昨シーズン、18年ぶりのリーグ優勝、38年ぶりの日本一を達成した阪神。今年は球団初の連覇に大きな期待がかかるが、オープン戦最下位など不安もある。タイガースOBであり、キャンプ、オープン戦と視察した岩田稔氏に、2024年の阪神の戦いを占ってもらった。


オープン戦で打率.311をマークした阪神・前川右京 photo by Koike Yoshihiro

【青柳晃洋の完全復活に期待】

── 阪神にとっては、球団初の連覇がかかるシーズンになります。キャンプを視察されたとうかがいましたが、どんな印象を受けましたか。

岩田 岡田監督が目指す野球を選手たちが理解しているので、いい意味ですごく落ち着いている印象を受けました。メンバーもあまり変わっていないですし、昨年と同じ野球ができるかどうか、そこがポイントになってくると思います。そのためにも、まずはケガ人を出さないこと。そのうえで、昨年よりも選手個々がスケールアップしていけば、自ずと結果はついてくるはずです。

── 野球自体は変える必要はないと?

岩田 そうですね。昨シーズン2位以下を大きく引き離したわけですから、スタイルを変える必要はないと思います。投手に関しては、先発陣が試合をつくってリリーフ陣へとつないでいく。打者にしても、しっかりボールを見極め、つなぎのバッティングができるかどうかですね。

── ただオープン戦では9連敗を喫すなど、最下位に終わりました。

岩田 背伸びしたり、いつもと違うことをやろうとしたりすると足元をすくわれます。オープン戦では、いいところを見せてやろうと空回りしている部分がありました。シーズンに入ったら、それぞれの役割に徹すると思いますし、オープン戦のようなことはないと思います。チャンピオンらしくどっしりした野球をしてもらいたいですね。

── 昨年は、村上頌樹投手や大竹耕太郎投手といった、いわば新戦力的な選手がキャリアハイとなる成績を残しました。今年にかかる期待は大きいと思うのですが、逆にそれがプレッシャーになることはないでしょうか。

岩田 もちろんプレッシャーはあると思いますが、上積みしていかないとこの世界では生き残っていけない。彼らのポテンシャルからすれば、まだまだ成長できると思っています。村上については、昨年初めてローテーションに入って、最後まで走り切った。そこは大いに自信にしてほしいですし、もっとできたはずと思っている部分もあったと思います。村上や大竹が昨年同様、もしくはそれ以上の活躍をしてくれれば、連覇にグッと近づくんじゃないかと思います。

── リリーフ陣についてはどうですか。湯浅京己投手が早々と二軍調整になりましたが......。

岩田 岩崎(優)が中心となるのは間違いないでしょうね。岩崎という投手は、クローザーでもセットアッパーでも、どこのポジションでもこなすことができる。新外国人のハビー・ゲラをクローザーにして、岩崎をセットアッパーにすることもできるし、その逆もできる。リリーフ陣に関しては、まったく心配ないと思います。そこに湯浅が戻ってきてくれたらさらに厚みが増しますし、どんな展開になっても対応できるだけのメンバーは揃っています。

── キャンプ、オープン戦を見て、気になる若手の投手はいましたか。

岩田 高卒2年目の門別(啓人)です。ボールに角度があり、とくに低めの伸びがすばらしい。安定して低めにコントロールすることができれば、バッターは相当苦労すると思います。阪神は伊藤(将司)や大竹など左投手の先発はいますが、まったくタイプが違う。門別が出てくるようなことになれば、先発陣はさらに厚みが増します。

── ドラフト1位ルーキーの下村海翔投手はいかがですか。

岩田 今のローテーションでは、なかなかつけ入る隙がないのが現状です。これもプラスにとらえて、体力強化をはじめ、じっくり下で経験を積んでもらいたいですね。チャンスは絶対にあります。

── 投手陣に関して、今年やってくれるんじゃないかと期待しているのは誰ですか?

岩田 青柳(晃洋)ですね。2021年から2年連続最多勝のタイトルを獲得しましたが、昨年は8勝と悔しい思いをしました。それだけに今年にかける思いは強いはず。自主トレからしっかり体をつくり、キャンプでもいい球を投げていました。今年は大いに期待できると思います。

【前川右京を起用したいワケ】

── 野手についてお聞きします。まず、岩田さんの考える「2024年型のタイガース打線」はどんなオーダーになりますか。

岩田 基本的に昨年と変わりませんが、今年のオーダーはこうしました。

1番 近本光司(センター)
2番 中野拓夢(セカンド)
3番 森下翔太(ライト)
4番 大山悠輔(ファースト)
5番 佐藤輝明(サード)
6番 前川右京(レフト)
7番 坂本誠志郎(キャッチャー)
8番 木浪聖也(ショート)
9番 ピッチャー

── ほぼ昨年と同じオーダーですが、6番に前川選手を入れました。

岩田 前川は今年期待のひとりです。岡田監督のなかには連覇はもちろん、"常勝タイガース"を築きたいという思いがあるはず。昨年日本一のメンバーは比較的年齢も若く、まだ世代交代という時期ではないのですが、前川や井上(広大)といった若い選手を今のうちに育てておきたいと思うんです。前川は昨年も何試合かスタメンを経験しましたが、今年はもっと試合数を増やして、レギュラーを獲る気持ちでやってもらいたいです。

── 今年のタイガース打線のなかで、岩田さんがポイントに挙げる選手は?

岩田 テル(佐藤輝明)ですね。甲子園の浜風関係なく、スタンドに放り込める長打力はやっぱり魅力です。前を打つ大山は出塁率が高く、チャンスでテルに回ってくる場面が多い。ここでしっかり結果を残せば、阪神打線はさらに強力になります。昨年まではミスショットが多く、1球で仕留められなかったのですが、キャンプ、オープン戦を見ているとしっかりととらえている。テルが3割近く打率を残せば、自ずと本塁打、打点も増えると思います。

── 佐藤選手に期待する数字は?

岩田 打率3割、本塁打30本、打点は100です。まったく不可能な目標ではないと思います。テルがこれくらい打てば、相手バッテリーにかかるプレッシャーも大きくなりますし、違った形で得点のチャンスが広がる。

── キャッチャーは、昨年はシーズン終盤に梅野隆太郎選手がケガをするまでは、坂本誠志郎選手と併用でした。今年も併用するのか、それともひとりに任せるのか?

岩田 今年に関しては、坂本がメインになると思います。昨年は日本シリーズという舞台を経験し、キャッチャーとして大きく成長しました。ただ143試合をひとりに任せるのは、さすがに厳しい。その時に梅野を使うのか、それともほかのキャッチャーでいくのか。

── 昨年は2位に15ゲーム差をつけるなど独走しましたが、今年はどんな展開になると予想しますか。

岩田 ほかのチームも「打倒・阪神」で向かってくるでしょうし、戦力も補強している。シーズンが始まってみないとわからない部分はありますが、昨年のような展開にはならないと思います。ただ、先発が7回2失点以内に抑える投球を続けられたら、独走する可能性はあります。戦力的に見ても、ちょっと抜けている気がしますね。

岩田稔(いわた・みのる)/1983年10月31日、大阪府生まれ。大阪桐蔭高から関西大を経て、2005年に大学・社会人ドラフト希望枠で阪神に入団。3年目の08年に10勝を挙げて左のエースに成長。09年には第2回WBCの日本代表に選ばれ、世界一を経験。21年まで現役を続け、通算60勝82敗、防御率3.38。22年から阪神のコミュニティアンバサダー(CA)、日刊スポーツの野球評論家に就任。また1型糖尿病患者として、セルフマネジメントや1型糖尿病の認知拡大に向け、全国で講演を行なっている