福田正博 フットボール原論

■パリ五輪を目指すU−23日本代表が、4月中旬から始まるアジア最終予選前に最後のテストマッチ・ウクライナ戦を行なった。その中継を解説した福田正博氏にチームへの期待と予選の展望を聞いた。

【光った田中聡の存在感】

 パリ五輪への出場権がかかる4月開幕の『AFC U23アジアカップ カタール2024』に向け、U−23日本代表の最後のテストマッチが行なわれ、U−23マリ代表戦は1−3で敗れ、U−23ウクライナ代表戦は2−0で勝利した。


テストマッチのウクライナ戦でゴールを決めた田中聡 photo by Sano Miki

 最近は高校卒業と同時に海外クラブに所属する選手が増えていることもあって、この年代はタレントはいるけれど、海外組を全員招集できるわけではないジレンマがある。そのなかで、大岩剛監督はこの2試合に招集した選手たちから、オリンピック最終予選に挑むメンバーを決めることになると思う。

 中心になるのは、ウクライナ戦で起用された選手たちと見ている。4−3−3を基軸としているが、私は4−2−3−1のほうが安定した戦いができるのではないかと思う。

 理由は田中聡(湘南ベルマーレ)の存在だ。田中の特長は、アップダウンの強度が高いところにある。これは現代サッカーで中盤の選手に求められるグローバルスタンダードだが、田中は自身や味方がボールを奪ったあとに相手ゴールに向かう意識がとても高い。もちろん、デュエルのところでも当たり負けしない強さがある。

 4−3−3では、アンカーの位置には藤田譲瑠チマ(シント=トロイデン)が入り、その前を荒木遼太郎(FC東京)と松木玖生(FC東京)が務めていた。その後、荒木と交代で田中が入ったが、外国人選手に対して守備面でのフィジカル強度が未知数の荒木の負担を考えると、いっそ最初から田中を藤田と並べて起用する4−2−3−1のほうが理にかなっているように思えたのだ。

【荒木遼太郎の攻撃力、山田楓喜のセットプレーに期待】

 荒木は間違いなく攻撃面で中心になれる選手だ。この2シーズンほどは故障に苦しんできたが、ようやく復調してきた。苦しい時間を過ごすなかで守備への意識も高まっている。ただ、フィジカル強度の高い相手やチームとの対戦で、荒木の持つ技術の高さをどこまで発揮できるかは未知の部分だろう。それでも彼が持ち味を存分に発揮できれば、U−23日本代表がパリ五輪出場への狭き門を通過できるはずだ。

 A代表はセットプレーのキッカーに課題があるが、その点においてU−23日本代表のほうが不安は小さい。そう思わせるのは、右FWに山田楓喜(東京ヴェルディ)がいるからだ。左足からの精度の高いキックは、A代表でも見たいと思わせるものがある。

 左FWには佐藤恵允が入る。昨年の明治大4年時にブンデスリーガのブレーメンに進んだ。もともとフィジカル強度に定評があったが、力強いプレーで左サイドからのチャンスメイクを期待している。

 1トップ候補は細谷真大(柏レイソル)か染野唯月(東京ヴェルディ)のどちらかになると思うが、現状では染野がスタメンに近いようだ。

 細谷はアジアカップでA代表経験を積んだが、プレーエリアで迷いがあるように感じられる。これは推測だが、1トップとしてボックス(ペナルティーエリア)の幅のなかで動くように求められているのではないか。とくに両サイドに強力なアタッカーがいる場合は、彼らのプレーエリアを邪魔しないようにとその傾向は強まる。

 私も細谷と同じようにピッチ幅を最大に使ってプレーするタイプだったが、動ける範囲がボックス幅に限定されてしまうと持ち味をうまく発揮できなくなったことがあった。細谷からも同じような迷いが感じられる。

 ただ、Jリーグでは左右に流れながら得点に絡む細谷らしさを取り戻しつつある。こればかりは自身で上手に使い分けできるバランスを身につけるしかないが、U−23日本代表でも左右に流れながら細谷らしさを見せるシーンがあってもいいのではないかと思う。

【今回ほど予選突破が難しい状況はない】

 楽しみなのはGKだ。パリ五輪世代にはA代表でスタメンを張る鈴木彩艶(シント=トロイデン)がいるが、ウクライナ戦に先発出場した小久保玲央ブライアン(ベンフィカ)は、パリ五輪代表活動の先ではA代表で鈴木と守護神争いをしても不思議はない。

 小久保は193cmのサイズがあるが、目を見張るのは足元でのボール扱いだ。つなぐところと蹴り出すところの判断も洗練されている。落ち着きがあって慌てる様子がまるでなく、動きにバタつきがないから周囲の味方も不安なく、ボールを預けることができていた。U−23日本代表のセンターバック陣は身長180cm台前半と、特別に高さがあるわけではないだけに、高さの面でも小久保の存在はU−23日本代表にとって大きいだろう。

 ただし、こうしたタレントのいるU−23日本代表だが、パリ五輪出場は楽観視できない状況にある。1月のアジアカップで示されたようにアジアのレベルは軒並み高まっているうえ、各国とも日本サッカーをしっかり分析して弱点を突いてくるからだ。

 U−23日本代表は、1996年アトランタ五輪から東京五輪まで7大会連続で出場しているが、今回ほど予選突破が難しい状況はなかった気がする。

 しかも、パリ五輪予選でU−23日本代表がグループリーグで対戦するのは、中国、UAE(アラブ首長国連邦)、韓国の3カ国。決勝トーナメントは各グループ上位2カ国の計8カ国で争い、パリ五輪出場権(3位まで。4位はアフリカ勢とプレーオフ)を手にするには決勝トーナメントで最低2回は勝たなければならない。これはワールドカップに出場するよりも難しい戦いと言っても過言ではない。

 それだけに4月16日のU−23中国代表との一戦から幕を開けるパリ五輪予選の戦いでは、しっかりとU−23日本代表を応援してもらいたい。彼らが固い扉をこじ開け、世界へと飛び出していくことを後押ししてほしい。