幹部は、自分たちが思い描いているようには機能していない。孤独な立場なのだ」。

それに加えて、経営幹部はその地位と影響力を理由に従業員から信頼されるべきだと考えていることも問題の一部だとハイド氏は強調する。「(経営幹部に)その権利はない。同じテーマについて話すとき、経営幹部の言葉が従業員の言葉より重要だということはない。そして、信頼される権利を得るまでは、経営幹部が従業員より信頼できるということはない」。ハイド氏によれば、一貫した行動をとることで初めて、従業員の信頼を勝ち取るための正しい道を歩むことができるという。

従業員が何を必要としているかを知ることも、人事部門だけでなく経営陣が受け入れるべき必須事項だ。そうすることで、厳密なビジネス指標にしか興味がなく、それが人間中心の戦略とどのように関連しているかを考えないひねくれた経営幹部に却下される可能性が低くなる。

その意味で、最高人事責任者(CHRO)と最高情報責任者(CIO)は互いをもっと信頼し、同じ目標を達成するため、もっと緊密に連携する必要があるとカントレル氏は強調する。デロイトの最新調査ではこの概念を「境界のない人事」と呼んでいる。本来、人事部門はリスクとともに、従業員データのプライバシーを守る立場にある。しかし、カントレル氏によれば、どのような従業員データを追跡するかについては、たいていIT部門が決定しているという。

「彼ら(人事部門)はそれを単独で行う必要はない」とカントレル氏は話す。「人事部門は境界のない人事のもうひとつの側面として、IT部門、組織、従業員と緊密に連携する必要がある。もうひとつの側面とは、人事リーダーと従業員の境界を取り払い、取り組みを共創することだ。従業員データの透明性に関する慣行や方針を持つつもりであれば。従業員自身がそれらの構築に参加する必要がある」。

03 従業員と成功を分かち合う



私たちは皆、世代ごとの仕事に対する考え方について、大ざっぱな一般論を多用することに罪悪感を抱いている。しかし、人事コンサルティング会社イントゥー(INTOO)とワークプレイス・インテリジェンス(Workplace Intelligence)が2月に発表した調査報告によれば、キャリア開発が支援されていないと感じているのはZ世代だけではない。労働者の3分の2(63%)が、雇用主は従業員のキャリア開発より生産性を重視していると答え、54%がキャリア開発について、自分が働く組織では完全に自己責任だと感じている。そして、労働者の25%(Z世代では44%)が、直接の結果として、今後6カ月以内に退職する可能性があると述べている。この調査は、米国の人事リーダー800人とフルタイム従業員800人を対象に行われた。

イントゥーの最高収益責任者(CRO)、ミラ・グリーンランド氏は、「より何かを求めている従業員が増加している」と話す。「ポストコロナの影響であれ、単に仕事を探すのではなく、自分の価値観や野心に沿った道を探すというZ世代の考え方であれ、(我々は今)仕事により多くのものを求め、私たち全員が人生に必要としているバランスを求めている」と話す。

そのひとつが勤務スケジュールの柔軟性であり、適切なキャリア開発を求める人もいる。イントゥーの調査報告では、46%の従業員が、上司はキャリア開発を支援する方法を知らないと回答している。「信頼を築く方法を理解し、部下を監督するだけでなく、指導する方法を理解しなければならない」とグリーンランド氏は述べている。

グリーンランド氏は、ある雇用主と従業員トレーニングへの投資について交わした会話に言及した。この雇用主が従業員トレーニングにあまり投資しない理由は、投資を正当化できるほど従業員が会社に長くとどまることが少ないためだった。かつて従業員が会社に10年以上とどまっていたころは、投資効果がもっと明確だった。現在、一部の雇用主はそれを負け戦と認識している。従業員トレーニングに投資しても、その従業員は退職し、新しいスキルを別の会社のために使うだけだ。しかし、グリーンランド氏は、このような考え方は捨てるべきだと助言している。

雇用主と従業員の関係には細心の注意が必要だ。バイオテクノロジー企業テンセイ(Tensei)をはじめとする多くのスタートアップの取締役に名を連ねるハイド氏は、雇用主の価値連鎖における重要な関係を覚える便利な方法を紹介してくれた。B to E to B to G to Cだ。「従業員、ビジネスパートナー、必要に応じて政府、そして市民とのコミュニケーションを実現しなければならない。市民が政府をつくり、政府がビジネスに影響を与え、ビジネスパートナーが政府の影響を受け、それがビジネスに影響を与える。そして、ビジネスにもっとも影響を与えるのが従業員だ。だからこそ、従業員に気を配り、従業員と話し、従業員と正面から向き合い、従業員に率直であることがあなたのビジネスであり、彼らのビジネスでもあるのだ」。

[原文:‘It’s a landmine’: Why does no one trust each other at work?]

Jessica Davies(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:戸田美子)